継承するもの
ユウ視点
「ただいま」
慣れた詰所のドアを開けるユウ。
いつものニールさんの姿が見えない。
「ニールなら、彼女と喧嘩中」
教えてくれた情報を元に、現場へ駆けつける。
そこは、新しくオープンする予定の店の前だ。
「だから、店長が知り合いだから頼まれただけだって」
と彼女。
「だから。お前目当ての男が来るのが嫌だ」
とニールさん。
ユウが、声をかけるべきか悩んでいると。
「「どう思う!!」」
二人が同時にユウを見た。
「えっと、確かここって」
ユウがドラキナを見て確認する。
『例のスパイス屋の店じゃのう』
ユウによって引っ張られるように連れて行かれた二人がみたものは。
王都スパイス屋で面接を受けている、下半身が蜘蛛の女性たちの姿。
「ありがとう、もう売り子見つかったから。また食べに来て」
と店長に軽く言われ、沈黙する二人。
店を出ても、ほんの少し距離を開けて歩く二人。
おかげで彼女の。
「あー、あの制服可愛かったのになあ」
という小さな声は拾われなかった。
夕方。
ドラキナの、
『番は、番同士で話し合うのが一番じゃ』
というアドバイスを実行し。
また二人で家の屋根に乗る。
「静かだね」
視線の先には、王宮の人工的な光が煌めいている。
隣のドラキナは、ユウと変わらない大きさとなって隣で寛いでいる。
ふと、ユウの頭に昔大好きだった絵本の話が浮かぶ。
「むかしむかし、――人と異形は、一緒に仲良く暮らして居ました」
ドラキナは目を細めて続きを促す。
布に包まれたお兄さんと、蜘蛛の少女。
まさかそんな世界じゃ無いよなと、首を振りユウは続ける。
「ある日、人は言いました。お前の分を寄越せ。
異形も言いました。お前の持っているものの方が美味そうと」
月明かりの中、ドラキナの鱗も煌めきが増している。
ユウの頭の中に、あの母鳥の姿が浮かぶ。
「やがて、それは闇となり、世界を覆うようになりました」
ドラキナの羽がオーロラのように揺れて。
あの子供の頃の村の祭りの光景に重なる。
「そこにオーロラの橋を渡り、女神が降り立ちました」
ユウはドラキナを抱きしめる。
人魚のお姉さんが言いたかったのはもしかして。
「このままでは、世界が闇に呑まれてしまう。
その前にこの世界を分けましょう。
こうして、この世界は境界によって分かれたのです」
ドラキナは何も言わない。
遠くの方で、笛の音がする。
何事か確かめようとしたその時。
「確かに、あの時の光と同じだな」
ふと振り返ると、ラオスおじさんの姿。
もう、何年も会ってなかったような気がする。
『ふん。女神の残滓と同じにするでない』
そう言いながらも、ドラキナは嬉しそうだ。
「どうしたの?」
尋ねるユウ。
ラオスおじさんが、抱えている包みが気になる。
「ああ、エリーとコーディから預かってきた」
とユウに包みを渡す。
ユウが開けてみると、そこには、赤いマントと仮面。
ユウはしばらくそれを見つめる。
「????」
話が見えないユウ。
「コーディが言うには、恋の使いは何人居ても良いそうだ」
ラオスおじさんの補足でも意味がわからない。
『我らに縁結びでもせよと?』
ドラキナの言葉に。
今まで出会ってきた人たちの笑顔が重なる。
「楽しそう。やってみる!」
と満面の笑みをユウは浮かべた。
ここでいったん完結とします。
ここまで付き合ってくださった方ありがとうございます。




