餌の気持ち
ユウ視点
数日後
「ユウさん、今度の場所は、南西。湿地帯の街です。ユウさんの出身地は、確か北東でしたよね。これで、この国の全ての街は制覇したも同然です」
ギルドの受け付けの人の言葉に、目がぱちぱちとなる。
「そうなの?」
ギルドの人が地図を取り出す。
「まず、この地図の北東部。ここがユウさんの出身地辺境」
何度も見慣れた地図の左上の隅。
「最初の依頼に行っていただいたのが、南東部、港町」
地図の下部には海。左下まで続いている。陸地が始まった場所がそうだ。
「この前行っていただいたのが、北西部、草原の街」
地図の右上。そこから下った母鳥のいた場所には、砂漠が広がっているのが見える。
「そして、今度の場所が、ここ。南西部。湿地帯の街です」
地図の右下。そこまでは分かる。
「ねえ、この地図の外側には世界、ないの?」
ユウの問いに、ギルドの受け付けの人の声が少し小さくなって。
「この地図に載っていない先は、境界が広がっています。
下手すると、境界に呑まれます。
端的に言えば、戻ってこれなくなるということです」
忠告するような声に、ユウは頷くしか出来なかった。
「だから、うちは観光案内所じゃないからな」
ニールさんは、書類の山と格闘しながらユウに告げる。
「あそこに綺麗な姉ちゃん居ても近づくなよ、喰われる。
あと、そうだなあ。人喰いピラニアとか。
他はなんかあったか?」
ニールさんは近くの団員に声を掛ける。
「あの辺は確か、豆とじゃがいもじゃ無かったですか?」
ユウがメモを取るのを確認したニールさんは。
「今、忙しいからまたな」
と、詰所を追い出した。
ユウの旅支度も、ずいぶん様になった。
必要なものは、どの店に行けばいいかわかる。
おまけに、顔見知りの王都スパイス店のおじさんは、おまけもくれる。
「なあ、ユウ。今度、店出すんだ。肉パンの店。
店頭で、目の前で作る店にしようと思うんだが。
店頭で働けそうな若い娘知らないか?
せっかく制服まで用意したんだが、人が来ない」
一瞬。ナナの顔が浮かぶが、首を振る。
ナナは、絵本作家として忙しい。
~湿地帯の街~
湿地帯への道は、明るい商人のお兄さんと二人だった。
湿地帯の森の中で小さな集落を見つけ。
そこで女性達から、地元の名産の豆とジャガイモを使った手料理を振る舞われた。
そこまでは、ユウの意識にある。
ピッ
ドラきちの声に目を開ける。
隣には、大きな布の塊。
『我に喧嘩を売っておる』
やや怒り気味のドラきちの声。
『餌となる連れ合いを置いていけば、見逃すと言っておるが』
目の前には、先ほどの女性達の上半身と、下は蜘蛛のような姿。
どうやら、自分たちを餌と思われているらしい。
「ねえ、連れ合いって、商人のお兄さん?それとも…」
ユウがドラきちを見る。
少し考える。
「食べるとこ無さそうだけど」
ドラきちの身体が赤く光る。
『冗談を言っとる場合か!この場合の連れ合いとは。
お主と、なんか軽い男その二人じゃ!』
ユウが、塊を見ると、微かに動いている。
「まさか、あの塊って」
ドラきちが、近づいて来ようとする女性?達に炎で牽制する。
お互いの間に、炎の柱が出来た。
『あの軽い男じゃよ。助けるつもりなら、早くしてやれ』
ユウが、塊に触れると、絹のような手触り。
手のひら大の幅の布をくるくると巻き取って行くと。
幸せそうな顔をして眠っているお兄さんの顔が見えて来る。
「料理上手の嫁さんゲット」
夢の中でも、お兄さんはブレて無いようだ。
道中、
「ユウが女の子だったらなあ。美味しい飯食べ放題」
やら、
「この際、男でも…飯さえ美味ければ」
という物騒なつぶやきを思い出したユウは、再び布を巻き直そうと力を入れる。
その時、お兄さんの目がぱちりと開いた。




