食べ物か否か
ユウ視点
仕方なく、クラーケンの所まで飛び移る。
「うわっ。ヌメヌメ」
ねちょっとした感触。
クラーケンも、ユウの存在に気づいたようだ。
身体をうねらせ自分の圏内に引き込もうとする。
「ちょっ、うわっ、危ないよっ」
と言いながらも、確実に捕えられている1人の元へ。
「助かった」
ほんの少し力を入れると、その隙間から、その人は這い出てきた。
「じゃ、次行くね」
そのままぽいっと、その人を浜辺に投げると、また別の人の場所へ。
「そこに可愛い子いなかったか?」
というおじさんも、ぽいっと浜辺に投げる。
その頃には、異変を感じた冒険者の人たちも、浜辺で救助に当たってくれている。
何度か繰り返すと、クラーケンも本気を出したのか、赤く輝き出す。
「あ、歩きやすくなった」
ユウは、残りの1人を助けるために駆け出す。
それまでの動きで、クラーケンも学習したのか、ユウの行手を邪魔しようと触手を幾つも伸ばす。
「よっ。ほっ。ふいっ。あー楽しい。」
ユウにとっては、森で暴れる木と大して変わりない。
目的地まで、もう少しのところで居たのは。
「助けてください」
淡いピンクブロンドの可愛らしい女性。
こちらに向かって手を伸ばしている。
ユウが駆け寄ろうとしたその時、ドラきちが。
ピッ
と警戒するように鳴く。
「どうしたの?」
ドラきちは、警戒心露に炎を吐く。
いつものような種火ではなく。
ユウの身体と変わりない炎。
「ちょ、ちょ、やめなさいよ!」
クラーケンの足が焦げて。
そこから現れたのは、下半身が魚の姿の少女だった。
「もー、せっかくの自慢の髪が焦げたじゃないの!」
少女の怒りに合わせて、クラーケンもしょんぼりとしている。
「おーい、どうした?」
浜辺にいた冒険者のおじさんが声をあげる。
「僕にも良くわからなーい」
ユウは浜辺に向かって叫ぶ。
その頃。
「は?知らないわよ。そんなの」
ピッ。
「え?まあ。落ちた足くらいならいいけど」
ピッ。
「わかったわよ。もう人で遊ばないわよ」
ピッ。
と、肩の上のドラきちと少女が会話をしていた事には気づかなかった。
「じゃあ、肩の上に居る彼女さんが再び怒る前に、海へ帰るわ」
さっきまでの様子とは打って変わって、少女の笑みは溌剌としている。
「あ、そうそう。これ、あげる。どうせすぐに生えるし」
ぽいっと渡されたのは、先ほどドラきちが吐いた炎で焦げて落ちた、クラーケンの足の一部。
それだけで、浜辺を占拠しそうだ。
「でも…できたら、また遊んでね。じゃ」
クラーケンが海に沈むのに合わせて、少女も海へ潜っていく。
首をひねりながら戻ったユウに、浜辺に居た人たちは、次々に大丈夫か?怪我は?と尋ねる。
それより、ユウが気になったのは。
「ねえ、これって食べられるの?」
クラーケンの足のことだった。
「イカなら間違いなく食える」
港町のじいちゃんが言えば。
「いや、さっきまで襲ってたやつの足っ」
どうやら、さっきまで捕まっていたと思われる、全身ぬめぬめのおじさん。
「でも、誰も食われたことはないのう。そう言えば」
とおばあちゃんが言い。
「なんか、可愛い女の子がいるって喜んで出て行ったのは誰だったのかねえ?」
と、別のおばさんに言われ、ぎくっとなるおじさんの姿も遠くで見える。
「んー。じゃあ、確認したらいいの?」
ユウは目を瞑る。
コラジイが言っていたのだ。
『ペッカの食材を見分ける力は、マナを見ておるからじゃ。
本人は気づいていないようじゃが』
周りからはユウがほんのり光ったのには、昼間ということもあり気づかれていない。
ドラきちだけが、少し目を細めただけだ。
「うん。食べられる。
それもこれ、飛び切り美味しいやつ」
その一言に、周りの歓声があがった。
そして、焼く派、鍋派の少し小競り合いがあった後。
仲良く半分にして分け合うことになった。
「港町といえば、網焼きって決まっていたのによー。鍋もなかなか」
と、ぬめぬめを綺麗に落としたおっちゃんが言えば。
「網焼きって美味しいね。
村では、大人たちが酒のつまみ焼くくらいしかなかったけど」
とユウが返す。
お互い顔を見合わせると、ガッツリ握手を交わす。
周りでは、片手に串、片手にお椀を持った人もちらほら見える。
そして翌朝
「また来いよー」
という声を背に、残ったクラーケンの足を持って、王都へ帰る商隊と共に出発した。
ペッカじいちゃん、コラジイに関しては、村の様子で詳しく解説してます。




