番外編②姫の騎士
ラオス視点
ラオス×エリーの結婚後です
〜シェルガード家本邸〜
「いつになったら、跡取りの報告が」
開口一番の父上の声。
「そうね。結婚して1年あまり
…そろそろ出来てもおかしくないわ」
母上の追従。
ラオスは、一瞬目を閉じる。
軽く息を吸ってから、
「それに関しては、コラディウス医師より、もう少し待てとの指示です。
慎重に行くべきと」
父上の眉が上がる。
「それほど待たねばならんのなら、他の候補が居ただろう?確か、公爵家の…」
隣でミシリと言う音に、父上言葉が止まる。
「あら、私の決定に意を唱えるおつもり?」
珍しく、父上が固まっている。
「そうね。でも、コラディウス医師も、ずいぶんなお年よ?そろそろ隠居の…」
チラリと、ラオスの方を見る。
ラオスは、心得たように一礼をする。
「ええ、次は経験豊富な女性の医師もよろしいかと。
では、母上。そのように」
ラオスは、静かに退室した。
本邸を出たラオスは、身体の冷たさを戻すように、何度も手を開いたり、握ったりする。
そして、大きく息を吐くと、柔らかなスープの香りのする方へ歩いて行く。
「おかえりなさい」
いつもと変わりない笑顔。
「話があるんだが…」
ラオスが言葉を探す。
「火を止めて来ますね」
ラオスも、椅子に腰掛けその姿を眺める。
「不思議な村がある」
エリーが腰掛けたのを確認したラオスは、開口一番にそう告げた。
エリーの首が少し傾く。
考えている時の癖だ。
「そこは、変わった習慣のようなものがあるようだ。
一緒に一度確認してもらえないか?」
エリーの瞳が一瞬揺れる。
「ご飯、出来てますよ?」
フワリと笑い、立ち上がる。
「出発は、いつですの?」
思い出したかのように、問い。
「ああ、準備が出来ればいつでも」
ラオスの答えに、ふふっと小さな笑いが返ってきた。
そして、視察は無事終わり。
帰る道中までは、何事もなく。
シェルガード家の入り口辺りでエリーの異変に気づく。
ほんの少し、顔が赤い。
本人の、気のせいですわと言う声もいつもより、緩やかだ。
「失礼する」
ラオスの手が額に触れる。
熱いという程では無いものの、いつもより確実に上がっている体温。
「コラディウスを呼べっ」
馬車から降りた時のラオスの声は、叫びにも近かった。
診療に呼ばれたコラディウスは、一通りの診察をした後、
「これは、身体の抵抗力をあげるための反動に近いのう」
コラディウスは、眼鏡を外し、一息をつく。
「良い兆候じゃよ。ちゃんと繋ぎ止め、いや固定されよる」
ラオスに安心させるように微笑む。
「お前さんの、重さのせいじゃよ」
ラオスの顔が、苦虫を噛み潰したようなものになったのを見届け。
「でも、不思議じゃのう。
問いに答えし者であれば、むしろ、身体との結びつきは強固なんじゃがのう」
書類を書きながら、コラディウスは呟く。
「これは、早う村にいかんと…ただのう」
ラオスの方を見る。
「何故、あれほど引き継ぎの書類が多いんじゃ。
いつまで経ってもいけんではないか」
ペン尻で、トントンと机を叩く。
「私だけであれば、村まで半日ほどで移動が可能ですが」
ラオスの申し出に、コラディウスの顔が輝く。
「本当か!」
ラオスが返事を返す前に、扉の向こうから、助手の声。
「奥様より、薬湯をお持ちするようにと」
コラディウスが、助手の持った薬湯を見る。
「ふむ。ラオス、例のものは?」
ラオスが、慌てて光る草を乾燥させたものを取り出す。
「それに、これをこの量ほど混ぜよ。
多分、その方がすぐ効果が出ようて」
コラディウスの指示に、再び退室する助手。
エリーが目が覚めるまで、隣でいようとしたラオスを、助手が追い出し。
目が覚めたと聞いたラオスは、執務室の一枚も書けていない書類を置いて飛び出す。
「私、ですか?」
薬湯を飲み終え、少し落ち着いた様子のエリーに先程の話をするラオス。
「そうですね。シェルガード家の妻として、行くべきだと思いますが?」
エリーの言葉に、ラオスの目が少し見開く。
「前線に、出られるおつもりなのでしょう?
弟様の代わりに」
…何処まで、見てたんだ。
たったあれほどの間に。
声を失うラオスに、しばらくためらうように、エリーは目を泳がせる。
やがて、決意したように口を開いた。
「光は、鏡です。自分の裏側をすべて暴きます」
初めて聞く話だ。
「…問いに、答えた訳では無いのです。
未来に置いてきたのです」
エリーの声は、懺悔にも見えて。
「その代わり、約束しました。未来を必ず見るようにと」
…それであの時。
「大丈夫だと思う。あの村なら。
ペッカ殿を見よ」
エリーも思い出したのか、クスクス笑う。
「確かに。心配無さそうですね」
窓の外の月明かりから、少し離れた光。
光も満足したように瞬いていた。
視察の様子については、
全員集合!
全員整列!
を参考にしてください。




