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境界  作者: はらぺこ姫
第3章
26/50

語り継がれる絵本

暖かな色をした満月が、窓から見える。


「早く寝なさい」


エリーお母様の声がする。


リリーは、急いでお布団の中へ潜り込む。


布団の中で、リリーはゆっくりと目を瞑る。


窓の外では、

風にゆれる木の音。


エリーお母様の座るギシッという音。


開かれる絵本。


「……むかしむかし、世界はね」


物語を読むときだけ、ほんの少し変わる声。


リリーを眠りに誘うように、ゆったりと、柔らかく。


「人と、異形とが、

 いっしょに暮らしていたのよ」


異形ってなんだろう…。


ナナお姉ちゃんは、ドラコのことだと言ってたけれど。


絵本の絵と違う気がする。


角のあるひとと、人の子どもが、笑顔で同じ鍋をのぞきこんでいる挿絵。


でも、お鍋は好き。

皆で食べると美味しい。


―美味しいものは、美味しい。


月の光と、

火のゆらぎと、

鍋の残り香と、

ページをめくる微かな音。


やがて、

火が小さくなって、

ページの音が止まって、

エリーの呼吸が、ゆっくり一定のリズムに代わる。


その時、遠くの方で音がする。


「もう、リリーは寝たのか?」


ラオスお父様の声。


「ええ、この絵本になると、すぐ」


エリーお母さんは、お腹を庇うように立ち上がる音がする。


「あー。大丈夫か?」

「ええ、今日初めてお腹が…」


リリーは、目を開けたいけど


…抗えずにそのまま眠りの中へ。


窓の外の木々の揺らぎの間に

ひとつだけ、影にならない光があった。


月明かりよりも、少しやわらかくて、

火の明かりよりも、静かな光。


それは、窓のそばにとどまって、

中をのぞくように、揺れている。


その光に気づく者はいない。


部屋の中で、

エリーがカーテンを閉める。


月の光が、窓から消えた。


カーテンが閉められたのだと、

リリーは、眠りの底でぼんやり思う。


それで、少し、あったかくなった。


そのとき、

窓のそばの光が、ほんの少しだけ強くなって、


とても小さな声で、言った。


「……あったかい」


少し、間があって、


「……やっと会えたね」


誰に向けたのかも分からない、

寝言みたいな声だった。


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