何かが変わった日
いつものように、村の入り口に降り立った、ラオスは眉を顰める。
普段なら、やかましいほど響く子供の声。
何かを作る音。
鍋の香り。
それらが、一切感じられない。
村の中央に来た、ラオスの顔を見た村人の一人が。
「ラオスさん、エリーさんが…」
すべてを聞き終える前に、ラオスは、駆けだしていた。
コラジイの家の前には、人だかりができている。
「リリーの様子は?」
聞くたびに、要領を得ない話ばかり。
食事を作っている最中に気分が悪くなった。
急に、座り込んだ。
おっちゃんが、慌ててコラジイのもとに連れて行った。
おめでとう?
扉の前でラオスは、一度大きく息を吸い込む。
すると、中から声がする。
「ふむ。マナの揺らぎから間違いはないじゃろうが…。
まだ、安定しておらん。今が大事な時じゃ。判るか?」
吐いた息とともに、ノックをする。
「おお、過保護の男が来おった。おい、聞いての通りじゃ。
―あとは、お前さんの決断次第じゃよ」
モノクルを外したコラジイが、和らかな笑みを浮かべ言う。
ラオスは、エリーの肩に手を置く。
変わらず、華奢な体。
「耐えられるのか?」
視線はコラジイの元へ。
「準備ができておるから、"来た"んじゃよ。
それ以上でも、それ以下でもない。
ただ、無理は出来ん。それは、どの身体でも同じじゃ」
エリーの手が、ラオスの手に重なる。
「大丈夫です。あの時、私は言いました。
未来を見せてくれますか?と」
ラオスの手に、わずかに力が入る。
「ラオス様は、言いました。
一緒に未来を探しに行こう…と」
視線は合わない。
ただ、今までになく感じる力強さ。
「こういう時のおなごは強い。わしの医者としての経験が語っとる。
心配いらんよ。―ここにおる限り、わしが全力を尽くしてやる」
コラジイの言葉も力強い。
ラオスは、コラジイに騎士礼で返す。
そのまま、踵を返した。
家の外では、何か言いたげな人だかりがまだいる。
その中で、ラオスの馬を連れたおっちゃんの姿を見つける。
「おい。頼んだ」
おっちゃんは、ひらりと手を振って。
「早く行け。さっさと行かねえと生まれちまうぞ」
軽く、馬の尻を叩く。
馬のいななきと共に走り去る影。
取り残された村人たち。
「あー。なんだ。生まれてくるのが、王子様でもお姫様でも…。
偉いお方にはな、いろいろ手続きがいるんだよ」
おっちゃんの言葉に、子供たちが歓声を上げる。
コツッ。
「うるさいぞ。静かにせい。まだ診療は終わっとらん」
コラジイの声。
子供たちは、慌てて口を押える。
村人たちは、頷き合うと、祭りの準備にそれぞれ走っていった。




