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境界  作者: はらぺこ姫
第3章
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医師の日常

コラジイ視点

コラジイが目を覚ますと、真新しい木の香りと、

少し煤けた柱が目に入る。


「ふむ」


コツッ。


杖を手に、外へ出る。


外はまだ少しほの暗い。


「薬草は、…まだ光っておるようじゃのう」


目を細め、モノクルを取り出す。


常人には見えない、僅かなマナの揺らぎ。


「そうか」


小さく頷く。


作業台へと向かう。


木の実やら乾いた葉やらをすり鉢に入れ、


ゴリゴリとすり潰す。


それを火にかけたミルクに無造作に放り込む。


少し匙でゆっくりかき混ぜ、


ひと口。


「…健康に良さそうな味じゃのう」


満足とも不満ともつかぬ声。


そのまま器によそい。


食事の時間となる。


「今日も上出来じゃ」


食器を洗っていると、

外でリアカーの軋む音。


「なんじゃ、今日はあれは、ないんかのう?」


入り口でペッカじいちゃんが

残念そうに顔をのぞかせる。


「ぬかせ。昨日味がせんと、砂糖やら塩やら足したのは誰じゃ」


言いながらも、


すり鉢に木の実を入れている。


ゴリゴリ。


横から、ペッカじいちゃんが何かを入れようとする。


黙ってすり鉢を上にあげる。


「あら、足りないもの持ってきましたわ」


エリーが籠を抱えて入ってくる。


干した果物やら、塩や砂糖など。


「おお、そこの我儘爺にこれでも出してやれ。わしは忙しい」


エリーにすり鉢を押し付けると、

コラジイは奥に引っ込む。


そして昼。


肩が凝った気がするやら。

孫の自慢やら。

今日の昼飯を渡されるやら。


忙しい時間を過ごし、


コラジイが弁当を広げた、その時。


「コラジイ―。これみてー」


「これ、何―?」


子供たちが駆けてくる。


「お前ら、ちゃんと親には言ってきたんか。この前―」


一人が、ぎくりとする。


「違うよ。あれは、たまたま、コラジイに見せたくて」


他の子供たちも、ぶんぶんと頷く。


「そうそう。ちゃんと言ってきたから大丈夫」


「それより、ほら。これ、何の実なの?」


賑やかな声が重なる。


コツッ。


一瞬で、静まる。


「わしは一人しかおらん。言うなら順番じゃ」


子供たちが、列を作る。


「その木の実は、茹でて皮を剥けば、甘味になる。生は腹を下す」


「えー。すぐ食べちゃだめなんだ」


しゅんとしつつも、次に譲る。


「これは?」


「それは、人の食うもんじゃない。鳥なら食える。鶏にでもやれ」


「わかったー」


子供たちは満足すると、

先を争うように駆けていった。


一瞬にして辺りが静かになる。


「さて、昼飯の時間じゃのう」


コラジイは、弁当を開きかけ、止まる。


「うまそうじゃのう?」


ペッカじいちゃんが、いつの間にか隣に座っている。


コラジイは、黙って辞書で弁当を隠した。


そして夕方。


「あー。行くぞ」


おっちゃんの声。


いそいそとリアカーに乗るペッカじいちゃん。


コラジイも、乾燥した薬草などをリアカーに積み込み、


自分も乗り込む。


「最近、年寄りがこんようになったのう」


コラジイの声に、おっちゃんが気まずげに頬を掻く。


「あー。…コラジイの研究の邪魔しちゃいけねえ、って若いもんに止められてるらしい」


ふむ。


隣のペッカじいちゃんを見る。


「これがおるなら、あと何人おっても変わらん」


ペッカじいちゃんは知らん顔で鼻歌を歌っている。


「日頃の運動不足は万病のもと。来るように言っとけ」


おっちゃんの


「コラジイが言った方が…」


という抗議の声は、


「ぴよぴよぬかすな」


の一言で消えた。


「今日もバランスが良い。良き良き」


機嫌よく器を受け取る。


「…なんで、隣におるんじゃ」


いつの間にか、ぴたりと横に座っているペッカじいちゃん。


「当たり前じゃ」


言い終わる前に。


「コラジイ様。これ、よろしければ」


目の前に果物。


「この前はありがとうございました。熱が出て…」


今度は、焼き菓子。


「じいちゃん。ほら、世話になってるんだから」


さらに焼けた肉の塊。


「わし、そんなに食えんぞ」


とかいいつつ、ペッカじいちゃんが手を伸ばす。


ペシリ。


少し辺りを見回すコラジイ。


「あー。エリー。ちょうどよいところに。

これをやろう。わしでは食べきれん」


少し離れたところにいたエリーを呼び寄せる。


「いいんですの?」


二人を見比べるエリー。


「ああ、年寄りにこんなものばかりは、胃にこたえる。

それに…勿体ないからな」


「わしはまだ食える!」


抗議を無視。


「では、失礼して。いただきますね」


エリーは、肉を小さく切り分け、ひと口。


「残りは、ほら。

やきもきしとる男にでも食わせてやればよかろう」


村の入り口から、馬のいななき。


エリーの足取りが、ほんの少し軽くなる。


ペッカじいちゃんは、その背を見送りながら、


「わしの分は?」


コラジイが、黙って鍋の器を渡す。


「お前は、これで十分じゃ」


夜風が、二人の年寄りの間をすり抜けた。

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