常識を信じる村人の朝
村人視点
カーン、カーン、カコン。
俺の日常は、朝の薪割りから始まる。
霧の向こうにある家の方からは、嫁の焼く肉のいい匂いが漂う。
どうやら、今日の子供達の弁当は、人気の肉のようだ。
この村では、他所の村と違って、若い者が出て行っても、何故か料理が上手い連れ合いを連れて戻ってくる。
かくいう、俺もその一人だ。俺の嫁の出す料理が一番美味い。
俺の嫁も、この村に最初は戸惑っていたようだが、今では、すっかり産まれた時から、この村にいましたけど?と言わんばかりに馴染んでいる。
俺が、嫁との馴れ初めを思い出している時、
「うぉーい」
親父の声だ。
親父の朝は、鶏、牛に続いて始まる。
「うおーい」
2度目の親父の声。
親父、すまん。俺は忙しいんだ。
カコン、カコン、コーン
カコン、カコン、コーン
カッ、カッ、コーン
あ、今、隣に住むおっちゃんが、無事なんとかしてくれたようだ。
カコン、カコン、コーン
安心した、俺は、残りの作業に勤しんだ。
無事作業も終えて、朝ごはんには、俺の好きなスープ、おっちゃんの好きな木の実パン。
確かあれは親父の好物で、って案の定、親父の手が、嫁とおっちゃんで話している隙に伸びている。
「おいっ、この前詰めかけて皆に迷惑かけたの忘れたのかっ」
バツの悪そうな顔をする親父。
「パン粥ばかり、飽きた」
他の物より硬いパンなんぞ食べさせて、何かあったら、お袋が化けて俺の枕元に出かねない。
隣では、嫁が弁当を差し出している。そういや、今日のメンバーは、あいつとあいつか、なるほど。
「今日は、ほら見てください」
心得た嫁は、親父の好みのものを用意したようだ。
「そうじゃのう。今日は好物だし行くかのう。そういや、この前の鍋の具は、誰じゃ、石なんぞ鍋に入れおってからに。美味い、不味い以前に、鍋に食えんもの、入れるでねぇ」
ブツブツ言いながらも、出掛ける準備を始める親父。
隣で食べていたおっちゃんは、とっくに二度寝に戻ったようだ。
元気な頃は、採取が村一番だった親父だ。今でも、食える、食えないは、本能レベルで判断が出来る。安心して任せよう。
リアカーに、過去の記憶より少し小さくなった親父を乗せる。
外にいる他の、年寄り連中をみた途端、
「他人の食いもんに手、出すな、トイレは早めに言え、それから」
本当に言いたかったのは、ああそうだ。
「今日も無事に帰って来いよ。じゃないと、皆に迷惑が掛かる」
その時の、俺は知らない。
自分の親父が変なもん食って、ペカーと拳を突き上げ戻ってくる未来を。




