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境界  作者: はらぺこ姫
第2章
14/20

弁当争奪戦

朝、ペッカじいちゃんはニワトリの声から始まる。


「うおーぃ」


台所からは、朝ごはんを作る良い匂いと、忙しなく包丁が刻む音。


「うおーぃ、誰かおらんか」


今度は少し強めに呼びかける。


外からは、薪を割る音と、カランカランと木の音が答えるだけ。


ふむ。ペッカじいちゃんは考える。


今度は窓の方を向く。


「うおーい」


物音はした。

よし。


「トイレ連れてってくれんかのぉ〜」


今度は、窓が開きおっちゃんが顔を出す。


「だから、トイレは家のもんに、って、こらっ脱ぐな。わかったわかった。連れてってやるから」


スッキリした顔のペッカじいちゃんと、ゲンナリした顔のおっちゃんが台所から顔を出す。


すでに息子夫婦が朝ごはんを用意して待っていた。


「いつもすいませんねぇ。良かったら、朝ごはんでも」


目の前には、おっちゃんの分の皿もコップもさも当然のように置かれている。


隣では、じいちゃんが既に食べ始めていた。


「食わんのか?どっか調子悪いんかいの?」


渋々といった体で座るおっちゃん。


大好きな胡桃パンが乗せられている。


朝食を終えた後の、おっちゃんは二度寝を決め込む。


そこに、今日の冒険組の子供達がやってくる。


「おっちゃん!いつまで寝てんだよ〜」


「朝、ちゃんと起きないとダメでしょ」


村の子供達に布団を取り上げられるおっちゃん。


「だってよぉ」


という言葉は、子供達に黙殺された。


家を出たところで既にリアカーに乗ったペッカじいちゃんが待ち構えている。


「今日はオムレツじゃろう?わしも冒険に行くぞ」


後ろで子供達のヒソヒソ声。


「じいちゃんこの前、きゅうりサンドの時には来なかったよ」

「俺、肉全部食われた」


息子が申し訳無さそうにおっちゃんに頼んでいる。


「もう行くって聞かないんです。お願いしますね」


子供達の中で、任務が一つ増えた。


今日の弁当死守!!


薬草畑組と別れた後、おっちゃんが子供たちの前で腕を組む。


「お前ら、今から村の仕事で洞窟前まで行く。約束事は?」


テンションが下がる子供達。


「弁当を食う」


ヒョイヒョイと手を挙げるペッカじいちゃん。


「じいちゃんには聞いてない。そもそもなんで参加してんだよ」


だって冒険者だもん。とぷうぷうとほおを膨らますペッカじいちゃん。


「大人から離れない、洞窟には近づかないだろ。早く行こうぜ」


ガラガラとリアカーを引く一行は洞窟の前に辿りつく。


「約束ごとは?」


もうなん度目かの問いに、とうとう子供達がキレる。


「わかってるって!!」

「何度も言わせないで!!」


そこでおもむろにじいちゃんが手を挙げる。


「じいちゃん、弁当は洞窟の後だ」


股間を押さえモジモジするペッカじいちゃん。


「トイレタイムまだかのう?」


そして、少しのドタバタした間があった後、


「うおーい。弁当じゃ、もうわしは腹が減ったぞい」


今日も、柔らかく頬を撫でる風。


足元には綺麗な花。


湖は太陽の光を受けてキラキラとしていて…。


それを尻目に、いそいそと弁当を広げるペッカじいちゃん。


子供達は少しじいちゃんから距離を取って弁当を広げる。


弁当の中は子供達が大好きな、一口大に切ったオムレツたち。


それにクロワッサンとピクルスだ。


「美味そうじゃのう」


キラーんとペッカじいちゃんの目が光る。


瞬間、子供達の弁当からオムレツが消えた。


一拍置いて、


ごっふおー。


ペッカじいちゃんがムセる。


「じいちゃん、だから人の弁当は取るなって!

しかも、全部口に入れやがって。

…もうお前ら、水、水」


背中を叩きながら、おっちゃんが指示を出す。


子供達は、自分のオムレツを奪われたことよりも、目の前のペッカじいちゃんの様子にワタワタしている。


「お前ら、ほら俺の分食え」


おっちゃんは、子供達に自分の弁当を差し出した。


ペッカじいちゃんは、隣でヒーヒー言っている。


「おっちゃんの分は?」


心配そうに一人の子供が聞く。


おっちゃんは、ゆっくりペッカじいちゃんの背中をさすりながら、


「心配ない。俺は…って、お前らなにしてる?」


おっちゃんの弁当には、オムレツの代わりにピクルスの山。


「おっちゃん、お酒ばっかりは体に悪いよ?」

「俺達、代わりにおっちゃんにピクルスやるわ」


当然、といわんばかりにオムレツを頬張る子供達。


湖が、ゆっくり夕闇に染まる頃、薬草畑の草が足元を照らす。


今日の冒険の成果を話す子供達、それに相槌を打ちながら帰り支度をする年寄り達。


おっちゃんと、ペッカじいちゃんは、薬草畑の前で皆が来るのを待っていた。


しばらく続く無言。


遠くでは、まだまだ話し足りなそうな子供の声。


ペッカじいちゃんは、おもむろに目の前の光る草をむしる。


おっちゃんは、ピクリと眉をあげたものの、その様子を眺めるだけだ。


「ほれ、これをやる。腰、痛いんじゃろ?」


おっちゃんの手には、光る草。


「これは、腹が痛いという時に飲む草でって!?」


ペカーと拳を突き上げ、リアカーの上ですっくと立てるペッカじいちゃん。


リアカーがグラグラと揺れる。


「皆など待っておれん。わしは一人で帰るんじゃー」


リアカーのフチから飛び出そうとするペッカじいちゃん。


「だから、その草食べてなんで歩けるんだよっ。ちょ、まて、まて、もうすぐみんな来るから、って、あいたあ」


ゴキリと言う音と共に、地面に倒れ込むおっちゃん。


月と太陽が同じバランスで空を染める頃、帰って来る皆を待っていたユウが見たものは。


仲良くリアカーに乗った、おっちゃんとペッカじいちゃんであった。

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