新たな友達
気持ちいい風。
お弁当を食べた後は、いつも少し眠くなる。
湖は、今日もキラキラしている。
おっちゃんは、大の字になってお昼寝中。
時折、大きないびきが聞こえる。
ユウは、何かの本を読むのに夢中だ。
私は、少し退屈。
でも、ちょっと探しているものがある。
「あ、いた〜」
いつもの茂みの向こう。
ちょうちょ、だと思う。でも、ちょっと大きい。
最初に見つけた時は、見失ったけど。
次に会ったときは、逃げられて。
少し目が合うようになって、時々お互いを観察してる。
今日は、どこまで近づけるかなあ。
「ねえ、遊ぼ?」
初めてかけた言葉に、固まるちょうちょ。
逃げるかどうか悩んでるみたい。
「だって、1人じゃつまんないでしょ?だから、遊ぼ」
さらに声をかけてみる。向こうのちょうちょも、私と同じ方向に傾いた。
お友達と仲良くなる方法、何かあったかな。
「あ、そうだ。オヤツがあったんだ。ちょっと待ってね」
ちょうちょは、不思議そうに私の動きをみている。
「あげる。これ、美味しいよ?」
手のひらの上には、私の大好きなクッキー。
ユウや他の子には絶対あげない特別なやつ。
「どうかな?」
ちょうちょは、辺りを見回す。誰もいないよ?
「ん、」
もう少し腕を出す。
ちょっと近づくちょうちょ。
「美味しいよ?」
ちょうちょは、やがて覚悟を決めたように匂いを嗅ぐ。
そして、恐る恐る端っこの端っこを口に入れた。
サクリ。
口の中で、クッキーが解ける。
少し上目遣い。
「全部食べていいよ?」
私が頷くと、少し大きな口と、牙が見える。
でも、器用にクッキーだけぱくり。
「美味しいでしょ?でも、内緒だよ?」
コクコクと頷くちょうちょ。
口の中の形が、クッキーの形になっている。
ちょっと面白い。
その時、
「ナナ―。そろそろ帰るよ~」
ユウの声だ。
「ナナ、何して、え?」
ユウはびっくりしたように、私とちょうちょを見比べる。
「ちょうちょだよ」
だよね?と振り向くと、私の腕の後ろで、ふるふる首を振っている。
「おーい、何してる?って、おま、それ」
おっちゃんも寄ってきた。
ますます、私の腕にしがみつくちょうちょ。
「ナナ、あれはちょうちょじゃない、ドラキーと言ってだな」
どら、きー???ちょうちょじゃないの?
「ナナ、なんか食わせたか?」
おっちゃんの顔が少し、怖い。
ナナと、ドラキー(ていうらしい)は、一緒に首を振る。
「だから、それはモンスターでって、だーっ」
おっちゃんは、片手を顔に当てている。
「ドラキーを手なづけやがった。もう、意味わからん」
おっちゃんはしばらく、うんうん唸る。
後ろでドラキーもおっちゃんの真似をしている。
やっぱり可愛い。
隣で、ユウがドラキーをちょんちょん突いている。
「これ、ドラゴンの子供かな。家に帰ったら図鑑で調べて…」
やがて、おっちゃんが諦めたようにため息をついた。
「野生のものは、野生のまま、村の大人たちが言ってただろう?」
なんかそんな話、聞いたような?でもそれ、動物の話、だよね?
「とりあえず、今日は帰るぞ」
おっちゃんが、私とドラキーの間に手を入れる。
ここでお別れ?ちょっと寂しい。
向こうも寂しそうにこっちを見ている。
帰り道。
ちらちらと後ろを振り返る。
「まだ、付いてきてるね」
ユウがこそっと言う。
おっちゃんに気づかれちゃ、だめだよ。
そんな気持ちを、ドラキーに送る。
ドラキー、ちょっと隠れる。
良かった、伝わったみたい。
村の煙が見える。
そこには、ラオスおじちゃんが、ほかの人と話をしていた。
「おいっ、何を」
「待て、落ち着けって」
遠かったはずのラオスおじちゃんと、横にいたはずのおっちゃん。
瞬間移動したみたいに近づいて揉めている。
「ねえ、何の話?」
ユウが、何も判らないふりをして、声を掛ける。
今だ。
ナナは、とっさにドラキーのところまで走る。
「大丈夫だからね」
腕の中で震えるドラキー。
よしよしと頭を撫でる。
「な、言っただろ?」
「…確かに害は、ないのか?」
そのあと、小声で話し合う二人。
「おー、なんかちまいのがおるのう」
鍋のところで、声がする。ペッカじいちゃんだ。
「ねー、可愛いでしょう?見て―」
ドラキーは私の頭の上で、ちょっと自慢そうにポーズを取っている。
「図鑑、取ってくるー」
ユウは家の方に走っていった。
「お、おい」
「村に入れる判断は…」
村の入り口で声が聞こえるけど、鍋の音ではっきり聞こえない。
「食っていいもんと、いかんもんの区別はつくかのう?」
頭の上にいるドラキーに、鍋をかき混ぜながら聞くペッカじいちゃん。
「クッキーは食べたよ」
あ、言っちゃった。慌てて口を押える。
ドラキーも同じ真似。
「そうか、なら、食うてみるか?熱いぞ?」
ドラキーに匙を差し出すペッカじいちゃん。
「どう?食べられる?」
頭の上のドラキーを、そっと地面に降ろす。
ドラキーは、私とペッカじいちゃんの顔を見比べた後。
まるで、ふうふうするみたいに匙に息をかけている。
「おお、真似しよったか。賢いのう」
目を細めるペッカじいちゃん。
一口食べたドラキーの顔がパッと輝く。
「美味しいよね、お鍋」
私は、自分の分の器を貰おうと立ち上がる。
そこに。
「図鑑持ってきたよー」
ユウが図鑑を抱えて走ってくる。
近くにいた子供たちも皆集まってくる。
「ドラゴンじゃね?」
「でも、小さいよ?」
「ドラキーって言うんだって」
「ドラゴンの子供か?」
皆で口々に、図鑑とドラキーを見比べる。
ドラゴンの子供…んー。
「ドラコ、かな?」
自然に口に出る。
なんかしっくりくる。
「ドラコか。そーかも」
「うん、ドラコだね」
他の子供たちも同じようだ。
ドラキーを見ると、うんうん頷いている。
「あ、やりやがった」
「ここまでくれば、ちゃんと条件が…」
鍋の向こうで声がする。
無事順番が来て、私の器に、注いで貰って。
あ、ドラコの器がない。
「ほら、お前の分はこれだ」
いつの間にか、おっちゃんが、小さい器を持って立っている。
器には、”ドラコ”の文字が。
そっとドラコの前に置くおっちゃん。
ちょっと警戒気味のドラコ。
それをじっと見つめるラオスおじちゃん。
目は離さないまま、おもむろに私に、手を出す。
リボン?
「迷子になったら困るだろう?ちゃんと付けるように」
私は、ドラコの首にそっと付ける。
ドラコは嬉しそうに、くるりと回る。
「早う食わんと、不味くなるぞー」
ペッカじいちゃんの声。
ドラコは、既に食べている。
私も慌てて、ドラコの隣に座った。




