キノコの謎
ユウ視点
今日こそ。
ユウは図鑑をぐっと握りしめる。
今日こそ、食べられるキノコをちゃんと調べないと。
いつものキノコの森。
ペッカじいちゃんは迷いなく、キノコを指さす。
おっちゃんは、何の疑問もなさそうにキノコを採る。
時々、ナナやユウが
「これは?」
と持って行っても、
おっちゃんは袋の口を開けない。
入れてもくれない。
意味が分からない。
だから、今日こそ。
図鑑で調べる。
リアカーに図鑑を置くユウを見て、
ペッカじいちゃんは、目を細める。
「懐かしいのう。
昔は、わしもこうやって見たもんじゃ」
ユウの頭をなでる。
ちょっとごわごわした手。
ちょっとくすぐったい。
「でものう。食えるもんが、美味いとはかぎらんぞ」
ペッカじいちゃんの視線の先には、鍋があった。
「これは食べられる。これは、あー、舌がピリッとするって書いてある」
ユウが図鑑とにらめっこしている横で、ナナがキノコを次々と持ってくる。
時折、おっちゃんがナナの手を止めているのは、毒があるキノコだ。
「そういや、じいちゃん、そろそろアレの時期じゃ?」
ペッカじいちゃんがひげを撫でる。
「そうじゃのう。そういや、もうそんな時期か。頼めるか?」
ユウとナナが二人の顔を見比べている間に、おっちゃんの姿が消えた。
「さあて、お前さんたちは、このキノコをちゃんと見分けられるかのう?」
見た目だけで選ぶナナは当てにならない。
ユウは拳を握りしめた。
案の定、ナナはすぐ飽きて、近くで木の実を拾っている。
「これは、あちゃー。お腹が痛くなるって書いてる」
その時、ガサリと音がして、おっちゃんが戻ってきた。
「ねえ、何採ってきたの?」
少し目を逸らすおっちゃん。
「薬酒の元だよ。大人用の薬だ」
ナナが、あー。と顔をしかめる。
「苦そう」
怪しい。
ユウは、あとでこっそり舐めてみようと心に誓った。
「残念ながら、三か月は寝かせんといかん」
ユウの顔をみた、ペッカじいちゃんが、ぼそりと言う。
…聞こえなかったことにする。
そして、村に戻った後。
「今日は、キノコいっぱいだねぇ」
ナナが嬉しそうに笑う。
「ほら、おじいちゃん、食べる前にトイレに行かなくていいの?」
鍋の前を陣取るペッカじいちゃん。
ユウは図鑑と鍋を交互に見る。
「コレは食べられる。
コレは…鍋にいれていいの?」
その横で、ナナが“食べられる側”を次々と放り込む。
「こ、コレは?」
昼間にはわからなかった。
暗くなってわかる光るキノコ。
「キラキラだねえ」
ナナの採ったやつだ。
「食べられるんか?」
「いや、でも…?」
顔を見合わせる村人達。
その時。
「うんめぇ」
場違いな声。
それと共にペッカじいちゃんは、鼻歌とともに立ち上がる。
タン、タン、くるり、タンタタン。
再び顔を見合わせる村人達。
「これは、じいちゃん行きだな」
「だな」
鍋が、グツグツ煮える音。
遠くで
「おっちゃん呼んでやれー」と誰かの声。
踊り終えたペッカじいちゃんが、何事もなかったかのように、元の場所に座る。
「それよりも、晩御飯はまだかいの?」
ユウは、もう図鑑を引く気にもなれなかった。




