崖からの道しるべ
おっちゃん視点
ペッカじいちゃんとおっちゃんの出会い
ほんの少しの土の匂いに交じって、風が止まる。
俺は、視線を上げる。
前を歩いていた旅人が、消えた。
音が遅れて、落ちていく石の音を拾う。
ガラガラ。
何、と頭が働くより先に俺の体は動き出していた。
崖の端から、さっきの旅人が消えた方向を覗く。
見えた。下だ。
視界に入ると同時に、体が飛躍する。
途中の草を、掴む。
ズサッという音とともに、岩を蹴る。
ザーっと勢いに任せて、滑る。
目論見通りの位置で、止まる。
旅人は動いていない。
ざっと目視では、大きな血は流れていない。
首に指を当てる。
脈は……ある。
軽く、肩を叩く。
うっ。
うめき声。
「おい」
声をかける。
動こうとして、痛みに顔をしかめる旅人。
痛めたのは、足…か。
「腹、減った」
話ができる。じゃあいい。
脇に腕を通し、旅人を担ぐ。
このまま、降りてきたほうは…無理だな。
ふと、鼻腔をくすぐる、腹に訴えかける匂い。
反対方向からだ。
あっちなら行ける。
その匂いを道しるべに、歩く。
靴が石に当たる音。
布が擦れる音。
途中で、咳が聞こえる。
「年はとるもんじゃねぇな……」
かすかなしわがれた声と、風の匂いが変わる。
煙が見える。
火のパチリ、パチリという音がする。
そして、道しるべでもあった、鍋の姿。
火の前に、じいさんが座っている。
じいさんの隣にはリアカーがある。
「……」
じいさんがリアカーを指す。
そこに旅人を横たえ、お礼を言う。
じいさんの腰元の葉が目に入る。
「すまないが、その薬草を…」
それに被せるように、
「薬は苦手だ」
断固として、拒否の姿勢をみせる旅人。
さて、どう説得しようか。俺は少し考える。
その横でじいさんが、薬草を鍋に放り込む。
「それは火にかけると、苦いと有名で…」
じいさんは、鍋をかき混ぜながら気にしない。
「食えるならええ」
食えるなら、って、わざわざ不味くしないでも。
やがて、鍋をかき混ぜ終えたじいさんが、器にすくう。
何も言わず、旅人に出す。
旅人、おそるおそる一口飲む。
最初の戸惑いが嘘のように、勢いが止まらない。
俺の目の前にも、器。
ほっとするような、懐かしいような、味。
二人が飲み終えたのを確認して、じいさんが立つ。
リアカーを支えにして、少し、危なっかしい姿。
自然と、じいさんをリアカーに乗せ、自分がリアカーを引く。
じいさんが指さす方向には、明かりのついた村――。
そして…。
ああ、鍋のいい匂いがする。
「おっちゃん!起きて!」
ユウの声。それに被せた父親の声が響く。
ああ。あの時のお前も、ここに残ったな。




