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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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8.お世話係に立候補

 ほとほと困り果てた様子で、邪竜様が提案した。


「とりあえず、人間のいるところまで連れてってやるか。どこがいい?」


「邪竜様、この森から出られるんですか? 結界で閉じ込められてるって聞いたんですけど」


 邪竜様が不機嫌そうに顎を上げる。


「結界? あんなもん効くかよ。俺は別に閉じ込められてるわけじゃねえ、ここが静かで気に入ってるってだけだ。辺鄙すぎて誰も近寄らねえのがいい。俺は人間が嫌いだからな」


「そ、そうなんですね」


 誰も寄り付かないのは邪竜様が恐れられているせいでは、と思ったけど、口には出さないでおく。


「希望の行き先を言え、どこでもいいぞ。アスダールの王都でも、どこかの田舎でも……ああ、アスダールは嫌か、お前をバケモノの餌にしようとしたやつらがいるもんな。隣の国まで飛んでやろうか」


 邪竜様、親切。

 だけど希望を聞いてもらっても、そもそも私、この世界の人間じゃないし、どこがいいかなんて皆目見当もつかない。

 言葉がわかるのは幸いだけど、知り合いもいないし、お金もない。習慣なんかもわかってないから、仕事を探すのも大変そう……。


「ネー、ネー」

 

 考えこんでいる私のシャツの袖を、妖精ちゃんのひとりが小さな手で引っ張った。


「オンナノコ、アソボ?」


「え? 遊ぶ?」


 妖精ちゃんは、つぶらな瞳で私を見上げてニッコリ笑う。

 他の子たちも飛びついてきて、私の肩や頭の上で口々に言った。


「ソーダヨ、アソボー!」

「オンナノコ、イカナイデー」

「アソボ、アソボ!」


 ああ何これ、めちゃくちゃ可愛い。この子たちがいるだけで、この枯木の森がパラダイスに思えるわ……

 ミニミニサイズの赤ちゃん妖精に群がられながら、ふと思いついた。


「あのー、邪竜様。私、ここにいたらいけません?」


 私の質問に、邪竜サマが驚いた様子で顔を上げた。


「ここにって……ここに?」


「はい。使ってないお部屋に住ませていただくわけにはいきませんか? すみっこでも屋根裏部屋とかでも、屋根があればいいですから。図々しくてすみません」

 聞いている邪竜サマの目が、どんどん見開かれていく。


「正気かよ。わかってんのか? 俺は人間じゃない。お前らがいうところのバケモノで、邪竜って呼ばれてるんだぞ?」


「知ってます。でも、その……邪竜様、いい人そうだし」


「いいひと? おれが?」


 全部ひらがなに聞こえるたどたどしさで、邪竜様が聞き返す。

 そして眉間に皺を寄せ、問いかけてきた。


「もう一度よく考えろ。この森には俺しか住んでない。いいか、俺しか、いないんだ」


「はい」


「俺ひとりしかいないってことは、茶会も舞踏会も音楽会も晩餐会も、とにかく『会』って名の付くものは何にもないってことだ。女ってのは、そういうものがないと生きていけないんだろ?」


「そういうものは無くて大丈夫です。何ですか、その王子様的な発想」


「本当か? 本当に、ここに残る気か?」


「はい。私、働きますので。お城のお掃除とか、あっ、お料理もやりますよ。がんばりますので邪竜サマのお城に置いてください。屋根裏部屋がだめなら物置とか、なんならお庭の片隅にテント……」


「言ったな」

 

 言い終える前に、邪竜サマが低い声で口を挟んだ。


「お前、ここに住むんだな」


「は、はい」


 あれ? やっぱりちょっと怖いかも。

 邪竜サマ、真顔を通り越して睨むような目つきなんですけど……?


 と、彼は急に踵を返し、私に背中を向けてスタスタと歩きだした。

 十歩ほど行ったところで立ち止まり、天を仰ぐ。


 突然。

 ウオオオオ、みたいな声で、邪竜サマが吠えた。

 声だけは、完全に竜の時のそれだ。大音響。

 同時に風が巻き起こり、周囲の木々が激しく揺れる。


「きゃ……!」


 思わず身を縮める私。


「キャー」

「キャー、キャー」


 風に飛ばされないように私の髪や服につかまった妖精ちゃんたちも声をあげる。ただし恐怖の悲鳴じゃなくて、遊園地のアトラクションを楽しんでるときの歓声だ。


「邪竜サマ、怒ったの……!?」


 私の呟きに、妖精ちゃんたちが口々に答える。


「チガウヨー」

「ドラゴン、喜ンデルヨー!」


 もういちど邪竜サマが吠えた。

 地上から吹き上がった風が森の上の雲を割り、青空が覗く。

 太陽の光が一直線に射しこんで、枯れ木の中に立つ邪竜サマをスポットライトのように照らした。


(ちょっと……邪竜サマって、天気までどうにかしちゃうわけ?) 


 これは人間たちが恐れるはずだわ。

 妙に納得していると、邪竜サマが勢いよく振り向いた。

 呆気に取られている私の両肩を、鱗の生えた二本の腕がガシッと掴む。


「そこまで言うなら仕方ないな! ここに住ませてやる!」


「え、いいの?」


「ああ、いいぞ! 仕方ないからな!」


 邪竜サマ、満面の笑み。

 妖精ちゃんたちが囃し立てた。


「ヨカッタネ、ドラゴン!」

「嬉シイネ、ドラゴン!」


「うるさい! 嬉しいとかじゃないからな、別に……別に!」


 顔を真っ赤にして妖精ちゃんたちに怒鳴ったあと、邪竜サマは急に私の体を抱え上げた。


「え、ちょ、何、なんですか!?」


「いいから来いって」


「え、えええー!!」


 肩に軽々と私を担ぎ上げたまま、邪竜様はお城の中へと走り出す。

 キャーキャーとはしゃぎながら、妖精ちゃんたちが後に続いた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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