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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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5.巻き込み召喚、その経緯

 ――ほんとに、どうしてこんなことになったんだっけ。

 あの日、私は、早退する五月女さんに追いつこうと、オフィスが入るビルの廊下を走っていた。


「待ってください、五月女さん……!」


 エレベーターの到着待ちをしていた五月女さんを見つけ、声をかける。

 三日に一度は休んだり、早退する五月女さん。今日も、まだ昼前だ。日本橋にあるオフィスビルのエレベーターホールには、私たちの他には誰もいない。


「何ですか、センパイ? みりあ、体調不良で早退するんですけど。手短にお願いしまーす」


 茶色の長い髪を指でもてあそびながら、挑むような目つきで五月女さんが振り向く。

 さっきまでデスクの電源にヘアアイロンをつないで巻きなおしていた髪は美しいカールを描き、両耳にはブランドロゴを模したイヤリングが輝いていた。


「ご、ごめんなさい。経費の締め日なので、急ぎで確認させてほしくて……これ、五月女さんが提出してくれた領収書なんですけど、私物を購入したときのものですよね?」


 おそるおそる私が差し出した領収書を見て、五月女さんはツンと顎を上げた。

 

「だから何? センパイは黙って処理してくれればいいんですよ」


 五月女さんが但し書きもなしで提出してきたのは、高級ジュエリーブランド店の領収書だった。


「でも、これ経費で落ちな……いたっ」


 いきなり五月女さんに手首を捻り上げられ、言葉が途切れる。

 にこにこ笑いながら、でもまったく手をゆるめずに五月女さんが囁いた。


「センパイ、みりあが誰だかわかってます? これ以上しつこくするなら、パワハラされたって社長(おじさん)に言いますよ?」


 そう、五月女さんは社長の姪。ゆえに職場の誰も彼女に逆らえないのだ。


「あの、でも、社長からは経費の管理は厳格にと……」


「いい子ぶらないで言われた通りにすればいいの。ハラスメント加害者として地方の支店に飛ばされたいかなー?」


 五月女さんの口調が、あきらかに変わる。

 これ、どっちがパワハラしてる側なんだろう。脅されてるのは私じゃない? 

 泣きたくなったところで、突然、足もとの床が光りはじめた。

 眩しさに目を閉じ、次に瞼を開けたときには、あの円陣の描かれた床の上で、異世界人たちに囲まれていたのだった。


 支店どころか異世界に飛ばされちゃったな。

 私物の領収書を通しておけば、こんなことにならなかったのかな。

 そのうえ五月女さんは私を消しにかかり、あげく邪竜の花嫁という名の生贄にされて。

 で、その邪竜に遭遇したと思ったら、目の前で人間の姿の青年に変わって……って、もうめちゃくちゃじゃない?


 ――やっぱりこれ、夢だ。

 しかも悪夢だわ。そうじゃないと説明つかない……。



  ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 光に瞼をくすぐられる感覚で、目を開ける。

 あ、眠ってたんだ、私。

 よかった。やっぱり今までのは夢だった。


「……ん?」


 てっきり、ひとり暮らしのマンションのワンルームで目覚めたんだと思ったのに。

 肌にあたる寝具の手触りが、いつもと違う。


(このシーツ、まさかシルクじゃないよね?)


 すごく高価そうな生地。しかも、やたらと豪華な刺繍が施されてる。

 毛布だって柔らかくて、いかにも良い素材感だし……なにか、変。

 

 体を起こして見まわしてみた。

 私がいたのは、見知らぬ部屋のベッドの上だった。

 

 部屋といっても、普通の部屋じゃない。

 天井の高い、綺麗で清潔で広い部屋。

 ベッドは天蓋つき。天鵞絨とレースのカーテンに飾られた大きな窓から陽の光が射して、柚子に似た爽やかな香りが漂っている。


 どこぞの貴族のお城ですか?

 やっぱり私、まだ夢の中にいる……?


「……あ」


 ふと横を見て、ベッドサイドのテーブルに陶器のコンポートが置かれているのを発見した。

 大型のコンポートには、山盛りの果実が載っている。

 柚子に似たフォルムだけど、こんなに美しい金色の果実は今まで見たことがない。

 みずみずしい香りのもとは、これだったんだ。


 目にしたとたん、強烈な空腹が襲ってきた。


(そうだ、私、お腹が空いてたんだ。ここに連れてこられるまでのあいだ、ろくに食べ物ももらえなかったし……!)


 果実の横には水の入ったデキャンタまである。

 お食べなさい、といわんばかりのセッティングだ。

 だからといって勝手に食べていいのか、口に入れて大丈夫なのか……なんていう懸念と理性は、猛烈な空腹感の前にあっさりと押し流された。


「いただきます!」


 声に出して言い、私は黄金の果実に手を伸ばした。



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