表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/45

4.帰してくれるというけれど

ドラゴンは――俺は、人を食わねえ。要求したことだって一度もねえぞ」


 竜は深く息を吐き、長い首を左右に振った。

 その仕草といい、ぶっきらぼうな口調といい、妙に人間味がある。


「じゃあ……じゃあ、私のこと、食べない?」


 おそるおそる尋ねてみる。


「だから食わねえって。何度同じことを繰り返せば理解するんだ、人間どもは。しかも花嫁って何だよ、気持ち悪い」


 同じこと。

 そうだ、私の前にも「花嫁」、もとい生贄がいたはずなのだ。


「あの……私の前の花嫁さんたちは、どこに行っちゃったんですか?」


「決まってんだろ、送り返した。どいつもこいつもギャアギャア喚いてうるせえし、俺は人間が嫌いだからな」


 そう言って、おもむろに片足を上げる。

 巨大な鉤爪のついた足が、ドン、と石のステージを踏んだ。


「……!!」


 ステージいっぱいに、銀色に輝く渦が出現する。

 呆気にとられていると、手足を戒めていた縄がブツリと勝手に切れた。


「お前も帰れ」


 静かな声で、邪竜が言った。


「え……」


「この渦は、お前の行きたい場所に通じる門だ。飛び込めば、もといた場所に帰れるぞ」


「うそ!?」


 上体を起こし、渦をみつめる。


(あの渦へ飛び込めば、帰れるっていうの?)

  

 元の世界。東京。

 帰れる。いつも通りの日々に。

 それはこの上なく喜ばしい、はず。だったけど。


 思い浮かぶ、「いつも通りの景色」たち。

 朝の満員電車。

 タスク満載のパソコン画面。

 クレーム対応で怒鳴られ罵倒され、事務作業で深夜まで残業して、疲れ果てた体で辿る帰り道。

 冷たかった家族。誰も待っていないワンルーム――。


「……ん?」


 邪竜が首を傾げた。


「おかしいな、渦に何も映らねえ。お前の頭の中に帰りたい場所が浮かんでいれば、そこに繋がるはずなのに……」


 大きな足が、焦ったように再び石の舞台を踏む。

 やっぱり、渦には何も映らない。


「どういうことだよ、これ。門が開かねえ……」


 呆然と呟く声が聞こえたけど。

 そうだ。私には、帰りたい場所がないんだ――


「大丈夫か、お前」


 ちょっと引いた感じで、邪竜が尋ねる。

 私の頬を涙が伝い落ちたからだ。


 光の渦が消えていく。

 なにひとつ景色を映さないまま、どこへも繋がらないままに。


 黙って涙を流す私を前にして、邪竜は黙りこくっていた。

 その顔からは、表情の変化なんて殆ど読み取れない。でも、何かを考えているのが伝わってくる。

 

 そして。

 信じられない事態が起こった。


「……え、え!?」


 ドラゴンの体が、みるみる縮んでいくのだ。

 体高が半分になり、四分の一になり、横幅も縮んで――ていうか、体ぜんぶが変化してる?


 やがてドラゴンは、完全に姿を変えた。

 いま目の前に立っているのは、ひとりの青年だった。

 漆黒に、ところどころ金色のラインが混じる頭髪は、邪竜の鬣の色そのままだ。


 人間の男性、に、見える。

 年齢も、わたしとそう変わらないだろう。

 ただ、頭部には二本の角が生えているし、袖のない上着から覗く腕の上部は黒い鱗に覆われている。


 そして――その顔立ちは、おそろしいほど整っていた。

 切れ長の目、通った鼻筋。額には、ごく小さな星のような形の紋様が浮かんでいる。


 異形。だけど、美しい。

 彼の容姿を表現するなら、ほかに言いようがなかった。


「帰る場所、ないのか」


 少し前までドラゴンだった青年が、困ったように問いかける。

すぐに答えが出なかった。あまりの出来事に頭がついていかない。

青年が、こちらへ向かっておもむろに手を伸ばす。


「……っ」


 何をされるのかと思わず身を固くしたわたしの目の下に、青年の指が触れた。

もしかして、涙を拭ってくれてる……の、かもしれない。

でも、すぐに訝しげに目を細め、彼は私の顔を覗きこんだ。


「ん? おまえ、どこかで会っ……あ、おい!」


 青年の慌てた声。

 がくん、と膝から崩れた私を抱きとめる腕を感じたけど、現実かどうかはわからなかった。

 体の力が抜ける。視界が白く曇る。

もう、なにも聞こえない。

 

 ――ああ、そうか。これは夢なんだ。

 なんなら異世界召喚のあたりから全部、夢。

 だって、竜なんているわけない。竜が喋るなんて、ありえない。

しかも、その竜が人間になるなんて、現実であるはずないもの――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ