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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第二章

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31.帰らない理由

「センパイは、どうして帰らなかったんですか?」


 ゆっくりと、五月女さんが振り向く。

 その瞳に剣呑な光が宿っていると感じたのは、気のせいだろうか。


「邪竜様は優しいから、今までの生贄も帰してあげたって言いましたよね。センパイにも帰れって言ってくれたはずですよね? なのに、どうして残ったんですか」


「それは……」


 私のときは、光の渦に何も浮かばなかったから。

 と、言えなかったのは、私のちっぽけなプライドだった、かもしれない。

 帰る場所がない人間だと思われることが、怖かったんだと思う。


 五月女さんの可愛らしい顔に、にいっと意地悪げな笑いが浮かんだ。


「みりあ、わかっちゃったかもー。センパイが帰らない理由」


「え……きゃあっ」 

  

 思わず悲鳴を上げていた。

 五月女さんに、急に強く手を引っ張られたからだ。

 私の体を光の渦へと引き寄せながら、耳もとで五月女さんが叫んだ。


「センパイ、みりあと一緒に行こ? 今なら東京に帰れますよ、ねっ!?」


「あぶない、放して!」


「なんで嫌がるの? 元いた世界に帰るのが怖いんだよね。あっちに帰れば、あんたなんかただのババアだから!」


 可愛い顔立ちから、あまりにも不似合いな言葉が飛び出したことに驚く。

 間近で見る後輩の目には、ぎらぎらと異様な輝きが揺れていた。


『ヤメテヨー!』

『チカヲ ハナシテー!』


 飛び出してきた妖精ちゃんたちを、五月女さんが片手で払いのける。


『キャー』

『キャー』


 吹っ飛ばされて悲鳴をあげる妖精ちゃんたち。


「その子たちに乱暴しないで!」


「うるさい!」


 五月女さんが鬼の形相で吐き捨てる。口調まで変わってる。


「たまたま花嫁とやらになっただけなのに、バケモノにお姫様扱いされて勝ち組気分でいたんだ、笑える。ここじゃ女はあんたひとり、あんたより可愛い子なんていないもんね!」


「なに言って……」


「幸せだったでしょ? 今だって心の中で笑ってるんでしょ。みりあのことザマァ見ろって思ってるんだ。バカにしないでよ、みりあ、あんたなんかに負けてない!」  


「そ、そんなこと、思ってないってば……っ」

 

 必死で抗いながら、愕然としていた。

 五月女さんを見下したつもりなんてなかったのに、彼女からは、そんなふうに見えていたのか。

 私を道連れに日本に帰るのは、彼女なりの復讐なんだ。

 

 勝ち組とか、負け組とか。

 それ、こんな異世界に来てまで考えなくちゃいけないことなの?

 

 五月女さんの細い体のどこから、こんな力が湧いてくるんだろう。

 乱暴に私の首に腕をまわし、五月女さんが渦の中へと倒れこむ。


「いや!」


 イオに初めて会ったときの私には、帰りたい場所がなかった。

 どこにも居場所がなかったから、ここに残った。

 でも今は……!


 渦の水面が目の前まで迫ったとき、不意に五月女さんの腕が離れた。

 ドサッ、と重たいものが地面に落ちる鈍い音して、私の体がふわりと浮き上がる。


(……!?)


 体を包む、あたたかい温度。

 そして、すぐそばにイオの顔。

 彼が私を抱きあげていたのだ。

 

『チカー!!』


 妖精ちゃんたちもしがみついてきた。

 

「みんな! 大丈夫?」


『叩カレタヨー』 

『アノヒト、コワイー』


 べそをかきながら、妖精ちゃんたちが指をさす。

 見ると光の渦が消えて、五月女さんが地面に這いつくばっていた。


「いっ、たぁーい……」

 

 頭から地面にダイブした格好になってしまったらしい五月女さんが、苦しげに呻く。

 顔を上げて辺りを見まわし、次に土埃のついた顔で喚いた。


「なに? さっきと同じ場所じゃない。ちょっと! 東京に帰してくれるんじゃなかったの!?」


「黙れ」


 私を抱き上げたまま、イオが冷たく言い放った。

 整った顔に、静かな怒りの色が滲んでいた。


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