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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第二章

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30.聖女と生贄、勝ち組は

 私とイオが暮らすお城を見て、五月女さんは目を丸くした。


「えー!? センパイ、こんなすごいところに住んでるんですか!?」


「うん。イオがつくったお城なの」


「すごいすごい! ていうかー、王都でみりあが住んでた宮殿にそっくりなんですけど! 邪竜の森にこんな綺麗なおうちがあるなんて思わなかったー!」


「邪竜の森、か」


 イオがボソッと呟いた。

 やっぱり嫌なのね、その名称で呼ばれるの。


『オカエリー!!』


 お迎えに飛び出してきた妖精ちゃんたちが、空中で一斉に停止した。

 と、思ったら、


『キャー!』

『キャー!!』


 悲鳴を上げ、階段の手すりの後ろに隠れてしまった。


『ソレ、誰ー!?』

『知ラナイ人ガイルー!』


「大丈夫よ。この人は、お客様。ほら、さっきみんなが教えてくれた女の子よ」


『ダイジョーブジャナイヨ!』

『ソノヒト、コワイヨ!』

『チカト、ゼンゼン違ウヨー……!』

『オウチニ連レテコナイデー!』


 震えながら妖精ちゃんたちが喚く。


「どうしたの、みんな? 私のときは最初から仲良くしてくれたのに……」


 テーブルやカーテンの陰に隠れる妖精ちゃんたちを見て、イオが吹きだした。


「こいつら、正直だからな。好き嫌いがハッキリしてるんだよ」


「何よ、感じワルーい」

 

 あからさまに避けられて、五月女さんもおかんむりだ。


「ま、まあ気にしないで。疲れたでしょう? まずはゆっくりしてね。そうだ、お風呂に入る?」


「あっ、はーい!」


 五月女さんがお風呂で体の汚れを落としている間に、食事を用意する。

 パンケーキとスープ、それからデザートに金色の果実。

 清潔なドレスに着替えた早乙女さんは、急ごしらえの食事を喜んで食べてくれた。  


 すっかり顔に余裕が戻った五月女さんが、椅子で伸びをしながら言った。


「もー、センパイってば、ズルいんだから」


「ズルい……?」


「そうですよ! こんなに素敵な場所で、超イケメンと暮らしてるなんて。勝ち組感すごい」


 テーブルに頬杖をつき、五月女さんが横目で私を見る。


「あーあ。なんか、がっかり。自分だけラクしてないで、みりあのこと迎えに来てほしかったな。みりあ、国王にめちゃくちゃいじめられてたんですよー」


「ご、ごめんね。五月女さんは王妃様として幸せになってると思ってたから……」


 どこか責めるような口調で言われて、思わず謝ってしまう。


「チカ」


 イオが私の肩に手を置いた。


「謝るな。罪悪感を持つのは間違いだ。お前は知らなかった、助けようがなかったんだ。あの女に取り込まれるな」


「う、うん……」


 彼の言葉に、少しだけ救われる。

 私たちの会話を気にする様子もなく、五月女さんは笑顔で立ちあがった。


「んー、めっちゃくちゃ快適! みりあもここに住む! いいでしょ、邪竜様」


 わざわざ隣の席へ移動して、イオにしなだれかかる五月女さん。

 イオのほうはヒョイと身をかわし、面倒そうに顔をしかめた。


「冗談じゃねえ。帰れ」


「イヤよ! ラスティンのところに帰ったら、みりあ殺されちゃうもん!」


「お前、チカと同じ世界から来たって言ったよな。そっちに帰りゃいいだろ」


「そんなことできるの!?」


 五月女さんは心底びっくりしたようだ。

 私の方へ顔を向けた彼女に頷いて見せる。


「イオはね、今までの花嫁も元の世界に帰らせてあげたんだって」


「本当に? みりあ日本に帰れるの、邪竜様?」


「嘘なんか言うか。それとな、これまで送り返した生贄のなかに、お前と同じこと言ってたのが何人かいたぜ。『私は王妃だったのに』って」


「え……?」


 五月女さんの顔から笑みが消えた。


「人間の(つがい)ってのは、あっさり別れられるんだな。そんなに次から次へ心が移って行くもんなのか。俺にはわかんねえけど」

 

 五月女さんが言葉を失う。

 私も同じだった。


 イオが過去に異世界へ帰らせた生贄の中には、王妃を自称する女性が複数いた?

 それが本当なら、アスダールの国王が異世界から召喚した聖女を妃に据えるのも、期待していた効果がないと離縁して生贄に捧げるのも初めてではなかった、ってことになる。


「ラスティン……まさか、はじめからそのつもりで、みりあを王妃にしたの……?」

 

 目を見開いて、五月女さんが呟く。 

 異世界から召喚後、ストレートに生贄にされた私と、聖女認定を受けて王妃になった五月女さん。

 結局、行き着くところは同じだった。

 どちらも等しく人間扱いされていなかったのだ。


「ま、そういうことだ。腹もいっぱいになっただろうし、さっさと元いた世界に帰れよ」


 言うなり、イオは踵を返し、スタスタと歩き出す。


「行こう、五月女さん」


 まだ茫然としている後輩を促し、二人であとを追った。

 妖精ちゃんたちも、こわごわ距離をとってついてくる。


 外へ出たイオが、片足の踵で軽く大地を蹴った。

 彼の足元から、星のようにキラキラと輝く小さな粒が無数に舞いあがり、絡まりながら円を描いて広がる。

 やがて青空の下、あの光の渦が出現した。


「なに? あの変な輪みたいなの」


 五月女さんが怯えた様子で後ずさる。


「お前の帰りたい場所を思い浮かべろ。渦に飛びこめば、そこに行ける」


「本当に? みりあ、日本に帰りたい……!」

 

 五月女さんが「日本」の二文字を出す前から、渦の中には見覚えのある景色が浮かび上がりつつあった。

 東京の街並み――五月女さんにとっての「帰りたい場所」だ。


 波打つ水面の上を、映像が走馬灯のように次々と流れていく。 

 都会のビル群、オフィス街。華やぐ街。

 高級そうなお店は、五月女さんがよく遊んでいた場所かな。

 遊び仲間らしき若い男女の群れに混じって、初老の夫婦の姿が浮かび上がった。

 五月女さんが渦へ駆け寄る。


「ママ……パパ!」


 彼女のご両親らしい。突然消えた娘のことを、さぞや心配しているだろう。


 私と違って、五月女さんには元いた世界に帰りたい場所がある。

 彼女を待っている人だってちゃんといて、帰ることができるんだ。


「五月女さん、元気でね」


 渦を覗きこんでいる背中に声をかける。

 そのまま飛び込むかと思ったのに――なぜか彼女は動かなかった。


「ねえ、センパイ」

 

 こちらを振り向かないまま、私に呼びかける。


「なに?」


「センパイは、どうして帰らなかったんですか?」

 

 後ろ姿で問いかける声が妙に低く聞こえて、なぜか背筋が冷たくなった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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