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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第二章

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27.青い鱗

 今日も私は、イオと二人、緑に戻った森の中を歩いている。


「いいお天気だね」

 

 隣を歩くイオに話しかける。


「まあ、チカはこういう方が好きそうだよな」


 答える彼は、少し恥ずかしそう。


 平和な日々が続いていた。

 木立から降り注ぐ太陽の光。吹き抜ける風が気持ちよくて、小鳥が囀る声も聞こえる。

 

 少年ロニーと出会うきっかけになった樹には、今また黄金の果実が揺れ、近くを通ると爽やかな香りがした。


「ねえ、ときどき実が減ってる気がしない?」


「そうか? 自然に落ちただけだろ」


 隣を歩くイオは、さらりと私の話を流す。

 彼が気づいてないはずはない。少しだけ、でも確実に黄金の実が枝から消えていること。


 姿を見たことはないけど、ときどきロニーが忍び込んで果実を捥いでいってるんじゃないかなと思う。

 ものすごく控えめな減り方からして、予想は当たっていそう。

 イオ、あえて見逃してくれてるんだよね。


「ねえ、ありがと」


「なんだよ、いきなり。何もしてねえぞ」

 

「言いたかっただけ」


「あっそ」


 樹の下の草むらが、ガサッと小さく揺れた。

 シロツメクサの間から、もふもふの小さな耳が突き出している。


「あっ、ウサギ! 迷子になったとき一緒にいてくれた子たちかも! イオ、見て……」


 呼び止めるために伸ばした手が、先を行くイオの腕に触れる。

 その拍子に、スルッと指先に不慣れな感覚が走った。

 イオの上腕部を覆ている鱗のひとつが剥がれて落ちたのだ。


「えっ? ええっ!? どうしようどうしよう! ごめんねイオ、痛かったっ!?」


 驚き慌てる私に対して、イオの方は平然としている。


「あー、生え変わりだ。痛くもなんともないから安心しな」


「は、生え変わり……?」


 地面に落ちた鱗を、おそるおそるつまみ上げる。

 親指の爪くらいの大きさ。濃い紫で、石のように硬い。

 ふくらんだ楕円形のそれは、陽光にかざすと僅かに避けてキラキラ光った。


「そのへんに捨てておけよ。何年かに一度剥がれるけど、また生えてくるんだ」

 

 イオは興味がなさそうだ。


「……これ、要らないなら私が貰っていい? ペンダントにしたいな」


 尋ねてみると、イオは心底驚いた顔になった。


「ペンダントって……お前、普段そんなもの欲しがらないのに。だいたい気持ち悪くねえの? 鱗だぞ?」


「気持ち悪くない。すごく綺麗だもの。だめ?」


「だめじゃねえけど……」


 ぶつぶつ言いながら、イオは鱗を手に取った。

 彼の手の中で、紫色のかけらの上部に小さな穴が穿たれ、銀色の鎖のついたペンダントに変わる。

 

「ありがとう! うわあ、可愛い……!」


「可愛い、ねえ」


 大喜びでペンダントを首にかける私を見て、イオは怪訝そうに首を傾げた。


「わかんねえな、女の考えることってのは。そういえば母さんも、父さんの鱗をアクセサリーにしてたっけか」


「イオのお母さんは、お父さんのことが好きだったのね」


「そうは思えなかったけど。父さんが死んだら、母さんはすぐに森を出たし」


「でも、好きじゃなきゃアクセサリーにして身につけようなんて……」


 そこまで言ってしまってから、慌てて口をつぐむ。

 イオが私の顔を覗きこみ、問いかけてきた。


「ふうん。好きじゃなきゃ?」


 急に顔に血が上る。


「い、イオのお母さんの! ご両親の話ね!」


「はいはい、わかってます」


 弾かれたように離れる私を見て、茶化すようにイオは笑った。

 そして、


「……チカ。話しておきたいことがあるんだ」


 いま私、絶対に顔が赤いはず。見られたくない。


「なに?」

 

 両手で頬を隠して振り返る。

 そこには、打って変わって真顔のイオがいた。


「イオ……?」


 さっきまでとは空気が違う。

 躊躇うように口をひらきかけ、やがてイオはかぶりを振った。


「やっぱり、いいや。そのうち言うわ」


「う……うん」


「けっこう似合ってるぜ、それ」


 私の胸元に光る鱗を指さし、イオはのんびりとした歩調で歩きはじめた。


(イオ、何を言いかけたんだろ……)


 チカに話してないことがたくさんある、と、イオは言った。

 竜人族の彼と、異世界から来た人間の私。

 いまのところ同居する分には困ってないけど(食べ物とか生活習慣とかね)、知らないことはまだまだ多い。


 本当は知りたい。

 イオのことなら、どんなことでも。

 止められない。

 私は、イオに惹かれはじめてる。


 イオにとっての私は、異世界から転がり込んできた居候にすぎないのに。

 求めすぎちゃだめ。近づきすぎちゃだめ。

 そんなこと、わかっているけれど。

 紫色の鱗のペンダントヘッドを、ぎゅっと握りしめる。


「待ってよ、イオ」


 わざと明るい声をだして、広い背中を追った。

 このまま同居人として一緒にいられたら、それでいい。特別な存在になんか、なれなくても。


 そう思いながら、彼との暮らしを愛おしんでいた、ある日。

 ――大事件は起こったのだった。


第二章に入りました。

この先もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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