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第五話 現実を受け止めることは時に未来を見つめることよりも難しい。

国外に出るためには壁を越えなければならない。警備がとても厳重で時間がかかりそうだ。ガグルとエイル王、マクロサーのサインがあったから、比較的早く終わったのだろう。


門が開いた。それと同時に強烈な匂いが襲った。とっさに鼻を覆う。この匂いは死体の臭いだ。壁の防衛のために散っていた兵士たちなのだろう。俺は両手を合わせた。


道なんってものはなかった。死体が避けられ、なんとか歩ける程度だ。俺はフードをかぶり、口と鼻を覆った。そしてマクロサーから持った地図とは言えない代物を頼りに進む。死体とただ広い荒野だ。地図がないよりかはマシだ。


かなり進んだと思う。バルム王国には隣国のグルマを超え、ユグドラ大森林を経て到着する。地図に記された目印はグルマの国境、ユグドラ大森林の経路だけだった。ルー王国からひたすら北に向かうだけだ。国境が見えたら、道が正しいと言うことだ。グルマには二週間で行かないと期限に間に合わない。布に日数を刻んでいるが、そろそろ見えてもいい頃合いだと思う。


「よぉ〜。旅の人。」


人の声だ。振り返ると、兵士がいた。


「どうも。」


「どうも、どうも。オレはなぁ〜ここでナニしているとおも〜う〜?」


独特のイントネエーションで少し聞き取りにくい。


「警備ですか…?」


「残念。オレがしているのは死体の焼却だよ。比較的片付いてただぁ〜ろぅ〜。」


何を言って…。だが、確かに少しずつ死体の数が減っていた。


「オレはなぁ、人魔大戦の時、新兵で大戦に参戦できなかったダァ~よぉ…。良いのか悪のかは分からんがな。それで、今仮初の平和の中でオレがする仕事は仲間の生きた証を燃やすことなんだぜ…。笑えるよな。」


何も返せない。軽はずみの共感などはけしてしてはならない。だから、黙る。


「いっそのこと魔族みたいに死んだら何も残んなきりゃ〜いいよな…。」


魔族の死体がなかったのはそういうことか。道には人の死骸だけだった。


「そうすれば、仲間がどんな殺され方をしたのかを知らずにいたのに。例えばこの死体を見ろよ。末端から徐々に急所へ。いたぶられたんだろうな。かわいそうに。見ろよこの顔。」


これが戦士の顔に見えるかと聞いてきた。それは泣きじゃくって命乞いをしたかのような顔だった。最後は首をはねられたのだろう。


「オエッ…オロロロっ…!!!」


俺は嘔吐した。この現実が受け止め難いからだ。


「それが、正常な反応だ。オレは終戦後、ずっとここで集めては燃やしを繰り返していた。こんなヤツに弔われる英雄たちがかわいそうだな。」


俺は未だ嘔吐していた。止められなかった。体がこの現実を拒絶している。


「そう言えば、お前身なりがいいじゃねぇ〜か。オレみたいなのは他として狙われるから気をつけろよ。王魔毒蜂(キングポイズビー)は肥えた蜜魔蜂(ハニービー)を見過ごさないって言うからな。じゃあな。オレは死体を集める。」


男は去っていった。俺は吐しゃ物に砂をかけて隠した。俺は再び歩き始めた。俺の足取りは少し重くなった。


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