第三十一話 ラッキーなこともラッキーをつかまなければアンラッキーになるよな。
俺は激痛に耐えていた。
「これはね、身体から直接魔力を吸い取っているの。魔力は生命力だからね。それを無理やり剥がそうとすると、拒絶反応が起きるんだ。」
消えていったはずの深淵主が戻ってきた。彼女は俺の激痛の正体を教えた。
「キミが頑なに言ってくれなかった荷物のことだけどね、無事なんとかなったんだよ。正直、キミはもう用済み。だけど、魔王様がキミを見つけたからね、あと二日したら、解放してあげるよ。」
彼女はそう言って最後にまた俺に激痛を与え、消えていった。俺の意識もそこで途切れた。
ーー知らない記憶だ。
森の片隅で木剣を振るう。ただひたすらに。
少し、体位も成長している。中学生くらいだ。
そこに剣士がやってくる。その子の父親だろう。
「お前は良い剣士になる。お前は特別だ。」
その子は少しはにかんだ。
また、ホワイトアウトのように視界に靄がかかった。『魔王の導』が痛む。
『おい、サント。大丈夫か?』
懐に隠れていた銀時だ。つかまる前に隠したんだっけ。
「ぎ、ぎんじぃ…」
『魔力を吸われ、精神も何かされてるな。とりあえず、治癒術を施した。吾輩の力では焼け石に水だろうな。』
「ぎ、ぎんじぃ…、エルに…伝えて…」
『エル?あの女か。わかった。吾輩が計画のことをすべて彼女に伝えれば良いんだな?』
サントは頷いて、また意識を失った。銀時は外までの道を探し、エルの元へ急いだ。
ーー俺は何者なんだ…
ふっと、椅子の下の水たまりをみる。
これは誰だ?
俺の顔じゃない。というか、この世界に来てから、自分の姿を一度も見たことがない。俺はずっと転移だと思っていたが、これは転生なのか…。
でも、俺は日本に住んでいた事など、抽象的な事しか覚えていない。日本にいた時の俺の記憶はない。と言うか、思い出せない。何かが封をしていような感じだ。
遠のく意識の中、再びあの記憶が見えてくる。剣士の記憶。この記憶は誰のもので何のために俺は見せられているのか。
また、全身の『魔王の導』が痛む。日に日に濃くなっていく。傷も、痛みも。
ーガグルは痕跡を追っていた。
だんだんとサントの痕跡が集約していく。それほど、サントに近づいているということだ。
ふと、倉庫から大きな音がした。
ガグルは嫌な予感がした。
「精霊召喚 七元の精」
そこに現れたのは七体の最古の精霊だ。ガグルは倉庫と倉庫の人々が死なないように守れと命じた。最古の精霊しかも自我を持つ精霊に命令できるのはガグルを除いていない。
『ガグルか?』
そこに影の最古の精霊であるあの猫。銀時も引っかかる。
「銀時?どうして?」
「どうしても何も貴様が吾輩を呼び出しのであろう。」
銀時は怒りつつ、少し嬉しそうに言った。
「ま、ちょうどいい。ガグル、吾輩の記憶から、革命派の真実を知れ。吾輩はサントとの約束がある。急いでいる。」
「わかった。」
ガグルはこの時、全てを知った。
イートス王国は全てあの悪魔の掌の上だと。
最悪、六体の精霊が倉庫に行ったならば、争いが起きても停められる。
「さらば。」
銀時は走っていた。
ガグルもサントの元へ急ぐ。
それぞれの目的が交差し、交わる時、世界が変わるかもしれない。




