007_神はアダムの肋骨でエバを創った。
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「今は冬場だ、腐敗はそう早くは進まない。死体は床下にでも埋める、俺達が出る頃までは持つだろう」
先生は廊下の床下へ、先程戦った、男の死体を投げ込んだ。
そして、そのまま廊下の木を嵌め直す。先生曰く、「臭いが漂う様であれば、黒猫に頼む」と一言。黒猫、裏で暗躍する何でも屋である。
情報や死体処理を生業とし、密輸入された違法武器を売っている場所。
そして、その店の店主には、猫耳としっぽが生えている。だから黒猫と言う隠語が使われるようになったのだろう。
そして、先生の部屋に皆が集まり、ティーテーブルを囲む様にして座る。その中で、ハッシュパピーを食べながら、顔に大きな痣の出来たオズヴァルドが口を開いた。
「ねえ〜ユダちゃんはさ、プレミアムステーキとノーマルステーキ。どっちが好き?」
的外れで、呑気な質問だ。
好物のハッシュパピーを口に入れ、にこりと笑うオズヴァルド。そして、座ったまま椅子を引き摺り、そのままユダの方へと向かって行けば。
彼女の肩に手を回し、ヘラヘラと笑っては。オズヴァルドは、手に抱えたハッシュパピーを一口。そんなオズヴァルドの方を見ながら、嫌々ながらもユダは答える。
「……私はノーマルの方が好きだな。何せ、プレミアムは脂が乗り過ぎだ。胃がすぐにタレる」
「けっ」と、オズヴァルドを犬猿するか様に、唾を床へ吐くユダ。そして、その姿を見たオズヴァルドは。肩を掴んでいた手を、そのままユダの胸の方へと忍ばせて。
むぎゅりっ!ユダの片乳を、何食わぬ顔で揉み始めたのだ。……ユダの顔がより一層、猛獣の様に険しくなる。
「だよね〜、僕もそう思ったよ。だって、こっちの方もノーマル何だもんっ」
ノーマルと言うのは、飾りやフリルの付いてあるブラジャーでは無く、普通のブラジャーだという意味だろう。
厭らしくねちっこい笑みを浮かべ、オズヴァルドはユダの胸を揉む。そりゃもう、お手本となる様な鷲掴みだったさ。……私はそれを見て、飲んでいた酒を吹き出した。
だが、やられっぱなしも癪なのだろう。胸を揉むオズヴァルドの腕を、力強くユダが握り返したのだ。ユダは、オズヴァルドの手首を強く掴み、そのままギロリと睨み付ける。
「ん〜っ?どうしたのユダちゃん。僕のことそんなに見詰めちゃって。愛の告白でもするのかいっ。それなら大歓迎だけど」
「ぶち殺すぞお前っ。その手を退かせ。さもなくばお前の手首は一生体とおさらばだ」
そう言い、より一層手首を掴む力を強めるユダフリッヂ。……だがしかし、オズヴァルドは、一向に腕を退かす気配を見せず。
剰え、もう片方の手で胸を揉む始末だ。
「てめえ……っ!ぶち殺すぞっ!?」
ユダの口から、女々しくも無い声が出る。
「んふふ。やれるものなら、やってみるといいさ〜っ。ま、僕の方が強いし、君の負けは確定してるけど?」
そのオズヴァルドの挑発的な言葉に、ユダの眉間がピキリと歪む。室内を不穏な空気が包み込み、今にも奴らは殴り合いそうな雰囲気である。
……オズヴァルドの奴め、新人が来たからって調子に乗ってるな。
奴らを止めようと、私はティーテーブルへ手をつくが、それよりも先に。酒瓶片手に、先生が立ち上がったのだ。
私と同じく酒臭い体を踊らせて、肩にライフルを担ぐと。そのままユダ達の方へと近づいて行く。
そして、玄関へ続く扉へ手を掛けると、先生は背を向き私達に向かい。
「戯言の時間は終いだ糞野郎共。ほら、そんなにじゃれたいなら、俺が稽古をつけてやる」
雪が降る外の景色と同じく、先生は白い息を吐きながら笑い、そう言った。……透明なウォッカを片手にである。