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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode15_私は醜い蛹から蝶になる。
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069_本物の英雄とは。

『ああ、(なんじ)よ。我は、世界を周り、弱き者に正義を与える騎士であるが(ゆえ)、永遠に其方(そなた)と共には居られまい。其方(そなた)の他にも、我には、助けるべき者が居るのである』


騎士はそう言い、甲冑(かっちゅう)に取り付けられた赤色の外套(がいとう)(なび)かせる。


そして、それを見て、眠りの姫であった王女は、自身を魔物から助けてくれた騎士を、強く引き留めた。


『待って!行かないで、貴方は、あの様な辺境(へんきょう)の地に居て良い存在じゃ、無いわ!』

『我は、弱者に正義を与えるべく、世界を回っている。其方(そなた)とは、共には居られまい』


名も無き騎士へ、姫は恋焦がれて居た。


だからか、姫は、騎士の赤いマントを引っ張って。その場に泣き崩れたのである。


『うっ、ぐす。……なら、貴方の名前を、最後に聞かせてお()れ。名も無き、騎士様よ!』

『我は、()()()()()()では無い。()()()()()()なのだ。貴方様に、名乗る名等ございませぬ。どうか、我を忘れて、御幸せに──』



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私が、自室に沢山と置いてあった、騎士道物語の本を、読み(ふけ)って居た頃だろう。


部屋の扉が三回、単調にノックされ。部屋の扉が(おもむろ)に開いたかと思えば、そこには、老婆が一人。


扉の隙間からは、実に食欲の(そそ)る匂いが立ち込めて。……昼食の時間だろう。


「もう、昼食の時間よ。……あら、懐かしい。それは確か、騎士道物語じゃなかったかしら」

「ああ。この部屋には、沢山と騎士に関する本が在るからな。(いささ)か、読まずして、そのまま(ほこり)だらけにするのも勿体(もったい)無いと思って……。ああ、勝手に読んでしまって良かったか?」

「良いのよ、全然!……ふふ、昔の頃を思い出すわね。私の娘はね、こういう騎士道物語が大好きな子だったの。兄と比べて、凄く活発だったわね。──ほら、昔話は程々(ほどほど)にして。もう、昼食の時間よ、あの人を呼んで来て」


あの人──夫、老爺の事だろう。今は、外で薪割(まきわ)りをしているらしく。昼食の時間だから、呼んで来て欲しいとの事。


私も、(いささ)か飯が冷めるのは嫌なもので。良い所ではあったが、(しおり)を挟み早々と切り替えて。ベッド上から立ち上がり、壁に掛けられた、綺麗なドレスを眺めながら。……静かに、玄関のドアノブを握った。


外は寒い。クリスマスは昨日、終わってしまったが、それを冷まさせまいと、雪は絶えず降り注いで。


と、奥に寒い中、白い吐息を吐きながら、薪割りをしている老爺の姿を見つけ。私は手を上空へ(かざ)し、老爺へと。


「お〜いっ、昼食の準備が出来たとか。途中で悪いが切り上げて、昼食と行こうっ!」

「おお、もうそんな時間か……。ううむ、ぅ。今日の昼食は何かね?毎日の楽しみな物で」

「今日は、レタスとサラミのカスクートと、昨日の余り物のクラムチャウダーだそうだ。……クラムチャウダーは、味が染みて、(さぞ)かし美味いだろうな」


だが生憎、クラムチャウダーには、クラッカーは付いていない様で。その旨を伝えると、老爺は少し悲しそうにしていたが。


……熟成させておいたサラミが、遂に出ると聞くや否や、少し嬉々とした表情を浮かべ。


「君は、クラムチャウダーは好きかね?……娘と息子は全員、苦手で一口も食べなかったよ」

「クラムチャウダーは好きだ。特に、あの馬鈴薯(ばれいしょ)が。翌日になると、より一層。味が染み込んで、違う風味になるのが好きなんだ」

奇遇(きぐう)だな。そりゃ、同じだ」


少しの笑みと談笑が、場を包み込む。


家に帰れば、美味しいクラムチャウダーと、カスクートが待っていると思うと、どうも胸が踊るのだ。


私は、老爺の持つ(まき)を半分貰い受け。それらを、全て小脇(こわき)に抱え込むと。


「──っ、ほぅ、っ。……んん、今夜は、前夜よりも冷えるな。風の流が変わっている。……ほら、息を吐いた時に、昨日とは流れる吐息の向きが違うのだ。今夜の夕食は、暖かいスープ等が好ましいな」

「おお、風の流れで天気が分かるのか。まるで、魔女だな。…ああ、魔女と言えば。向こうの(とうげ)を超えた先の集落には、行ってはいえないよ。彼処(あそこ)はまだ、魔女を深く信じている。君何か、怪しさ満載だから、直ぐに(はりつけ)にされて、火で炙り殺されてしまうよ」


所謂(いわゆる)魔女狩りだ。だが、そんな悪習がまだ彼処(あそこ)の地域では、盛んに行われているらしい。


「怖いな。……うぅ、む。それにしても、よく冷える……っ」


私は白い吐息を吐きながら、静かに辺りを見渡した。細長い木が立ち並ぶ、もう随分(ずいぶん)と見慣れた光景。向こうには、(ウサギ)用のトラバサミが置いてあるのが見えた。


と、(ウサギ)と言えば。昨日、老爺が猟銃を片手に、一匹の白兎を狩って来ていた筈だ。明日は、その兎を煮込んだスープも良しか。


それに、あの(ウサギ)も、去年の冬を越した猛者だ。随分(ずいぶん)と、美味い出汁が取れるだろう。


「今日も、また兎を狩りに行くんだが、君も一緒にどうかね?……どうも、この二ヶ月半で、君の身体能力がどれだけ凄いか分かったから、老耄(おいぼれ)の世話をしてくれんかと。……前に、試し撃ちで与えた猟銃で、的をすべて射抜いた時は驚いたさ。君は良い狩人になれる」

「む、……人、いや、(ウサギ)を狩るのは初めてな物で。そう、上手く行けるとは思わんぞ?私が逆に、貴方の足手まといになりかねん」


兎、か。今夜、もう一匹狩れたなら、其奴(そいつ)(かま)で焼いて、香辛料でも振り掛けながら味わおう。きっと、美味いだろうなあ。


「弾の詰め方と、標準の合わせ方は分かるなら、もうきっと行ける筈さ。……ああ、人を撃っても大丈夫。腐敗はそう早くは進まないさ。──はは、(ただ)老耄(おいぼれ)の冗談だよっ!」

「む、ぅ。冗談にしては、(いささ)か真面目な声のトーンだったが?……っ、くく。〜、はは。そうかい、そうかい。っはは、は!」


家に帰るまでの通路は毎度、老爺と冗談やこの街の噂話を聞いたり、言ったりする。


その時間が、私にとっては幸せだ。


周りは、辺り一面は白いだろうと。私の心は快晴だ。ほら、辺りを見てみると。随分(ずいぶん)と、綺麗に見えるじゃないか。こんな風に良


あ。


「……っん、どうしたんだい。寒くて、手が少し(かじか)んだか?──やはり、君にはそれは重すぎたんだ。私が、少し持とう」


(まき)を、雪の地面へ落とした。目の前の光景が、信じられない。え、ぁ。何で、まずい。老爺の話している事が、頭に入って来ない。


……息が荒くなる。蓋をしていた蠱毒(こどく)の蓋を開けて、中の蜈蚣(ムカデ)を見た様な気分だ。今まで、封をして居た物が、甦って来るのだ。


「『私は』あ、え、っ。……『お前』……ふ、は……?『を』──、ッ、ぅ。……??『殺』」

「………………む、ぅ……?どうかしたのかね」


居たのだ。白い、雪に隠れる様に、佇む。


一人の男が、ポツンと。背中には、小銃(しょうじゅう)を携えて。──その肌と髪色は、雪と同化する様に白い。……そして、(いや)らしく(わら)っている。


怖い、全てが壊れた音がした。──『先生』が、何故今この場にやって来たのだろうか。


いや、当たり前か。奴なら、此処(ここ)まで臭いで辿ってくるのは可能だった。油断していたんだ。彼奴(あいつ)が、二ヶ月経っても来なかったから。


考えたくも無い。目の前の光景が信じられない。……──先生は、此方(こちら)を笑いながら眺めるばかり。一言も、言葉は発さずに。


幸せが、崩れ去る音がした。

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