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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode14_甘い甘い、理想の様な夢を見た
66/75

065_その言葉は、逃げる言葉になるけれども。

肉慾(にくよく)象徴(しょうちょう)、その皮斑紋(ひはんもん)ありて美しければなり

(ひょう)獅子(しし)(オオカミ)肉慾(にくよく)慢心(まんしん)貪焚(どんたん)の三悪を現()し、エレミヤ、五・六に、林よりいづる(現れる)獅子(しし)は彼等を殺し荒野の(オオカミ)は彼等を滅ぼし(ひょう)は彼等の町々をねら()とあるに()れるなりと。


── ダンテ『神曲(しんきょく)』 ──



……ぎし、っ。何かが(きし)む様な音が聞こえ、私は暗い闇の中。現実と言う名の、悪夢に浸る事となった。……起きると、そこは何処(どこ)か森奧の、小さな家の中であった。


……先程、我々の居た森内の別荘よりも、(はる)か奥の方だろうか。何にしろ、私の顔や腕。(あまつさ)え、前々からある(アザ)となった古傷にすらも、包帯が巻かれていたのは気掛かりだ。


ズキン、ッ。頭が痛んだ。前、この様な光景を見た事だがある。◇◆◇◆……カルメン達の家で、私は愛と言う物を知ってしまった。


そして、それと共に。大きな絶望感と、関係の無い彼等の命を奪う結果となった。──今回も、そうなるのだろうか?私の脳裏に、嫌な推理が頭を(めぐ)り。


今すぐ、この家から出て、あの帰りたくもない別荘へ、帰りたくなった。服は生憎着たままで、武器も一式(そろ)っている。私はすぐ様、自身の体を動かして。部屋の扉を開けた。


誰も居ない。あるのは、大きな木製のテーブルと、棚と気持ち程度の花瓶のみ。


……しかし、玄関の扉が開いた様な音がした。先生か?!──急いで玄関の方を見てみると。そこには、私を拾ったであろう、一人の老婆の姿が見えた。


老婆は、手に洗濯物を持っており。此方(こちら)の姿を見るや否や、笑顔を見せて。机の上へ洗濯物を置き、「大丈夫か」と此方(こちら)の方へと駆け寄ってくる──が。


「……。……っう、うぁ゛ああぁあぁっ?!やっ辞めろ!!私の(そば)に近寄るなッ、分かったら、これ以上私に近付くな──ッ……!」


身体から一気に力が抜けた。そして、私は部屋の(はじ)へと急いで駆け寄れば。近くにあった花瓶を手に取り、相手へ向ける自衛行動を。


……嫌だ、此奴(こいつ)と関わりたくない。関わってしまえば、此奴(こいつ)は殺され、私は心に大きな傷を負う事になる。だから、もう辞めた。


人を信用するのはいけないことだ。全て、彼奴(あいつ)がぐちゃぐちゃに壊して行く。壊される物を積み上げても、意味が無い。


「は、っ?!──っひぃ、はッ!!……っ?」

「大丈夫、そうには見えない様だけど。何があったの?あの人が森で、貴方を見付けたの。大丈夫、怖くないから。安心して──」


あの人?誰だ、先生か?オズヴァルドか?


……ああ、奴の夫であろう人か。まずい、頭が働かない。だって、奴が「来るな」と言っているのに、私に近付くから。怖いんだ。


身体が小刻みに震える、目の前の、脅威(きょうい)にも何にもならない、目の前の老婆が怖い。私を、壊そうとする材料になるから。


「ッ、うわぁ゛あっ!!辞めろ、っ。どうせ、お前も先生に壊されるんだッ!命が惜しいだろ、なら、私にこれ以上近付くなっ……!」

「いえ、命等惜しくも何とも無いわ。もう、娘も息子も旅立ってしまったもの。……何も、残る物は無い。ええ、命等惜しくも無い。だから、私は貴方に近付く権利があるわよね」

「──っ、良いんだな!!死んでも良いんだな、っ!!殺すぞ、私はお前を殺せるっ。その年季(ねんき)の増した人生を、終わらせる事が出来るんだぞっ!!怖く、っ。無いのかよっ!」


まるで、私の言葉を子供の脅しの様に(あしら)うその姿。本当に、嫌な奴に出会った物だ。


──パリン、ッ!!私の持っていた花瓶が、割れる音がした。……私は投げたのだ。この女の奥の壁へ、その花瓶を。女へ直接投げる事は出来なかったが、老婆は私の行動に少し目を見開けば。


音を聞き駆け付けた夫と思しき老人に「待って」と一言。……そして、私の体を、ぎゅっと、抱き締めたのだ。


暖かい、それに、同じ匂いがする。涙が出そうだが──私は、彼女の体を突き飛ばした。


息を荒らげながら、私は目の前へ(たたず)み。


「お前らは、っ!……──〜〜ッう゛!?!……退けッ!!──……っ、ふ。もう良い、助けてくれてありがとうとだけ、言っておこう。私はこの様に、凶暴で残酷(ざんこく)だ!こんな奴が居ても、何の得にもならないよ」


私は直ぐに、彼等へ背を向けて。玄関付近へとぼとぼと、ゆっくり歩いて行く。……しかし、老夫婦の一人、男が私の腕を掴み止めた。


それは、妻を吹き飛ばされた怒りも少し(こも)っており。……だが、それ以上に。私に対する心配の方が強かったと思う。しかし、私はその手をまた振り解き。「次は何だ!」と怒鳴(どな)る。すると、重い腰を上げた女が。


「なら、っ!その傷が()えるまで、此処(ここ)に居て頂戴(ちょうだい)!……っ、私達、貴方が自分の娘の様に思えて、そんな体で外に何か出せやしない」

「……前も、私へそう言った女が居た。だが、其奴は死んだ。私を置いて、傷付けないと言いながら。私の心を傷つけて、死んで行った。なら、お前らが私を傷付けないという証拠が、今っ、此処(ここ)何処(どこ)にあると──?!」

「ならっ!!あの部屋……娘の部屋に、ずっと居て良い。私達は極力、関わらないから。どうか、この家に居て下さい……っ。お願い、しますっ……!」


謝罪の言葉。私の息がひゅ、っと詰まった。


しかし、私もこの傷であの家に向かえば、今度こそ先生からの『教育』を受けて死んでしまうかもしれない。それに、帰れば、奴の死体……オズヴァルドの亡骸(なきがら)もあるだろう。


何も見たくない。だから、逃げる事にした。


「……っ、チッ。お前らがその選択を選ぶのならば、それで良い。……──好きにしろ」


……私は、いつからこんなにも(ひね)くれてしまったのだろうか。『ありがとう』の一言も、(しっか)りと言えない様になっただなんて。


胸が苦しい。とても、生きられない……。

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