064_──全ては、僕の愛する彼女の為に。
「動かないで、ダンテさん」
その言葉通り、瞬時に固まる先生。
……私も、同じく動けなかった。動いたら、私の命は無かっただろう。多分、奴は私を本気で殺しに来ていたと思う。それが、この奴の突き付ける銃口が物語っていた。
そうだ。オズヴァルドは元から、私の事など、信用していなかったのだ。勿論、あの計画等嘘丸出し。
私の作戦は失敗に終わったのと同時に、オズヴァルドの本当の作戦が開始する。
……オズヴァルドはいつもの様に笑いながら、仲間?である私へ冷たい銃口を。
「さあ、答えてダンテさん。答えなきゃ、君のだぁ〜い好きなヴェルギリウスが死んじゃうよ?……お前があの時、僕の屋敷を燃やしたんだろう。答えろ、お前なんだろ?ダンテ」
オズヴァルドが初めて、先生──……ダンテを呼び捨てにした。その目は鋭く、いつもの様に笑っていない。
そして、そこから長々と。彼の夢の様な、はたまた美しい悪夢の様な昔話が始まった。
「俺はこの日をずっと待ち望んで居た。……全ては、愛する女子の為に。あの日、燃える屋敷の前で僕は誓ったんだ。僕から、こんな幸せを奪った奴らに、同じ不幸を味合わせてやる──って……!」
「……っぐ、ふぅ゛……。っぐ、ぎっ。……!」
興奮するオズヴァルドと共鳴する様に、奴は私の頭に掲げられる銃口を、根性焼きの様にぐりぐりと。
そして、私の首を絞める腕の力を強めるのである──。私が苦しみ喘ぐのと同時に、先生の顔色が悪くなる。……場の空気が重い。それに気がついてから、オズヴァルドは「まだ殺さないよ」と一言。
「けど、君達と共にする事に気が付くのさ。ダンテ、君には何も大切な者が無いって。僕でも思うよ、情の薄い野郎だって。けど、もうそれも終わりだ。薄っぺらい友情ごっこ。馬鹿な夢に、笑顔。……僕は君の答えを聞いてから、赤い頭巾の少女と共に眠りにつくよ」
そして、語られるはとある物語。
「あの日、僕がベルヤルナクの為に、花束を君に買いに行っていた時だったかな?その時に、屋敷の方から煙があがっていた。直ぐに、僕は走ったさ。……手を伸ばそうとも、届かない。そして、見えて来るは燃えた屋敷。中には、父母と、ベルヤルナク。そして、僕の兄であるゴモラが居た。……無理矢理燃え盛る屋敷に入ろうとした僕を、周りの大人は止めてしまったね。買ってきた花束を踏みながら。──ゴモラは、運悪く生き残ったけど、ベルヤルナク達は、死んでしまったよ」
「……………………」
「だ、か、ら。もう恍けるのも大概にしろって。分かってんだろ?自分が、あの屋敷を燃やしたって事。あの日、僕は振り返った。振り返った事自体が、罪だったのに……っ!振り返ったら──ダンテ、あの時、君の姿が見えたんだ。緑色の瞳の餓鬼を、君は道中見なかったかい?……全部、お前の性なんだ!僕が、あんな屋敷に行く事になったのも、全部、お前が悪いっ!……振り返りもしなければ、僕は、君達をもっと、愛せた筈なのに……っ」
その言葉を聞いても尚、無言を貫く先生を見て。オズヴァルドは乾いた笑みを見せて。
「図星かな?まあいいさ。──ダンテ。お前は知らないだろうが、君はヴェルギリウスを愛している。それは、恋愛的な意味じゃない。盲目的な、支配欲として。──僕じゃあ、君は殺せない。それは承知の事実だ。なら、どうやってダンテへ、僕と同じ喪失感、絶望、苦痛を味合わせられる?……じっくりと、考えた。そして、導き出された答えがこれだ。──ヴェルギリウスを、目の前で殺す事」
「ひゅ、っ」私の息が詰まった。
此奴は、ずっと。その薄い膜の下で、笑いながら、その感情を押し殺しながら、私と食事をし、笑っていたと……?怖い、恐ろしい。
家族を殺してでさえ、肉親の命を奪ってでさえ、その作戦を実行しようとしていたのか。そして、奴を仲間だと思い込んでいたのは、私一人だけだったと……。
人とは、何度同じ過ちを犯そうとも。
懲りずに、期待してしまう生き物故。
私は、期待してしまった。信用しては行けなかったと、何度も学んだ筈なのに……っ!!
何故、私を取り巻く輩は全員、私の期待を裏切るのか。…………もう、怒る気力すら無くなってきたよ。オズヴァルド……。
「ははは〜。僕の事、殺せるかな?ダンテ。僕を殺せば、ヴェルギリウスは死んじゃうよ。そして、僕を殺さなければ、ヴェルギリウスは死んで、僕も勝手に死んで行く。どう?最高のショーだと思わないかい?」
これこそが、オズヴァルドの人生全てを賭けた大きなゲームであったのだ。全ては、想い人を殺したダンテの為に。……ずっと、隣で。笑顔と言う名の膜を被りながら。──全てを隠しながら一人、嘲笑って居たのだと。
……ずっと、私達の事を信頼すらしていなかったのか。私は目を閉じた。もう、何も見たくなかったから。そして、オズヴァルドが引き金に指を添え、引き金を──。
──しかし、先生は、それを阻止した。阻止出来る程の力を、奴は有して居なかった筈。目を開け奴を見ると、狼の尻尾が膨れ上がっているのが見えた。
……多分、身体にあった全てのエネルギーを使って、割り込み引き金を引くのを阻止したのだろう。それと同時に、オズヴァルドの体は吹き飛ばされて。
壁に奴の体がぶつかるのと同時、オズヴァルドが顔を抑え、床に滴るは鮮血だ。──しかし、尚もオズヴァルドは銃を握り。
引き金を、引いた。発射される弾丸──塩だ。
初めて奴は、自身の塩の能力を使った。それは私の方へと飛んで行く。
……だが、先生はその、私へ向けられたソレを受け止めたのである。次に、限界ギリギリの奴の首元へ力強く蹴りを入れ。すぐ様奴を気絶させた。
先生の手元からは、血が滴り落ちて居る。
「…………っ、はぁーーーーーッ。酒を飲んで良い気分だったのによォ、ヴェルギリウス?」
まずい?!……そう思ったが遅かった。
視界がすぐ様半回転。地面に叩き伏せられたかと思えば、後頭部を鷲掴み。そのまま、勢いを付けて、木の地面へ叩き付けられたのた。顔が歪むのと同時に、先生は。
「──俺を殺す作戦を実行したのはッ、いい判断だった……。だがっ、お前が死んだらッ、俺を殺す奴が居なくなるだろうがッ!!……あぁ?そこン所、分かってやってんのかッヴェルギリウスッッ!!!」
言葉の合間合間に、床へ身体を叩き付けられる。酒で良い気分だった状態を、最悪にされた気分は計り知れないだろう。それに、オズヴァルドの置き土産も相まって。
腕で何とか頭がぶつかるのは阻止しているが……腕がそろそろ限界だ。痛い、苦しいと音を上げている。打撲跡が残りそうだ。
理不尽の塊が、私の身を荒らして行く。
……それに、何故私がこんな目に合わなければならないのか。
何故、私はこんな事をされなくてはならないのか。
──そう考えていると、自然と涙が目元から、涙が零れ落ちて来るのだ。
私は本当なら、幸せになる筈だった。本当ならば、暴力とは程遠い生活を送る筈だった。
考えては駄目だと思っていても、考えて。苦しい、とても生きられない。と。
「──っ、がは、゛っ?!……うぅ゛、ぐ。っ。うぅ゛うううぅぅう゛っ……〜??」
「はは。お前、泣けば許されるとでも思ってんのか?──ッ、チぃ。その面を見ると、段々と腹立って来るんだよな。……その生意気な顔を、もっと醜く歪ませてやろうか?」
そう言い、相当苛立って居るのか。泣き喚く私の頭巾を鷲掴み。先生は私の体を引き摺りながら、暖炉の方へと向かって行く。
……私は、本当はもっと可愛い物が好きなんだ。武器の揃えられた黒装束じゃなくて、本当はフリルの着いたドレスが着たかった。化粧だって、少しはやってみたいと思ってる。
「ぅ゛っ、ぐふっ。……ぁ゛っ。う、っ。……」
「──面白い物を、見せてやるよ」
甘い食べ物を食べて、純粋に笑いたいし。普通は、友達と一緒に出掛けに行くんだろう?私も、してみたかった。武器を研ぐ事で大半を過ごすのじゃなくて、服選びや雑貨屋なんかに行って、友達と大半を過ごしたかった。
売っているタルトじゃなくて、母や叔母の作ったタルトやパイが食べたい。メアリーともう一度、全力で野原を走り回りたい。
将来の夢だってあった。野望なんかじゃなくて、何か明るい夢の為に、全力になりたかった。
今からでもいい。新しい、全うとした人生を送りたい!普通ってものを、味わいたい!
……数分間。私は先生に殴られ蹴られの暴行を受けた。その間、暖炉の近くに。何やら不思議な物が置かれているのが目に入る。
「ィ゛っ、嫌だっ!!痛い、っ。……もぅ、やだっ!辞めたい、苦しい……っ!うぅ゛、っ」
「ん〜、もうそろそろか?さあ〜、ヴェルギリウス。その醜い面を、俺に見せておくれ」
そう言い、先生は私の頭巾を再度掴み。自身の顔へと向けさせて。その何かを、持った。
……やりたい事が、有り過ぎる。そうだ、私はこれを成し遂げれば、死ねると思ってた。
けど、違う。私は生きたい!本当は、全力で生きてみたい!苦しい事も全部放り投げて、本当は生きたいんだ!苦しい事全部投げ捨てて人一倍、傲慢に生きてみたいんだって!!
パイが食べたい。母と祖母と共に、一緒にパイ作りを手伝いたかった。パイを食べた事が無いメアリーとも、一緒に食べたかった。
笑いたい。全力で笑ったら、頬の肉が張り裂ける。だけど、本当は笑いたいんだ。本当は、生きて、頭巾を外して外を歩きたい。
女の子みたいな事をしてみたい。狩りなんて本当は大っ嫌いだ。私は、家で紅茶を飲みながら、ゆっくりタルトを食べる方が好きだ。
戦う事よりも、食事の並べられたテーブル前に立つ方が好き。
──と、そんな事を考えていた時だった。じゅ、ぶっ!燃え盛る様な何かが、私の眼帯の付けられた顔へ、かけられたではないか。
生きたい、熱い。苦しい、死にたい。けど、人一倍生きてみたい。……感情がぐちゃぐちゃだ。もう、なにもかんがえたくなぃ。
「ぁ゛ッ、つぅ゛〜??ぁ゛、ぐっああぁ゛あぁ゛あああああ゛あぁ゛ぁ゛あああ゛あ゛ああああぁあ゛ああああああ゛あっ?!!!」
「っくく、くははっ!はははははははははははははははははっー!!ははははははははははははははははははははははっ、ははははははははははははははははッ!!」
熱湯だ。熱いお湯を、顔にかけられたのだ。
幸い、眼帯をつけていた方の所だったので、あまり火傷部位は少なかったが。
……これが、私の正常な目の方になっていたと思うと、恐ろしい。私は、一生目が見えない事になっていたのかもしれないのだから。
……泣き喚く私を横に、先生はそのまま、頭巾を掴む手は離さずに。ズルズルと、私を引き摺りながら外へ出る。森奥故、私達を見る物等、誰も居ない。誰も居ないのだ。
そして、一ヶ月前。私が、先生と稽古をしていた少し開けた砂利場が見えた。先生は、私の体をそこへ放り投げ。震える手で顔を抑える私を見ながら、鼻で笑うと背を向けて。
「うぅ゛っ、ぐび、ゅ。……っ。うぅ゛えぁ゛っ。……!うぅ゛っ。痛い、いた゛ぃィ!」
「そこで少しは反省しとけ。……ああ、夜までには帰って来いよ。帰って来なきゃ、もっとその面を醜くしてやるよ──」
……ああ、眠くなって来た。多分、久々に子供の様に泣きじゃくって、眠たくなったんだと思う。……もう、何も見たくない。
だから、私は遠ざかる先生の背中を眺めながら、目をそっと、閉じた。
永遠の中に、夢と共に咲き誇らん事を。




