062_僕と君達の、心が擦れ違う。
003
──あの日から、早一ヶ月が経過した。
随分と、時が過ぎるのを早く感じたさ。最初はオズヴァルドの事を疑っていた自分だが、この一ヶ月で、何処か分かり合えないと思っていた自分を、何とか直せた気がするのだ。
それに、あの日の出来事も風化しつつあり。
そして、作戦決行の時が来た。……作戦の内容はこうである。先ず、先生にたらふく酒を飲ませるのだ。
娼館等に、オズヴァルドが連れて行ってくれるらしい。勿論、本来ならば此処らで毒物等を混入させたい所だが……相手が相手だ。
些か場の空気を変えかねん。
まずは様子見。我々の目的は、先生を酒に酔わせる所から。
そして──現在、オズヴァルドと私、そして先生は娼館にて。酒を嗜み、女を満喫していた(何故だか、私も行く羽目になったのだが……)。
グラスが交じ合う音と共に、オズヴァルドが嬉々としながら酒を飲む。片隅では、先生も同様に酒を嗜んでおり。周りには、太客だからだろう。囲う様にして、これ見よがしに女が円を形成していた。
……私は、それを見ながら一人、虚しくグラスを仰いだ。
久しぶりに、奴らとの付き添いで来た物の……どうも、此処の雰囲気には慣れない。
同じ女として、何処か引いてしまう所があるのかもしれないな。と、そんな私の方へと。何も知らずに近付いて来る女が三名。
「ねえ、お兄さん〜。一人で飲んでてさ、寂しく無いの?此処、どんなお店か分かるっ。お酒を飲んで、女の子とイチャイチャする所!」
汗臭い香りを上書きする様な、どぎつい香水の香り。そして、覆い隠す様に塗られたアイシャドウ。化粧も濃いし、何より私の腕へ胸を当てて来るのが些か難儀な所で。
……まあ、身体を頭巾等で隠して居るから、私が女だとは思えないのだろう。それに、自分で言うのも何だが、体格も少し女離れな所はある。
故、男と勘違いをしてしまう事も有り得るのかもしれない。
「あっふー!僕、良い気分になって来たよっ。多めのチップでも上げちゃおうかなっ♡ほら、金の欲しい奴らは集まれーーッ!!」
奥にて、オズヴァルドが酒瓶片手にはしゃいでいるのが見えた。……此奴、作戦の事を覚えているのだろうか……?
少し、心配になって来たが相変わらず、私を取り囲む奴らは向こうへは行かず。此方をターゲットにしている様だ。
一向に、動こうともしない。それに、あの私を囲む相手の女を見る目が、どうも私には不愉快なのだ。
「……うるっせぇ、なぁ。……ほら、奥であの馬鹿が金でも何でもくれてるだろ。私はお前らに金はやらん、さっさと私の傍から退けっ」
その言葉に、私の右側に集まっていた女達は、オズヴァルドの方へそそくさと行ってしまったが……先程から、異様に私へ胸を押し付けてくる、一人の女だけは違った。
ライバルが居なくなり、チャンスと言わんばかりに、私の耳元で囁く様に話すのだ。
「え〜、そんな面目無い事言わないでよぉ!アタシ達と居るの楽しくないの?……お兄さん、一人でお酒飲んでても、気持ち良くも無いでしょっ。他人に、全てを任せるのは楽しいよ?ほら、アタシが濃いのも何でも、ありったけ。君が望む以上に注いであげるから」
そう言い、私が持つグラスへと、此方へ注文したての酒を注ぐ女。……酒の注ぎ方が妙に上手い、相当なやり手と見た。
だが、生憎私は女な物で。男ならば、動かされていたかもしれないが、同族故心が揺るがないのである。勿論、股間は平べったい。
「…………全てを任せる、か。じゃあ、それに甘えて堕ちる所まで堕ちてしまったら、お前ならどうする?もう、這い上がれないならば」
「お、食い付いて来たね〜っ!けど、アタシは甘えて堕ちさせてもまだ満足出来ないなあ。まだ先は長いよ?底まで堕ちたと思っているのかもしれないけれど、まだまだ先はあるのさ。そう言う堕落は無限だよ。底なんて無い。なら、無限に堕ちる方が幸せじゃん!」
おお。意外と、話の通じない尻軽の馬鹿かと思えば、良い女じゃないか。
私は、先生達の見よう見真似で高い酒を頼めば、女は嬉しそうに燥ぎ、またもや私の腕へと胸を寄せ付けて。私が見えないと思ったのだろう。
オズヴァルド陣営へと寄った、先程の女達へと、べーと舌を出し挑発を。
オズヴァルドの方は、強い女共が揃っているからか、奴らの取り分は少ない。故、私の近場に居る女の行動は、正解だったと言える。
「ねーねーっ、お兄さん。もっとアタシとお喋りしようよ〜。アタシ、お兄さんと会話が噛み合うと思うんだよね?……それとも、向こうのお部屋で一緒に遊んでみるっ」
彼女が指差す方向には、暖簾が掛かっており。中は見えない様になっているが……『本番』用の部屋であろう。気に入った女を見つけて、指名し奥の部屋へと連れて行く。
だが、再度言おう。私は女だと。……そろそろ、それを言わなくてはならないな。
「騙していた様な気もするが、私は女だ。お前達と一緒で胸もあるし、何より同じ性別だ。……ほら、分かったなら奴らの方へ行け。お前にチップは沢山とあげるから」
「えっ?!キ、キミ女の子だったの?!じゃあ、アタシ達と同じで、████とか、███とか出来るって訳?けど君、じゃあ一体、抱かれた時どんな声で鳴くのっ??」
「お、ぅお。……随分と近寄って来るな」
同じ性別だと分かれば、食い付いた様に女が私へ近寄って来る。同じ性別だと分かっての、スキンシップだろうか。妙に顔が近いのと、その目が客では無く、友人等の顔色に変わったのだ。
──そして、それを聞き付けて。オズヴァルド達の近くに居た奴らも、ゾロゾロと此方へ寄って来るのである。
物珍しく。まるで、珍獣を見る様に……。
「えー!本当に、貴方って女の子なのっ。……あ、確かに匂いは気使ってるね。わあっ!腹筋割れてる、見てみて、カチカチっ!」
「ちょっとブス!!この子はアタシの獲物だったじゃん。何勝手に近寄ってんのよ猫婆っ!」
「はぁあ?!うっさいわね、アンタ。私より良い歳食ってるババア何だから引っ込んでろ!」
「ねーねー、あの相方……連れの人達と如何いう関係なの?めっちゃイケメンじゃんっ!何?友達?彼氏?お友達?セフレ?」
……少し緊張する。何だろう、こんなにも大勢の人数に囲まれたのは初めてで。些か、手に握るワイングラスも揺れる物で。
そして、それを遠目に眺めながら。近くに女が居なくなったオズヴァルドや先生は、私の方へと視線を向けて。
「わー、僕の女の子達、全員ヴェルギリウスの方に言っちゃった!凄いね、次もヴェルギリウスを連れて来たら、僕達人気者だよっ!」
「彼奴、確かに人を惹き付ける才は在る物で。だが、それが幸か不幸か。嫌いな輩を惹き付けるのが上手な様で」
「ああ、確かにそうかもっ。けど、顔や性格は僕の好みの真逆だね。ブスだし、何より傷有り古物のオンパレード。誰も中古品何て要らないさ。それに、僕の好みは大人しい女の子だからね〜。獣臭い女は嫌いかも〜」
「俺もそれはそうだな。獣の様な女は嫌いだ」
「誰が獣臭い女だってっ!!」──私はそう呟けば。近場にあった酒瓶を握り。女達の隙間を掻い潜り、オズヴァルド達の方へと投げ捨てる。
が、先生はそれを片手でキャッチ。
「随分と手荒い接客だな」と一言。そして、その度数の高い酒を一気飲み。
……次に、美味かったのか。口元を拭い目を少し見開けば、それをグラスへと注いで行くのだ。
オズヴァルドはそれを眺めながら。ずっと、一人寂しく笑っていたんだとか。




