061_会話と食事が擦れ違う。
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「──ん〜。じゃあ、この豚肉の燻製……ベーコンのトマトクリームパスタを一つと……。ヴェルギリウスは何を食べる?何でも頼んで。今日は僕の奢りで良いからさ」
店員を横目に、オズヴァルドはとある洒落たレストラン内。私に向かってそう言った。
メニュー表を見てみると、そこには。
オート麦の、粒の大きなビスケット。
羊肉と、その臭み消しのローズマリー。
根のくり抜かれた山菜添えの茹で馬鈴薯。
貴重である香辛料の塩胡椒がふんだんにかけられた、鶏肉のグリル焼き──……等々。
食欲を唆る様なメニューが沢山と。しかし、近頃人を殺し過ぎたが故、肉料理は避けたい所。私は店員へ、一杯のカボチャポタージュと、バゲットを注文し。
それを聞き、店員はメモ帳を片手に消えて行く……。
オズヴァルドはウエイトレスを横目に、気晴らしと言わんばかりに雑談を。
「此処の店は、ヴェルギリウスの好きなパイやタルトは無かったね。まあ、縁が無かったって事で……。どうする?葡萄酒でも頼むかい」
「お前が飲みたきゃ飲め。私は要らん。……今は、酒を飲みたい気分じゃない。酒は、現実逃避をする為に飲むから。まだ、こんな中途半端な感情じゃ……。少し、勿体無い」
「へえ、現実逃避、か。僕は、普通に娯楽として味わってるんだけどなあ。そう言う考え方もあるのか。良いね、勉強になったよ」
現実逃避の方法は様々だ。例えるならば、何か熱中出来る趣味で発散する事。オズヴァルドや先生は、娼館に入り浸り、現実逃避をしている様で。
だが、生憎私はそう言う物には興味が無いもので。……故の、酒であろう。
と、突如。そんな事をのうのうと考えている私を横に、オズヴァルドが徐にペンを取り出したのである。
そして、何かの文字を淡々と綴るのだ。「は?」そう、不思議な声が出た。
「ねえ、ヴェルギリウス。少し、注文した料理が来るの遅いと思わない?」
そう呟く間にも、奴は文字を綴っている。
私は、急な奇行に走ったオズヴァルドを横目眺めながら、軽率の表情を彼へ浴びせ。
口から出るのは、罵詈雑言の嵐であった。
注文してから一分程度しか、経っていない筈だぞ?頭が遂にイカれたか。
「一体、何をしてるんだ?遂に頭でもおかしくなったか。馬鹿が、私はその奇行を見る為に、このレストランに来た訳じゃないんだが」
「うんうん、そうだよね。ヴェルギリウスも、料理が来るのが遅いと思うか。けど、ウエイトレスの女に対してその態度は、些かねえ?顔と臀が良いからって妬み過ぎだよ〜」
「はぁあ?!」私の喉奥声が出る。
明らかに、会話をしようとする意思が感じられない。この馬鹿は、一体全体何をしたいのか。急に食事に誘われたのかと思えば、奴は徐に紙へ何やら文字を綴るやと……。
そして、私が『オズヴァルド、お前は紙に、一体全体何を綴り始めたんだ?』と言おうと口を開こうとする──が、私の口元へ、彼の人差し指がツンと置かれ。その言葉は阻止された。
そして、此方へ何やらメモ帳を見せるオズヴァルド。……──そこには。
《ダンテさんを、一緒に殺さないかい?》
そう、荒々しい文字で綴られていた。そして、それと共にオズヴァルドが「それと。最近、僕食べ過ぎちゃっててね〜」と、中身の無い言葉を。──更に頭がこんがらがった。
だが、オズヴァルドもそれを察してか。ニコニコとした笑みはそのままに、またもやメモ帳に文字を綴り始めるのだ。そして、見せられたは
《会話は全てダンテさんに聞かれているよ》
と言う一言。……合点がいった。
此奴が、何をしようとしているのかを。
「……それは一体、どういう事だ?」
私は、先程オズヴァルドが発した会話とメモ帳の文字に返答を返す様な返事をし。彼も、それを分かってか。再度、ペンを握り。
「ほら、此処ら辺って、美味しい料理店とかが多いじゃん?だから、沢山食べ過ぎちゃうんだよね。少し、腹が出て来た気もするし」
──再度、此方へ向けられたメモには。
《ダンテさんが店の外に居る。迂闊に内容を話せない。そして、彼は、中には入れない》
……と書かれている。
「──……ははぁ、ん。そう言う事か。確かに、合点がいったよ。で、痩せる為の作戦はどうする?私も共に手伝おう。──だが、条件が一つ。最後は、私にやらせてくれ」
オズヴァルドが提案した作戦を承諾し、私は、内容を事細かく聞く為に。オズヴァルドは、「最後?ああ、ストレッチの終わりね」と一言。
──最後。私があの狼の命を、この手で終わらせてくれるならば、手伝おうと。私は、遠回しにそう言った。
私が、奴の命に終止符を打ってやる。そして、この手で奴を殺した後に……私も、この手で自分の人生を終わらせてやる。
──だが、一応オズヴァルド相手でも、警戒は緩めない方針で。もう、裏切られるのは嫌なんだ。だから、極力相手へ頼らずに。
私は、あの狼を仕留めて見せようと。
「作戦はどうする?……だったっけ。作戦はね、先ずラム肉やプレミアムステーキを食べない事っ!そして、野菜を沢山食べてから、少しあの森でストレッチでもしようかなって」
《作戦は此処では話せない。後で話す。それと、『ダンテさんに止めを刺すのは君』という条件で、ヴェルギリウスは此方側に来てくれるのかい?──ならば、条件は飲むよ》
それへ、私は「それで良い」と一言。
本当は、手信号で私も話を進めたかったが……奴が手信号が分からぬ物で。少し頭を使いながらの会話の始まりさ。
「わかったよ。なら、今日の夜に僕の部屋に来てくれない?一緒に組体操でもやろうかっ」
《翌日に作戦会議を行う。明日、ダンテさんは娼館に行くからね。その時に、じっくり話をしよう。今日は適当にストレッチでもやって、時間を潰そう。信頼を得る為に》
「賛成だ。では、私も自分の道具を持って来よう。それを見て、トレーニングの内容でも決めるとしようか。だが、私も予定が詰め詰めでね。一ヶ月までしか出来ないが?」
一応、作戦の尻尾を掴まれる前に、我々が先手を取るための期間は最低一ヶ月。作戦等は、頭に入れるだけなら得意だ。
オズヴァルドは私の提案を聞き、「う〜ん」と少し唸れば。「なら、それで良い」と一言。
両者共に、協力関係が結ばれた。……だが、引っ掛かる点が一つ。何故、オズヴァルドが先生を殺そうとしているのかである。
奴と先生の間には、私の様な間柄は無い様に思える。それに、ユダが殺されてから数日経ってからの、その報告。明らかに、何かが怪しい様な気がする。奴は信用ならん。
……まあ、私が『裏切り』に怯えている……という事でもあるが。
「なら、一緒に頑張ろっか!」
偽物の皮を被った両者共々、深く握手をした所で、解散。この日は料理を口にせず、匂いだけで腹を満杯にしたんだとか。




