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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode12_目を逸らす事しか出来ない
58/75

057_あの世への特急列車の片道切符。

さて、場面は移り変わり。私の視界にはメイドが武器を構えて、立ち塞がる姿が山程と。


──もう、数えるのも飽き飽きする程に。


多分、この調子じゃ、オズヴァルドや先生も、奴らの餌食(えじき)になって居るだろう。これは早急に片付けて、早く彼らと合流せねばな。


──私が、背中から(オノ)を取り出すと。それを見て、彼らは一斉に飛び上がり。手に構えたナイフを、私の元へと投げ出した。


銃弾の様に飛んでくるナイフを避けながら、私は一人のメイドに目を付ける。ナイフの持ち方が歪な様子から察するに、まだまだ(ネズミ)の掃除に慣れていない、新人と見た。


(あん)(じょう)、私がその者の近くへ駆け寄ると。逃げる事は(おろ)か、腕を前にして、防御の姿勢を表したのだ。


──馬鹿め、私はそう呟けば。その腑抜(ふぬ)けた脳天へと、一気に斧を突き刺した。上眼を超え、白目を向き絶命。そんな彼女の死体から、私は血肉に塗れた斧を抜き。


「……いち、に、さん……。はは、今日は大量だな。沢山の死体が拝めるよっ!」

此奴(コイツ)──ッ!やはり、(ただ)の旅人では無いな」


メイド長である、ヨシヒデがそう呟いた。だが、その間にも。私は一匹一匹、確実にメイドを仕留めて行くのだ。例えるならば、か弱いひよこを一つ一つ、殺していく様な。


楽だが、些かこれがまた疲れる物で……。


途中、弾が有り余る散弾銃に変えたりと試行錯誤(しこうさくご)の繰り返し。しかし、数が数だけ、終わりが見えずにモチベーションが下がるのだ。それに、死を恐れずにやって来る奴らの顔を見ると、吐き気がする。


「総員、警戒は(おこた)るな!焦らずに、目の前の事を受け止めて。心を穏やかに、焦るな、急かすな、恐るな!!正義は希望なり、我らは必ず、勝つ運命にあるのだと──ッ!!」


途中、一人のメイドがそう呟いた。


「はっ、とんだ洗脳教育だな。お前らが、それ程までに命を賭ける理由は何だ?」

「──全ては、愛する者の為。……孤児の我々を、快く迎え受けてくれた旦那様。我々へ、社会で生きる学や礼儀を教えてくれた奥様。そして、私達の子供の様な存在である──」


まだ言葉を繋げ様とする彼女の口を、私は塞ぎ。人差し指を立て、「しぃ」一言。次に、彼女の首を真逆の向きへとへし折った。


「……はあ、聞いて呆れたよ。とんだ腑抜(ふぬ)け話、豚の餌にもならねえな。──何奴(どいつ)此奴(こいつ)も、綺麗事しか並べない。だから何だ、自分の欲に従ってこその、人間だろっ!!?」


お前らは、まだそれが壊されないから、そんな事が言えるんだ。私の様になってみろ、私の気持ちを味わって見ろ!そしたら、痛い程に、言葉の重みが分かると思うから……。


だから、そんなら綺麗事は辞めろ。私が(みじ)めに思えて来るし、色々な思い出が、沸々(ふつふつ)(よみがえ)って来るから。


──そして、その耐えきれない感情を上塗りする為に、私は人を殺す。


全ては、私が私の為に。


「何が人間だ、化け物が人間を語るのかっ。それこそ、お前の理想論だ。(はなは)だしいな。此方(こちら)が恥ずかしくなって来るなり──」

「……お前、ヨシと言ったか?お前は良いよな。そうやって、護れる者が居るってのは」


その言葉と共に、彼女の目の前に掲げられしは、鉄の斧。──一通り、会話中。そこらの従者(じゅうしゃ)共は殺し終えた。残るは、私を此処(ここ)へと導いたメイドと、数人の従者(じゅうしゃ)のみ。


だが、私の斧を避けたヨシは、そのまま地面に足を踏み入れて。(ふところ)で温めておいた、小さな刃を(あられ)(ごと)此方(こちら)へと。私はそれを、近場にあった机を倒して盾替わりに。


次に、死角から、(ふところ)にある散弾銃(さんだんじゅう)を取り出し、相手へと発砲。鉛玉(なまりだま)は数発、大半は壁へと直撃したが、一人の従者(じゅうしゃ)は殺せた様で。


机の裏、弾を装填している際、人が倒れる様な鈍い音が耳を掠めたからだ。──私の背中に覆い広がる、赤い頭巾(ずきん)の服の端。それの裏側には、沢山の銃や武器。弾が隙間無く仕込まれている。


その中、一際大きな散弾銃の銃弾を数発手に取って。ショットガンを上下、出て来た弾を詰める場所へと弾を装填し。再度銃口を握りガチャリ。……散弾銃、一応持っては居るが、(あま)り扱いには慣れて居ない。


近距離での使用なら問題無い物の。私の愛銃であるピースメーカーは、ユダに没収されてそれっきり。また、黒猫の元へと行かなければいけなくなってしまっている。


故に、私の手元には、余り使わぬ武器ばかりが収納されているのだ。散弾銃に、少し不具合が残る手榴弾(ピンが硬いや、安全バーが緩い等々(などなど))。有り余る弾と、気持ち程度の小刀(こがたな)が一つ。


……それに、この小刀(こがたな)は余り使いたくは無い。何故(なぜ)なら、ユダを殺した刀だから。


私情ではあるが、こう……使うと胸が苦しいのだ。それに、血が着くと尚更(なおさら)


「……っぷ、はぁ。もう少し、マシな武器は無いのかよ。これじゃあ子供のままごとだ」


地面に零れた紅茶と、割れたティーカップ。散乱するは、火薬の入って居ない空弾に、数多もの血と死肉。……鼻に、ツーンと突き刺さるは、鉄の臭いと紅茶の香り。


圧倒的に色々と不味い組み合わせだ。この世の物とは思えない臭いがする、それに、死臭も強い。


それを胸に私は再度、散弾銃を片手に、彼等(かれら)の隠れる机へと銃口を向け、何発か発射。


……しかし、人気がしないのだ。


──まさか!そう思った頃には、もう遅い。立膝(たてひざ)の体制のまま、私は固まった。そして、冷たい銃口が後頭部へと。……相手の持っている銃は、リボルバーだろうか。


カチカチカチ……ッ。カチャン。他の銃と比べて、軽々しい装填音が聞こえたからだ。それに、銃口も他と比べて(いささ)か小さい様な気がするのだ。


──「動くな」。ヨシの冷たい言葉が、私の胸へと深く刺さる。


「少しでも不穏な動きを見せたならば、此処(ここ)で殺す。その扱えぬ銃を置いて、両手を上げて地面に(ひざまず)け。──貴様は一体、何者だ?」


……私はその言葉通り、散弾銃(さんだんじゅう)を遠くへ投げ棄てる。そして、両手をゆっくりと上げた。


質問の答えは、返す予兆(よちょう)も無い。そんな私を見て、ヨシは「はあ」と溜息(ためいき)を。


「……質問を変えよう。──貴様は、もし、苦楽を共にした仲間が死んだらどうする。どんな感情を抱く」


ヨシヒデから、そんなクイズの様な質問が。


「はっ。そんなボンクラ、死んで当然だ」


その我々の言葉に、ヨシヒデは「有り得ない」と声を漏らす。……多分、奴ならば追悼(ついとう)の意を(しょう)すだろう。だが、私は違う。


(おのれ)の為だけに、利己的に行動するのだ。私だって、仲間を助けようとは思うが、私の命が危うくなったら、早急に撤退するつもりだ。


そして、心の中で「彼奴(アイツ)は良い奴だった」と想いを巡らせる。それで私は十分だ。


……だが、最近は、そうも思えなくなってきた。全ては、あのユダの置き土産のせいで。


「……。……貴様の目的は何だ」

「そりゃあ、あの先生を殺して、死に際の腑抜(ふぬ)けた鳴き声を聞く為だ。その為ならば、私はどんな犠牲も踏みにじろうと──」


ヨシヒデはそんな私の言葉を聞けば、溜息(ためいき)を吐き。そのまま、最後の質問へ。


「最後の質問だ。……貴様の身分を明かせ。明かしたならば、殺しは免除しよう」


……嘘だな。私はヨシヒデへ視線を向ける。


すると、その瞳には、確かに殺意が(こも)っている。こんな奴が、我々の殺しを免除してくれる筈が無い。分かりきった嘘である。


奴の鼻は、随分(ずいぶん)と伸び切っているだろうに。


「私は、フォアローゼスが好きだ、以上」


好きな酒の銘柄(めいがら)を答える私を見て、ヨシヒデは鋭い視線を向ける。そして、凍り付く様な凍える声と共に、ヨシヒデは。


「そうか。貴様、中身からして最悪だ──!」


そして、その引き金に指が置かれた……瞬間であった。


私は瞬時に足裏をクロス、身体を九十度回転させ。リボルバーをその手に掴み、奴から奪い取る。……先程の会話をしていた時間があれば、優に私を十回は殺せただろうに。


こういう、生かし癖のある奴は殺しに向いていない。私ならば、余程(よほど)の事がない限り、喋る間も無くぶっ殺す。どうせ、のうのうと死体と喋っても、何の為にもならないだろう?


私はそのまま、発射されていないリボルバーを手に持ち、ヨシと呼ばれるメイド長の脳天目掛けて、鉛玉を発射する。しかし、奴は体勢を崩し、脳天の弾を右目に傾けた様で。


右目が潰れるのと共に、従者(じゅうしゃ)のメイドが武装状態へ──。……しかし、遅い。遅すぎる。


一人目は股間辺りに(ひざ)をぶつけ、緩んだ所へ弾を脳天へセット。二人、三人目は逃げようとした所を狙い撃ち、足を潰して脳天だ。


次に、弾が無くなったのを確認。自身の(ふところ)から、掻き集めた銃弾三つを装填後、ヨシメイドへとそれを向け、躊躇(ためら)わず発射。


──だが、ヨシは右目を抑えながらもそれを回避。片手で此方(こちら)へと、ナイフの刃を投げて来る。


……何度も逃げる(ウサギ)の様に、小賢(こざか)しく鬱陶(うっとう)しい奴だ。だが、足に怪我を負った(ウサギ)が、(オオカミ)と対面したらどうなるか。


私は、左手に斧を手に取って。相手の脇腹(わきばら)目掛けてぶん投げる。しかし、それは壁に刺さっただけ。相手は右目をぐっ、と抑え、私の近接武器が無くなったのを確認後、此方(こちら)へと。


だが、私にはもう一つ、心許無いが武器はある。──あの小刀(こがたな)だ。(ふところ)から小刀(こがたな)を取り出した私を見て、相手は驚愕(きょうがく)。しかし、ここまで来たからにはもう下がれまい。ヨシは自身も手の平程度の刃しかないナイフを取り出し、私と応戦を。


「──ッ、ぅ!……ぐふっ、は」

「……はは、目の傷が痛むだろ?その調子じゃ──ッ、私に殺されるか、出血死でそのままおさらばか。そろそろお前の手に、見えるんじゃないか?あの世への片道切符(かたみちきっぷ)がよぉ!!」


顔を歪ませるヨシ。顔には、炸裂(さくれつ)した様に血が(まと)わり付いており。抑える右手は絶えず血に(けが)れ、ぽたぽたと血が滴り落ちるのだ。


小刀(こがたな)同士の決闘は、やはり私が押している。ガンガンと、耳を(つんざ)く金切り音と共に、確かにヨシが後方へと下がって行く……。


「あの世への片道切符(かたみちきっぷ)……か。はは、その冗談、気に入ったよ。……ッ、ふ。──だが、私には、居ない筈の、お嬢様の幻影が……」


お嬢様、オズヴァルドの妻であろう人だろうか。しかし、確信が無いのは確か。


……彼女の瞳を眺めてみても、女の姿は何処(どこ)にも無い。見えるのは、一匹の(オオカミ)だけだった。


出血多量の幻覚だろうか?まあ、脳に近い部分の損傷だ、そんな事が早く起こっても、何らおかしな事では無い筈だ。


……徐々に、徐々に。ヨシの背中が、やはり壁側へと押されて行く。彼女自身、それは承知の事実故。半分、生を諦めてさえいた。


「……ッ、ああ、お嬢様……っ。今、我々一同、其方(そちら)へ向かいますから……──」


その瞬間だった。グジュり、鳥の砂囊(さのう)……砂肝(すなぎも)を切り付けた様な感覚が。


──心臓へ、その刃が刺さった証拠だ。心臓は他の肉と比べ、刺した時の独特な感触が特徴。砂肝(すなぎも)を割く様な、そんな感触がするのだ。


……気持ち悪い。しかも、ユダを殺したナイフで……。


地面に力無く倒れるヨシと同じく、私の手元に握られた、血だらけのナイフも地に落ちて。息が荒い。……きっと、激しい戦闘のせいだ。──手が震える、慣れない散弾銃(さんだんじゅう)を連発したからだ、きっと……。


私は、そう自分に思い込ませ、血だらけのナイフを(ふところ)仕舞(しま)い。壁に刺さった斧を抜く。


そして、震える手をギュッと握り、離しの繰り返し。──私は、確かに強くなっている。


前の自分であれば、この状況を切り抜ける事はおろか。途中のメイドとの数戦で、力尽きていた事だろう。強さを実感すると、総じて股間と胸が熱くなる……が、今回は違った。


「………………」


……私は、狂人の真似事をしているだけ。

彼奴(アイツ)らとは、絶対に違う……………………。

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