057_あの世への特急列車の片道切符。
さて、場面は移り変わり。私の視界にはメイドが武器を構えて、立ち塞がる姿が山程と。
──もう、数えるのも飽き飽きする程に。
多分、この調子じゃ、オズヴァルドや先生も、奴らの餌食になって居るだろう。これは早急に片付けて、早く彼らと合流せねばな。
──私が、背中から斧を取り出すと。それを見て、彼らは一斉に飛び上がり。手に構えたナイフを、私の元へと投げ出した。
銃弾の様に飛んでくるナイフを避けながら、私は一人のメイドに目を付ける。ナイフの持ち方が歪な様子から察するに、まだまだ鼠の掃除に慣れていない、新人と見た。
案の定、私がその者の近くへ駆け寄ると。逃げる事は愚か、腕を前にして、防御の姿勢を表したのだ。
──馬鹿め、私はそう呟けば。その腑抜けた脳天へと、一気に斧を突き刺した。上眼を超え、白目を向き絶命。そんな彼女の死体から、私は血肉に塗れた斧を抜き。
「……いち、に、さん……。はは、今日は大量だな。沢山の死体が拝めるよっ!」
「此奴──ッ!やはり、唯の旅人では無いな」
メイド長である、ヨシヒデがそう呟いた。だが、その間にも。私は一匹一匹、確実にメイドを仕留めて行くのだ。例えるならば、か弱いひよこを一つ一つ、殺していく様な。
楽だが、些かこれがまた疲れる物で……。
途中、弾が有り余る散弾銃に変えたりと試行錯誤の繰り返し。しかし、数が数だけ、終わりが見えずにモチベーションが下がるのだ。それに、死を恐れずにやって来る奴らの顔を見ると、吐き気がする。
「総員、警戒は怠るな!焦らずに、目の前の事を受け止めて。心を穏やかに、焦るな、急かすな、恐るな!!正義は希望なり、我らは必ず、勝つ運命にあるのだと──ッ!!」
途中、一人のメイドがそう呟いた。
「はっ、とんだ洗脳教育だな。お前らが、それ程までに命を賭ける理由は何だ?」
「──全ては、愛する者の為。……孤児の我々を、快く迎え受けてくれた旦那様。我々へ、社会で生きる学や礼儀を教えてくれた奥様。そして、私達の子供の様な存在である──」
まだ言葉を繋げ様とする彼女の口を、私は塞ぎ。人差し指を立て、「しぃ」一言。次に、彼女の首を真逆の向きへとへし折った。
「……はあ、聞いて呆れたよ。とんだ腑抜け話、豚の餌にもならねえな。──何奴も此奴も、綺麗事しか並べない。だから何だ、自分の欲に従ってこその、人間だろっ!!?」
お前らは、まだそれが壊されないから、そんな事が言えるんだ。私の様になってみろ、私の気持ちを味わって見ろ!そしたら、痛い程に、言葉の重みが分かると思うから……。
だから、そんなら綺麗事は辞めろ。私が惨めに思えて来るし、色々な思い出が、沸々と蘇って来るから。
──そして、その耐えきれない感情を上塗りする為に、私は人を殺す。
全ては、私が私の為に。
「何が人間だ、化け物が人間を語るのかっ。それこそ、お前の理想論だ。甚だしいな。此方が恥ずかしくなって来るなり──」
「……お前、ヨシと言ったか?お前は良いよな。そうやって、護れる者が居るってのは」
その言葉と共に、彼女の目の前に掲げられしは、鉄の斧。──一通り、会話中。そこらの従者共は殺し終えた。残るは、私を此処へと導いたメイドと、数人の従者のみ。
だが、私の斧を避けたヨシは、そのまま地面に足を踏み入れて。懐で温めておいた、小さな刃を霰の如く此方へと。私はそれを、近場にあった机を倒して盾替わりに。
次に、死角から、懐にある散弾銃を取り出し、相手へと発砲。鉛玉は数発、大半は壁へと直撃したが、一人の従者は殺せた様で。
机の裏、弾を装填している際、人が倒れる様な鈍い音が耳を掠めたからだ。──私の背中に覆い広がる、赤い頭巾の服の端。それの裏側には、沢山の銃や武器。弾が隙間無く仕込まれている。
その中、一際大きな散弾銃の銃弾を数発手に取って。ショットガンを上下、出て来た弾を詰める場所へと弾を装填し。再度銃口を握りガチャリ。……散弾銃、一応持っては居るが、余り扱いには慣れて居ない。
近距離での使用なら問題無い物の。私の愛銃であるピースメーカーは、ユダに没収されてそれっきり。また、黒猫の元へと行かなければいけなくなってしまっている。
故に、私の手元には、余り使わぬ武器ばかりが収納されているのだ。散弾銃に、少し不具合が残る手榴弾(ピンが硬いや、安全バーが緩い等々)。有り余る弾と、気持ち程度の小刀が一つ。
……それに、この小刀は余り使いたくは無い。何故なら、ユダを殺した刀だから。
私情ではあるが、こう……使うと胸が苦しいのだ。それに、血が着くと尚更。
「……っぷ、はぁ。もう少し、マシな武器は無いのかよ。これじゃあ子供のままごとだ」
地面に零れた紅茶と、割れたティーカップ。散乱するは、火薬の入って居ない空弾に、数多もの血と死肉。……鼻に、ツーンと突き刺さるは、鉄の臭いと紅茶の香り。
圧倒的に色々と不味い組み合わせだ。この世の物とは思えない臭いがする、それに、死臭も強い。
それを胸に私は再度、散弾銃を片手に、彼等の隠れる机へと銃口を向け、何発か発射。
……しかし、人気がしないのだ。
──まさか!そう思った頃には、もう遅い。立膝の体制のまま、私は固まった。そして、冷たい銃口が後頭部へと。……相手の持っている銃は、リボルバーだろうか。
カチカチカチ……ッ。カチャン。他の銃と比べて、軽々しい装填音が聞こえたからだ。それに、銃口も他と比べて些か小さい様な気がするのだ。
──「動くな」。ヨシの冷たい言葉が、私の胸へと深く刺さる。
「少しでも不穏な動きを見せたならば、此処で殺す。その扱えぬ銃を置いて、両手を上げて地面に跪け。──貴様は一体、何者だ?」
……私はその言葉通り、散弾銃を遠くへ投げ棄てる。そして、両手をゆっくりと上げた。
質問の答えは、返す予兆も無い。そんな私を見て、ヨシは「はあ」と溜息を。
「……質問を変えよう。──貴様は、もし、苦楽を共にした仲間が死んだらどうする。どんな感情を抱く」
ヨシヒデから、そんなクイズの様な質問が。
「はっ。そんなボンクラ、死んで当然だ」
その我々の言葉に、ヨシヒデは「有り得ない」と声を漏らす。……多分、奴ならば追悼の意を称すだろう。だが、私は違う。
己の為だけに、利己的に行動するのだ。私だって、仲間を助けようとは思うが、私の命が危うくなったら、早急に撤退するつもりだ。
そして、心の中で「彼奴は良い奴だった」と想いを巡らせる。それで私は十分だ。
……だが、最近は、そうも思えなくなってきた。全ては、あのユダの置き土産のせいで。
「……。……貴様の目的は何だ」
「そりゃあ、あの先生を殺して、死に際の腑抜けた鳴き声を聞く為だ。その為ならば、私はどんな犠牲も踏みにじろうと──」
ヨシヒデはそんな私の言葉を聞けば、溜息を吐き。そのまま、最後の質問へ。
「最後の質問だ。……貴様の身分を明かせ。明かしたならば、殺しは免除しよう」
……嘘だな。私はヨシヒデへ視線を向ける。
すると、その瞳には、確かに殺意が篭っている。こんな奴が、我々の殺しを免除してくれる筈が無い。分かりきった嘘である。
奴の鼻は、随分と伸び切っているだろうに。
「私は、フォアローゼスが好きだ、以上」
好きな酒の銘柄を答える私を見て、ヨシヒデは鋭い視線を向ける。そして、凍り付く様な凍える声と共に、ヨシヒデは。
「そうか。貴様、中身からして最悪だ──!」
そして、その引き金に指が置かれた……瞬間であった。
私は瞬時に足裏をクロス、身体を九十度回転させ。リボルバーをその手に掴み、奴から奪い取る。……先程の会話をしていた時間があれば、優に私を十回は殺せただろうに。
こういう、生かし癖のある奴は殺しに向いていない。私ならば、余程の事がない限り、喋る間も無くぶっ殺す。どうせ、のうのうと死体と喋っても、何の為にもならないだろう?
私はそのまま、発射されていないリボルバーを手に持ち、ヨシと呼ばれるメイド長の脳天目掛けて、鉛玉を発射する。しかし、奴は体勢を崩し、脳天の弾を右目に傾けた様で。
右目が潰れるのと共に、従者のメイドが武装状態へ──。……しかし、遅い。遅すぎる。
一人目は股間辺りに膝をぶつけ、緩んだ所へ弾を脳天へセット。二人、三人目は逃げようとした所を狙い撃ち、足を潰して脳天だ。
次に、弾が無くなったのを確認。自身の懐から、掻き集めた銃弾三つを装填後、ヨシメイドへとそれを向け、躊躇わず発射。
──だが、ヨシは右目を抑えながらもそれを回避。片手で此方へと、ナイフの刃を投げて来る。
……何度も逃げる兎の様に、小賢しく鬱陶しい奴だ。だが、足に怪我を負った兎が、狼と対面したらどうなるか。
私は、左手に斧を手に取って。相手の脇腹目掛けてぶん投げる。しかし、それは壁に刺さっただけ。相手は右目をぐっ、と抑え、私の近接武器が無くなったのを確認後、此方へと。
だが、私にはもう一つ、心許無いが武器はある。──あの小刀だ。懐から小刀を取り出した私を見て、相手は驚愕。しかし、ここまで来たからにはもう下がれまい。ヨシは自身も手の平程度の刃しかないナイフを取り出し、私と応戦を。
「──ッ、ぅ!……ぐふっ、は」
「……はは、目の傷が痛むだろ?その調子じゃ──ッ、私に殺されるか、出血死でそのままおさらばか。そろそろお前の手に、見えるんじゃないか?あの世への片道切符がよぉ!!」
顔を歪ませるヨシ。顔には、炸裂した様に血が纏わり付いており。抑える右手は絶えず血に穢れ、ぽたぽたと血が滴り落ちるのだ。
小刀同士の決闘は、やはり私が押している。ガンガンと、耳を劈く金切り音と共に、確かにヨシが後方へと下がって行く……。
「あの世への片道切符……か。はは、その冗談、気に入ったよ。……ッ、ふ。──だが、私には、居ない筈の、お嬢様の幻影が……」
お嬢様、オズヴァルドの妻であろう人だろうか。しかし、確信が無いのは確か。
……彼女の瞳を眺めてみても、女の姿は何処にも無い。見えるのは、一匹の狼だけだった。
出血多量の幻覚だろうか?まあ、脳に近い部分の損傷だ、そんな事が早く起こっても、何らおかしな事では無い筈だ。
……徐々に、徐々に。ヨシの背中が、やはり壁側へと押されて行く。彼女自身、それは承知の事実故。半分、生を諦めてさえいた。
「……ッ、ああ、お嬢様……っ。今、我々一同、其方へ向かいますから……──」
その瞬間だった。グジュり、鳥の砂囊……砂肝を切り付けた様な感覚が。
──心臓へ、その刃が刺さった証拠だ。心臓は他の肉と比べ、刺した時の独特な感触が特徴。砂肝を割く様な、そんな感触がするのだ。
……気持ち悪い。しかも、ユダを殺したナイフで……。
地面に力無く倒れるヨシと同じく、私の手元に握られた、血だらけのナイフも地に落ちて。息が荒い。……きっと、激しい戦闘のせいだ。──手が震える、慣れない散弾銃を連発したからだ、きっと……。
私は、そう自分に思い込ませ、血だらけのナイフを懐へ仕舞い。壁に刺さった斧を抜く。
そして、震える手をギュッと握り、離しの繰り返し。──私は、確かに強くなっている。
前の自分であれば、この状況を切り抜ける事はおろか。途中のメイドとの数戦で、力尽きていた事だろう。強さを実感すると、総じて股間と胸が熱くなる……が、今回は違った。
「………………」
……私は、狂人の真似事をしているだけ。
彼奴らとは、絶対に違う……………………。




