表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode10_荒唐無稽な夢を終わらせん
48/75

047_英雄は英雄を否定し、死んで行く。

バチ、ッ。ぶぁ、っ。……蝋燭(ロウソク)灯火(ともしび)が、控え目な破裂音と共に燃え上がり。


微風(そよかぜ)程度で消えそうな蝋燭(ロウソク)を片手に、ダンテは小脇(こわき)に大きな本を抱えながら、暗闇内、階段を上がった。


服は軽装。いつもは厚着のコートやハットで隠す尻尾(しっぽ)や耳も、今や全てさらけ出され。ご機嫌良さそうに、ぶんぶんと振る始末。──そしてその尻尾(しっぽ)は、とある部屋の前で止まった。


ユダの部屋である。ダンテは片手に蝋燭(ロウソク)、もう片手に本を抱き抱えながら、その扉を蹴破った。──窓が空いている。一気に、外の冷気が廊下内へと侵入。部屋は異様に暗い。


「…………」


状況を把握。その後、ダンテはそのまま本と蝋燭(ロウソク)を、近場の机の上に置き。地面へピタリと右頬(みぎほお)をくっ付け、床を眺め始めた。


……足跡が、空いた窓に向かって微かに見える。ダンテは隣のオズヴァルドの部屋も拝見したが、同じく。蝋燭(ロウソク)一つ燃やさずに、窓だけが不思議と空いていた。


──ダンテは、その肩に小銃を抱え。窓の(ふち)へ靴裏を置き、ハットとコートを羽織(はお)えば。


「──さあ、チェスゲームの始まりだ」



001



永遠(とこしへ)の物のほか物として我より先に(つく)られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、

(なんじ)等こ()に入るもの一切の望みを()てよ。


──ダンテ『神曲(しんきょく)』 第三曲──



──それは、ダンテが森奥の小屋から出てから、数分程度経った頃であった。


小規模な建物の外壁。扉を守る守衛(しゅえい)二人の視界に、一人の男が入り込み。──厚着のコートに、薄汚れたハット。肩には小銃(しょうじゅう)を構え、物言えぬ雰囲気を、その男は(かも)し出していた。


守衛(しゅえい)は少し顔を(こわ)ばらせ。双方(そうほう)相方(あいかた)へ目配り後。……重い口を開いた。


「お客さん。今、事務所(じむしょ)はお取り込み中でして。依頼なら、後日(うけたまわ)りま、ッぐぅ、?」


それは一瞬だった。子供が、粘土で作った人形の首を千切(ちぎ)る様に。ダンテは、その者の首をへし折ったのだ。


口に(くわ)えた煙草(タバコ)を上下させながら、ダンテは尻餅(しりもち)を着く(かたわ)らの一人へ、その冷たい小銃(しょうじゅう)の銃口を向けて。


「ユダ……いや、『タマル』って奴を俺ァ探してるんだ。知らねえか?此処(ここ)に居る筈何だがよ」

「そ、そんな者は知らんっ!それより、何なのだ貴様は!人を殺して置いてその態度──?」

「ビンゴ。ポーカーフェイスが下手だな〜お前さんっ」


守衛(しゅえい)の最後は、反転した視界に映るダンテの姿を(とら)え終わった。……ダンテは次に、事務所(じむしょ)(とびら)を蹴破る形で突き破り。


──中に居た事務職員(じむしょくいん)達は、「来たか」と言わんばかりの視線をダンテへ注ぎ。各々、武器を装備する。


が、お構い無しにダンテは、いつもの薄ら笑みのまま、その武器を片手に。


緊迫(きんぱく)する彼らの空間へと足を踏み入れて、ニマリと珍妙(ちんみょう)に微笑めば。


冥土(めいど)の土産は考えて来たか?」


戦慄(せんりつ)する程に速きリロード。発砲音が引き金に、一名が死亡。その後、彼らが動き出す。武器は少し質の良い拳銃と言った所で。だが、撃たずして何になると言うのか。


ダンテは、彼らに撃つ暇も与えずに。そのまま一人一人と、確実に職員を殺害して行く。小規模事務所(しょうきぼじむしょ)(ゆえ)、支部程武器も数も少ない。


彼らの放つ銃弾はかすりもせず。当たったかと思えば、(しかばね)と化した肉壁で弾を塞がれ、自身が次の標的になる。


圧倒的な力の前に、人は平伏す生き物だ。


……しかし、今回ばかりはそうは行かなかった。皆が、勇気の含んだ眼差しで死んで行くからだ。この行動に、意味や希望がある様に。──希望を、見つけた様に。


だが、ダンテにはその雰囲気が気に入らない様で。少し表情を(こわ)ばらせながら、小銃(しょうじゅう)を片手に握っている。……腹が立つ、ダンテは、苦痛に屈服する人の姿が見たいのだ。


こんな勇敢(ゆうかん)なボロ布共等、見たくもない。


「……うぅ゛ぐ、後は──頼みました……っ」


()れたばかりの珈琲(コーヒー)の香り漂う事務所内(じむしょない)は、何とも言えぬ温かさに呑まれており。先程まで、彼らが日常を謳歌(おうか)していた姿が目に浮かぶ。……そろそろ肉壁も無くなりそうだ。


ダンテは、一通り肉共を殺し終えると。最後の一匹だけを残し、その鮮血(せんけつ)の付着した銃口を彼に向け──、一言。


その言葉は、この世の者が発するとは思えない話だったろう。絶望を肌身で感じる言葉であった。だが、目の前の男は怯まない。


「そんな脅し、効くもんか。──僕らのボスは、この世界を変えてくれる。僕達の命も、きっと役にたててくれると信じてい」


バピュン、ッ!言葉は最後まで聞かなかった。だが、聞いていたとしても、無駄だっただろう。誰が、つまらぬお前の感情の自問自答(じもんじとう)(など)聞く物か。


ダンテはそのまま、温もりの消えた支部内。地下通路へ降りる階段を見つけ。コツコツと、革靴を踊らせながらそこを降り。


……馴染みのある匂いがする。ダンテが階段へ目を向けると、そこには、ヴェルギリウスの血が(したた)り落ちていた。どうやら、ヴェルギリウスやオズヴァルドの監禁場所は、此処(ここ)で間違い無いらしい。(ケモノ)はその煙草(タバコ)をぷっ、と石の階段へと吐き出せば。


そのまま下へと降りて行く。ゆっくりと、噛み締める様に……。


「……っ、死んだ獣の臭いがするな……」


──獣は臭いに敏感だ。故に、ダンテは少し鼻を手で覆い、目元を歪ませる。そして、それが地下室内全体に充満しているのだ。


数分。──何段降りただろうか。考えるのも飽き飽きして来た頃。ようやく、部屋らしき空間を見つけるダンテ。ダンテは、そのまま無粋(ぶすい)ながらも、部屋へズカズカと入って行く。


そして、その部屋の中央には。血の匂いを漂わせ、地面に倒れる肉塊が。


──その匂いは、ヴェルギリウスものである。


「おい、ヴェルギリウス。いつまでそう駄々(だだ)()ねて寝てるんだ。起きろ、殺すぞ──」


そう言い、ダンテは地面に這い(つくば)るヴェルギリウスの体を蹴るが、反応は無い。それに、ダンテは「チッ」と舌打ちをすると。


そのまま面倒そうにしゃがみ込み、ヴェルギリウスの体を此方(こちら)へ向けさせる。……ドゴ。


「…………っん?」


人の子の感触では無かった。


……それに、この異様な獣臭。漂うはヴェルギリウスの血の匂いと、キツイ獣の血の香り。それはまるで、上から乱雑に上塗りをする為の様にも思える。次に、ヴェルギリウスらしからぬこの重みと触り心地。


……昔からダンテはヴェルギリウスの体重は、乙女(おとめ)(わく)には収まらない程重いと知っていたが……これ程まででは無い(はず)だ。


──答えは、ダミー人形である。


だが、そう気が付いた頃には遅かった。一本のマッチが部屋内に投げ捨てられ。ダンテは暗闇を歩いて来たからか、その灯火(ともしび)が、妙に明るく思え。


……その灯火(ともしび)を頼りに見えたのは、地面に撒き散らされた火薬の数々。


この鼻を直接突く様な獣臭は、撒き散らされた火薬の香りを、上から強く上塗りする為の物であったのだ。そして見えるは、煤色(すすいろ)の髪の女ナチチと、鋭い視線で此方(こちら)を見つめるタマルの姿。


「総員、退避ーーーッ!!」


その言葉と共に、ダンテの居た部屋内は、罪人を焼く豪華(ごうか)の爆炎で埋め尽くされた。


ごうごう、と煙る(すす)。爆発は成功したのだ。


……タマルは、埋もれた地下を眺めながら、先程、上で死んだ仲間へと、追悼(ついとう)の意を表すした。


──敬礼(けいれい)である。それを見て、その場に居た数名の職員とナチチも、同じく炎に向かい敬礼(けいれい)を。燃え上がる黒煙をじっと眺めながら。


「……即死だね。今頃、走馬灯(そうまとう)を胸に沢山と抱きながら、潰れ死んでいるだろうに……っ、ごほ、っごほ」


タマルは、片手に蝋燭(ロウソク)を持ちながら、少しごほごほと咳き込めば。


まだ此処(ここ)は地下であるが(ゆえ)。もう一つ通路があったとしても、此処(ここ)へ多少なりともその(けむり)が入って来るのだろう。


「そうですね、タマル様。──しかし、このダンテとやらが、明かりも無しに此処(ここ)まで来たのには驚いたのです。本当に、臭いだけで判断しているのですね」


そうだ、ダンテは先程から、地下だと言うのに、灯りを手に持っていなかった。それは、彼が人を臭いで判断しているという証拠になる。それに、ユダからの証言もあった。


そして、その予想は見事に的中。ダンテは、ヴェルギリウスの血を染み込ませた布袋に、(あわ)れにも話し掛けていたのが(カギ)となった。


──埋れたその地下には、童話殺しの亡骸(なきがら)が埋まっているであろう。まさか、この事務所の場所までバレて居たとは、タマル達も、それは想定外だった様で。


……先程即席で作った罠に、引っ掛かってくれた事に感謝する。


「行こう。上でマトフェイとユダが待ってる」


タマルはそう心の中で呟きながら、埋まった地下へと背を向けた。


──その時だった。ドバドザ、ッ。


鈍い音と共に、後ろで何かが倒れた様な音がした。急いで後ろを振り返ると、何とそこには、タマルを護っていた支部職員二名の亡骸(なきがら)が転がっているではないか。


動揺している暇は無い。タマルは急いで埋れた地下側へ、残りの職員二名を配置、後ろにはナチチを待機させる。……心臓が脈動(みゃくどう)している。何かが、近付いて来ている。


──ドゴンッ、!また、反応する(スキ)も無く。崩れた地下室側へ待機させていた支部職員二名の頭に、瓦礫(がれき)がぐいっと食い込んだ。


そして、崩れた地下から漂う土煙(つちけむり)内。一人の人影が、薄らと見えて来る。


タマルは目元をぐっ、と歪ませて。


「まさか、っ──?!おいおい、それでも死なないなんて……まるで魔法だよ……っ?」

「タマル様!下がっているのです、この者は、我々が思って居た以上に危険な存在です!」


ナチチが紅色(あかいろ)の方が剣を取り出し、土煙(つちけむり)にその矛先を向ける。──コツ、コツ。もう、恐怖にすら感じる聞き慣れた革靴(かわぐつ)の音。


「っ、ふう」と息を整え見えて来たのは、──ダンテの姿であった。


「……いやはや、まさか、地下室ごと爆発してくるなんて、予想もしていなかったさ」


そう言い、(すす)で汚れたネクタイを結ぶその手は──獣の様に、変化していた。よく見ると、体の所々が獣人化している。


尻尾(しっぽ)や耳はいつも通り。だが、その腕がおかしいのだ。──(ツメ)は目に見える程に鋭く突起(とっき)しており。腕に生い(しげ)る獣の毛は、肩までびっしりと生えている。


その姿はまるで獣。(たたず)む姿は恐怖を植え付け、この世の者とは思えない。


正に、天性(てんせい)の化物である。


「……。……ダンテ、君は一体何者なんだい?」


タマルが敬意(けいい)や恐怖の(こも)った言葉を彼に向け。その言葉に、先生は「エネルギーを使い過ぎたな……」と一人でボソリと呟けば。


「俺ァ唯の(オオカミ)さ。お前ら童話が(いみ)み嫌い、悪者に仕立て上げた、正真正銘(しょうしんしょうめい)。本物の化け物」

そう言い、ダンテは歩き出す。

「──ッ、ナチチ!戦闘準備を!!」

「俺は地獄(じごく)に行きたいんだ。──地獄(じごく)へ誘う案内人、ヴェルギリウスを探している」


タマルがそう必死に叫ぶのと同時に、彼の首元へ、一気にその鉤爪(かぎつめ)が食い込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ