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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode9_握る者と握らざるを得ない者
46/75

045_南瓜色のバゲットを握る物。

003


──翌日の昼下がり。私達はとある日差しの差し込むレストランの店内にて。


少しの休暇として、食事を楽しんでいた。


「──なあ、先生。私にもアヒージョをバケットに塗ったそれ、一口くれよ」


私の手に握られた、プレーンのドーナッツ。


お世辞にも美味いとは言えぬそのドーナッツよりも、私の目線は、先生の()むアヒージョへと向かい。


ガリッ、焼き立ての南瓜(カボチャ)色のバゲットに、その熱々の大蒜(ニンニク)を塗りたくる音が聞こえ。


──その音が何とも、私の食欲、それを食べたいと思わせる欲を増加させるのだ。


「ほら、だから言ったろう。プレーンのドーナッツじゃ無くて、アヒージョにしとけって」

「ああ、先生の言う通りだったよ。まるで子供の作った粘土(ねんど)だぜ、これは。食感も味も最悪さ。同じ人間が作ったとは思えないっ」


そう言い、私は先生の差し出したバゲットに口を近付け、一口。……此方(こちら)の方が余程美味い。


特に、こんな偽物の粘土よりも、製品の上質さが段違いだ。──私はプレーンのドーナッツを、自身から遠ざけて。そのまま店員を呼び、アヒージョとバゲットを注文する。


「おい、オズヴァルドっ!!私のガレット・デ・ロワを食べるなーッ!折角(せっかく)高い金を払って注文した品だぞ、お前も金を払えっ!!」

「ふむはぅ、っ。ユダちゃんはいつから教徒(きょうと)になったんだい?ふぇふに、いいひゃないか……っぐ。あー、美味しかった!」


ユダの注文したアーモンドクリームのパイを、愚痴愚痴(グチグチ)戯言(ざれごと)を話しながら食べるオズヴァルド。今日は公現祭だからか、この料理を食べる人も少なくない。


周りを見渡すと、半数がこの料理を頼み、フェーブを探す人もちらほら。だがしかし、フェーブはもうユダ本人が、(すで)に当ててしまっている様子。幸運は、ユダの手にある様だ。


……それに、ガレット・デ・ロアは、少し私にも馴染みがある。祖母の家で、一度食べた事があったからだ。


庶民(しょみん)の主食は、硬いバゲットか野菜のスープが当たり前。(ゆえ)に、あんなにも美味しいパイを食べれた時は、思わず(ほお)(とろ)けそうになった。


……懐かしい。

そして、その時に祖母はよく、こんな鼻歌を歌って居た様な……。


「……らん、らんらん……♪ららんらん。ら〜ら〜ら、らら〜〜♬」


微かに私は口ずさむ。歌の内容は確か、


『握る者よ。私は握らんとする者ではありません、握らざるを得ない者なのです』


だった様な……。その続きは、もう覚えて居ない。


意味は、握る者と、握らざるを得ない者の格差や運命の残酷さを表す童歌(わらべうた)だ。


それに、これは生きて居る人間ならば、一度は必ずしも聞いた事の程有名な歌。そしてその私の歌に、オズヴァルド達も反応を示し。


「うわ、懐かしいねっ、その童歌(わらべうた)。……懐かしい記憶と、思い出したくも無い思い出が甦って来るよ。その続きは確か『リリン、魔性の魔女リリン。悪魔は我々を握る者』だったっけ?」

「おお、懐かしき!私も、その歌は良く読み聞かせて貰って居たぞ!『当たり前の絶望。当たり前なのに、何故こうなってしまったの。それは、握る者が私を許さなかっただけなの』だ!」


皆々が盛り上がる中、一人だけ。反応も、過去の思い出にも浸らぬ者が居た。先生、ダンテである。先生は、過去の話をしたがらない。故に、この話題もスルーなのだろう。


私は、届いたアヒージョをバゲットへ塗りたくり、それを口に入れながら。


少し、昔の感情に浸る。あの時、先生が来なければ。私は違う選択が出来たのでだろうか。


…………そう、思う時が(たま)にある。


「……もう、過去の話は辞めようよ。皆が皆、仲間じゃなければ友人でも無い。唯のビジネスパートナーなんだから。他人の過去に土足で踏み入るのは、少し無礼だと思うんだ」


確かに、彼らは私と同じ様な匂いがする。


過去に(くさり)で繋がれて居て、開けない暗闇内。ずっと、夜明けを探し彷徨(さまよ)って居る、そんな私と似た様な匂いが。


「昔……か。皆、私と同じ様に、苦い思い出しか無いのだな。…………っ、オズヴァルドの言う通りだ、あまり暗い話はよそう。食事は、楽しんで食べる物だろう?」


そう言い、私のアヒージョを盗み、口の中へぱくり放り込むユダ。


「あ」。私はそう声を漏らせば「返せ!」とユダを睨み付ける。ユダは少し私を(あお)る様に、じとっと視線を返せば。いつもの仕返しだ、と言わんばかりに高笑い。


それを見て、オズヴァルドもまた笑う。


「っくく、はははははっ!ヴェルギリウス、そう怖い顔をするな。ほら、私の様に笑えないのか?っにぃ、ってね!」

「笑うも何もあるかボケッ!笑うと、顔の傷が強張(こわば)って、ズキズキと痛むんだよ……っ!おい、先生っ?!何勝手にお前も私の食ってんだ!!」


小鳥の(さえず)り、遥々(はるばる)と晴れた空の下。私は先生へ憤怒(ふんぬ)の眼差しを向けた。そして、隣で悪意の無い笑みを浮かべ、笑うユダとオズヴァルド。


「ああ、涙が出て来たよ……っ」


そう言い、ユダは目元の涙を拭った。


ユダは、一体何に泣いて居たのだろうか……。

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