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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode9_握る者と握らざるを得ない者
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043_机上空論を握る者。

ユダは大剣を投げ捨てて。奴らの(ふところ)()(くぐ)り、タマルへと勢いのまま──……抱き付いたのである。


そのユダの行動に、「なっ?!」とひしゃげた声を出すナチチ。


だが、ユダはそんな事もお構い無しに。(あまつさ)え、タマルを抱き締める力を強めるばかり。


「良かった……。会いたかったよ、タマル……」

「お帰り、僕の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。僕も、ずっと会いたかったよ。ごめんね、今まで一人にして……っ」


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、ユダの本当の名前である。


二人が再会ムードの中、置いてけぼりを食らったナチチとマトフェイは、各々(おのおの)が各自。焦りや混乱を浮き()りにさせ。


「ナ、ナチチのタマル様から離れろーッ!この泥棒兎(どろぼううさぎ)ッ!!怒ったナチチは怖いですよ、()()()()()()なあったかい食べ物も、ふーふーせずに食べられるんです!」

「おお、感動の再会なりて。……ナチチ殿(どの)、我ら部外者が、この美ひき芸術に野次(やじ)を入れる事は、許されぬ事なり。(いさぎよ)く引くが吉」

「だっ、だって、ナチチのタマル様がー?!それに、マトフェイは悔しくないのですかっ!!」


そう騒ぐナチチだが、ある程度の常識は持ち合わせて居る。


その感動的なムードは壊さずに。横で眺めながら、込み上げる嫉妬(しっと)心を腕へ込め。ブンブンと両手を上下へ何度も振り振りと。


マトフェイは、そんなナチチの肩へ手を置き。洒落(しゃれ)た柄の刺繍(ししゅう)された手拭いで目元を拭う。


それを見て、ナチチは「どうして冷静で居られるの!」と言わんばかりに、マトフェイの肩を掴み、前後へ何度も振動させる。


「あ、あぶぶぶぶ。ひゃ、ひゃめるなり……。なふぃふぃ殿(どの)ぉ……。いひゃいのら……」


口元を覆い隠す服越しに(ほお)を膨らませ、ナチチは二つ結びを荒ぶらせ。……そして、そのユダとの感動的な再会のハグが終わったのを見計らい。ナチチとマトフェイは、ユダからタマルを引っ()がす。


「な、何なんですか、貴方は!勝手にナチチのタマル様を取ったら駄目なのですぅーッ!!」

「そなた、一体何者ぞ?……我がタマル殿(どの)に、あまり馴々しくせんぞやと思ひて…………むぅ」


そう言い、彼ら彼女らは、自分のタマルだと言わんばかりにべたりとくっ付けば。


それを見て、投げ出した大剣を(さや)仕舞(しま)い直したユダが、再度彼らを(いぶか)しげな目で眺め。


そんなユダや仲間の様子を見て、タマルは慌ながら。


「おやおや……。もしかして、ナナちゃんとマトフェイ君に、言ってなかったっけ……?」

「「何も聞かされて」ません!!」無いなり」


その気迫(きはく)(こも)ったナチチとマトフェイの言葉に、タマルは「ひえ〜」と(おのの)けば。


「話の途中で悪いが……生憎、此処(ここ)じゃ少々場所が悪い。……ええと、あ。向こうの酒場で話をしよう」



001



ガヤガヤと、近場にあったガラの悪い(やから)の集まる酒場にて。


会話が聞かれない様、一番端の個室席へと移動した彼らは、抜け穴や盗聴の有無等の確認をし。


その後、タマルは串牛肉を四つ、やる気の無い店員へ丁重に頼む。


──何方(どちら)かと言えば、タマル達は羊肉より、牛肉を食べる方であった。牛肉は、羊肉より(はる)かに安いからである。


酒場に籠る湿気などを含んだ湿っぽい空気が、何ともユダの肩身を狭めていた。


ユダはヴェルギリウス御一行に出会ってから、有り余る金で良い食事屋に行っていたからであろう。騒がしい店内が当たり前という血が、少し抜けているのかも知れない。


タマルは、そのユダに似た赤髪を(なび)かせて。


「すまないね。僕達は生憎、最近事務所(じむしょ)のリフォームをした物で。貯金の残りが給料日前故少ないんだ。……これだけで我慢してくれ」

「それに、血で錆びれた武器の交換も行なったのです。お金が無くて当然なのです!」


武器の交換は、支部により厳しい規制(きせい)が施されているが為、交換には多額の金が必要となる。


……だが、その分、支部の傘下(さんか)と言う訳あって、それを超える程の収入があるのも確か。それに加えて、支部が大きな後ろ盾になる。


だから参加組織は増えて行くのだろう。


──数分、沈黙(ちんもく)が続き。やっと、肉が運ばれてくる。


ナチチは熱々の串肉の筋を、奥歯(おくば)で噛み切る様にギリギリと前後させ。それを見て、ユダも一口。


筋張(すじば)っている。とても、毎日高級品を食べていたユダには食べ難い。ユダはその一口しか食べていない肉を、「レストランで腹がいっぱい」だと嘘をつき、そっとマトフェイの席へと置いてやる。


(ああ、子羊のラム肉が恋しいな……)

「ふむっ!うぬ、この串肉が要らぬとてっ。ああ、ならば我が有難(ありがた)頂戴(ちょうだい)申す……!」

「こら、マトフェイ。勝手に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の串肉を食べたら駄目でしょうが──」


マトフェイがタマルに叱られたが、ユダの「私があげた」と言うのその一言で、タマルは「全く……」と少し不満げに小言を口に出しながらも、お叱りを告げるその口を閉じ。それを見て、ユダは。


「──なあ、タマル。私は今『ユダ』と言う名で活動している。私の本名は口に出すのを控えて貰えると嬉しいのだが……」

「っああ、ごめんね──ユダ。僕、信頼している仲間には本名で呼ぶ様に言ってるから、いつもの癖で……。それに、久々に会って、少し気が緩んでいたよ。すまない」


そう言い、タマルは「コホン」と、一言態とらしく咳払いをすると。肉を()むのに夢中であった彼ら彼女らの手が、一瞬にして止まったのだ。


多分、何かしらの合図として見ていいのだろう。ユダも、その合図に少し顔を(こわ)ばらせ。


此処(ここ)からは大切な話だ、よく聞いて欲しい。……色々と紹介したいのは山々何だが、まずはナチチとマトフェイに、ユダの紹介を」


そう言い、タマルはユダへ視線を向け。


「彼女の名前はユダ、イスカリオテ・ユダフリッヂ。今や空席の第十二支部の、元支部長であり……僕の、()()()()()


タマルは、彼らに聞こえる様な声でそう呟いた。──妹。そうだ、タマルは、ユダの兄であったのである。


その言葉に、ナチチとマトフェイは、双方(そうほう)同じくユダへ顔を向け。次に、ユダの方へ、深々と頭を下げる。


それを見て、ユダが慌てながら「いや、此方(こちら)こそ……。先程、タマルの仲間に無礼な言葉遣いと、(あまつさ)え剣の矛先まで──」と言うと。彼らは静かに頭を上へあげ、仕事へとスイッチを切り替える。


「お優しいのですね、ユダ──いえ、貴方様は……」

「あなや……。タマル殿(どの)の肉親であるとは、我存じ上げず居たものなりて。──タマル殿(どの)(なん)ぞや我らに存在を申し上げなかったや?」


マトフェイの鋭い質問に、タマルは「それも話そうと思っていた」と呟けば。


「僕の計画の為に、ユダには秘密裏に大罪人への潜入調査を行って貰っていたから、そう軽々しく紹介出来なかったんだ。……正に、『裏切りの裏切り』。流石に相手も、先の先の行動までは読めまい──」


そうだ、ユダは裏切り者であったのだ。


その証拠として、ユダは今の今まで、誰も手にかけて居ない。最初の黒スーツの男は、生かす予定であったが、ダンテの乱入により死亡。だが、ユダ自身手はかけていない。言葉を良くするのであれば、『(とうと)き犠牲』であったのだ。


初めての童話殺し時だって、自身で態とらしく体を傷付かせ、彼らの元へとやって来ていた。


助けられる命を見殺しにして来たその心は、随分(ずいぶん)と痛み荒んでいるだろう。だがしかし、必要な犠牲だったのだ。


──その結果が、今の状況に現れている。


ユダは息を整え、タマルの計画について、再度質問を問い掛ける。これで、心の中の邪心や、少しの情を消えさせるのだろう。


「僕達の目的は──、『この腐った世界を変える事だ』。その為には、財力や社会的地位が必要。(ゆえ)に、僕が長年空席である第五支部のフィリポの席に着く他無い。──その為のアピールとして、僕達は……『童話殺しの首を狩る』」


タマルの目標は、大きく実現不可能に思える物であった。だがしかし、彼のその言葉に着いてきた者達の結果として、事務所まで設立し、支部の参加に入る事にも成功している。


それに加えてスパイであり、元支部長であるユダも戦力も入れて、準備万全であろう。


「僕に命を()けて、死んでくれるかい?」


その言葉に、皆が満場一致(まんじょういっち)で首を縦に振った。


「狙いは『ヴェルギリウス』と『オズヴァルド』。……ユダが言うには、『ダンテ』と呼ばれる人物は、我々が(たば)になっても勝てそうに無い実力の持ち主だ。──これから、ユダを事務所へと連れて行く。それから計画の内と、仲間の紹介をしよう」


これは、壮大な目標を掲げた、とある青年の物語。

……だが、そんな中。ガヤガヤと賑わう酒場の外。


薄い壁から漏れ出す声を、一つ残らず(しっか)りと。全て逃さず聞いていた人物が居た。


──野生の耳をピンと立て、不敵に笑みを浮かべるその者は……。


「…………………………野生の勘が働いたな」


ヴェルギリウスの師範(しはん)であり、誰も力の底を知る事の出来ぬ人物。────ダンテ。


彼は(オオカミ)の耳を再度、持っていたハットを深々と被りその全貌を隠せば。そのまま、闇に溶けるように消えて行く……。


一匹(オオカミ)末路(まつろ)を知る者は、この世の何処(どこ)にも居なかった。

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