表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode8_白痴の英雄と死
40/75

039_ドン・キホーテや騎士と愉快な儀式について。

──この世界では、税金(ぜいきん)徴収(ちょうしゅう)は立派な仕事。そして、そんな仕事を(がい)し、(あまつさ)警吏(けいり)にまで手を出したユダは、貴族ならまだしも、平民の為、重い罪を()せられるだろう。


(ゆえ)に、我々の正体が判明する恐れがあるが(ため)。殺しが許可されたのであろう。


血の雨がまた降り注ぐ。私の頭巾(ずきん)がまたもや血の薄汚れた色で染まり、武器も(くれない)に。空を切る耳に残る音、警吏(けいり)弾丸(だんがん)装填(そうてん)


どうやら、首都のど真ん中であっても、彼らは鉛玉をぶっ放すらしい。


ドンッ!独特の銃声音が響き渡る。


「あらよっ、とッ!」


それと同時に、オズヴァルドは塩の壁を生成。私達はその壁に入り込み。


オズヴァルドがハッシュパピーの弾を装填後、発射。死角から狙う様に大人しい銃声が聞こえ。


私はその間、壁に身を潜めている……と思わせつつ、建物の屋根へと登り詰め。


そのまま警吏(けいり)の一人の頭を、落ちる勢いと共に引き裂けば。刃と言う名の矛先を横に向け、力一杯。肉の(すじ)()る様に、警吏諸々(けいりもろもろ)を巻き込む様に回転を決める。


まるで地獄のメリーゴーランドだ。夢も希望もありゃしない。それに、()(きた)りな夢なんぞ、この手で壊してしまっても構わないさ。私は、手榴弾(しゅりゅうだん)のピンへと指を掛ける。──ピンッ!


「──っ、まずい!手榴弾(しゅりゅうだん)だっ!!」


一斉に肉塊共の筋肉が(こわ)ばり、後方(こうほう)へと下がる者もチラホラ。此奴(こいつ)らは、どうやら手榴弾について何も分かっちゃいない様だ。


オズヴァルド達なんかは、その言葉も気にせずに殺戮(さつりく)を続けていると言うのに……。


「ほら、手土産だ。やるよっ」


(こわ)ばる肉塊へ、私はその手榴弾を投げ捨てる。


近場へ落とされた手榴弾に、彼らは顔を歪ませる。当然だろう、ものの数秒で爆発してしまう代物だ。


それが正常(ゆえ)、だが、無知ほど怖い物は無い。私は爆発する手榴弾を無視し、そのまま硬直(こうちょく)する一人の警吏(けいり)の首元へ、そのまま斧を食い込ませた。


──手榴弾は、爆発する(きざ)しも無い。


「っ、此奴(こいつ)?!爆発するのが怖くないのかっ」


馬鹿共め。手榴弾と言うのは、安全ピンを抜いても、安全レバーを握ったままだと爆発は起きないのである。私は投げ捨てる前に、こっそりと安全ピンを再度差し戻しておいたのだ。


それに本物はピンを抜く所を見せない。見せたと言うことは、余程(よほど)の馬鹿か(ただ)のはったりが大半。今回の場合は、純度百パーセントのはったりである。


この手榴弾は質が悪く、ピンを抜く時に大きな音が出る品物(ゆえ)


本当は、黒猫へ返却する予定だった品物。まあ、こんな所で役に立つとは思いもしなかったが。


私は数匹の警吏(けいり)をそのまま殺し。込み上げる笑いを抑えながら、そのまま手榴弾を(ふところ)へ。一応、そのまま置いておくと少々(あぶ)なっかしい。ネタのバレたトリック程、面白くない物は他に無いのだから。


そんな私の行動に、家鴨(アヒル)の様な警吏(けいり)達はふためくばかり。……まあ、そんなもんか。まともに生きていちゃ、こんなのをお目にかかる機会も無い(はず)だしな。


隣を見ると、少し不安そうな顔をしながらも、ユダがしっかりと戦ってくれている。──そして一方その頃、先生の方はと言うと……。


「……っふう、っ。……ほふ〜っ、……」


余裕そうに小銃(しょうじゅう)を肩へ掛け、煙草(タバコ)を吸っていた。多分、ふつふつと湧き上がる憤怒(ふんぬ)の感情を少しでも抑える為だろう。


(ゆえ)に、いつもの薄っぺらい笑みは何処(どこ)へやら。眉間(みけん)(シワ)を寄せ、何処(どこ)か腹立たせながら吸っている。


そんな先生へ、何も知らない警吏(けいり)達は襲い掛かる。


皆顔は自信に満ちている。理由は、先生が後衛職(こうえいしょく)である遠距離系の射手(しゃしゅ)である事だろう。


何故(なぜ)後衛職が前線に……しかも、流暢(りゅうちょう)煙草(タバコ)なんて。警吏(けいり)共は全員、先生を見てそう思っただろう。──圧倒的な誤算である。


背後から忍び寄る警吏(けいり)へ、先生は視線も合わせずに。彼の(ひたい)へ器用に銃口を突き付けて。


「はい残念。お前ら、そう言う所だぞ──」


発砲である。そして目にも見えない速度で、弾を再装填(そうてん)。これまた素早く、数匹を仕留める形でまた発射。そしてリロード。


……(スキ)のひとつもありゃしないその攻撃に、先程まで自信に満ちていた奴らも、顔を引き()りこの表情である。


「死にたい奴からかかって来い……っ」


ガチョン。ッ。いつもとは違う、不思議な音。その装填時の音に、流石の先生も顔を歪め、「あ」と一言。そして。


「……っち、これだからオンボロ品は……っ!」


そうだ、ジャムったのである。弾詰まり、(ゆえ)に発砲不可。先生の成す神業に、器具が着いて行けなかったのだ。──圧倒的チャンス。


馬鹿な奴らは、(エサ)に群がる家畜の様に先生へ飛び掛る。……が、私はその中に混じらない。何故(なぜ)なら、先生は──。


「……そりゃあナンセンス」

「──()っ?!」


歯だ。血と肉片の混じった歯が空中へ。


小銃(しょうじゅう)銃床(じゅうしょう)部分で殴られたのだ、顔面を。(まぶた)が空へ浮き、そのまま警吏(けいり)の一人は壁へ吹き飛ばされる。そして、次は肩当てを振り相手を混乱させ。


先生は怯む顔面や股間(こかん)胸筋(きょつきん)を集中的を狙い撃ち。悲痛な顔で平伏(ひれふ)す警察官。我々の様な血が飛び散る事は無いが、それでも痛いのは確かだろう。


皆々が股間や胸元、顔を(おさ)えてすっ倒れて行くのだから。面白い物である。


そしてその間に弾詰まりを解消した先生は、その場に響き渡る様なリロード音を響かせる。その音に戦意喪失紛(せんいそうしつまが)いな顔をする奴らもちらほら。


まあ、これでも本気を出して居ない様で。煙草(タバコ)を吹かしながらの戦闘だ。……本当に、腹の立つ奴である。先生というのは。


「っふう〜〜〜〜……。……っち、あ゛〜……。無性に腹が立ってくる……チっ」


飛び散る血で煙草の灯火(ともしび)が消えた先生は、再度舌打ちを噛まし。人差し指に()めている、銀色の指輪から小さな(やいば)を突起させ、血が付着した部分を切り取れば。そのまま私の方へ、金色のジッポライターを投げて来る。


粗方(あらかた)、敵を倒し終えたからだろうか。先生は、よく人に煙草(タバコ)の火をつけさせる。今回も、そんな先生の身勝手な思いからか……。


「……っ、畜生……応援……応援要請──」

「させねえよ、馬鹿がっ」


私は歩く中、まだ(かろ)うじて意識を保っている警吏(けいり)の頭を踏み付けて。──風前(ふうぜん)灯火(ともしび)、そのまま握る斧で相手のドタマ()をカチ割った。


路地裏は、悲惨な惨状(さんじょう)になっていた。倒れる警吏(けいり)達の死体や血。反吐(ヘド)の出る光景。


私はそんな血の池を、黒靴でパシャパシャと、(にご)す様に歩き。ジッポライターの火を付け、そのまま先生の方へと差し出した。


先生は感謝の言葉一つ無く。「ん」と一言挨拶程度に(うな)れば、煤色(すすいろ)(けむり)を吐く。


隣を見ると、最後のトドメと言わんばかりに、相手の頭へポールを突き刺すオズヴァルドの姿。奴も流暢(りゅうちょう)煙草(タバコ)を吸っていやがる。


ヤニカスのバーゲンセールも良い所だ。私はジッポライターを床へ投げ捨てて。「はあ」と一息吐き出した。


そして、視線は自然と。今回の騒動(そうどう)の戦犯であるユダの元へと注がれる。ユダは床に突き立てた大剣にを重心に、誰とも目を合わせず。そのまま案山子(カカシ)の様に突っ立っている。……が。


「おい」


先生の方から、そう声が聞こえてくる。その言葉に、ユダは(かた)をビクリと上下させ。……その様子はぎこち無く、まるで産まれたての子鹿(こじか)を見ている様であった。


私はオズヴァルドと視線を合わせ、再度心配や(あわ)れみの(こも)った目線をユダへと向かわせる。


──だが、それは一瞬だった。瞬きをする間もなく、先生はユダの(ふところ)へと入り込んだのだ。


腕を大剣から離し、近接戦闘の構えを取るユダであったが、時すでに遅し。


何かしらの残像が見えたのかと思えば、ユダが(うな)り、腹を抱えて倒れ込んだのだ。多分、あの一瞬で、腹を蹴られたか。その場が冷却庫(れいきゃくこ)と化す。


「……ユダ、お前の弁解(べんかい)を聞こうか……」


先生が煙草(タバコ)を床へ捨て、足裏でユダの頭を踏み(にじ)る。


それと同時に、気まずそうなユダが。


「っふ、……わ、私がダンテ殿(どの)達を……危険に晒してしまうのは承知の上だったが。……その、搾取(さくしゅ)される市民の姿がどうも(みじ)めで可哀想で……過去を思い出してしまって」


私とオズは、お前の事を(みじ)めだなと感じているよ。だが、そう口に出してしまえば、先生の怒りの標的(ひょうてき)が私になりかねん。


私は黙って、その場の空気と化す。


「そうかそうか。……お前はあ〜んな可哀想(かわいそう)な奴らを、幾千(いくせん)と焼き殺して来た(はず)だ。だが、この目で見ると、そのお子ちゃまな正義が許さないみたいだなあ〜お前は。………………でだ。──弁解(べんかい)の言葉はそれだけか?」


先生の顔が全く笑っていない。逆に、ユダの薄っぺらい行動理由に怒りを表している様子。手の(こう)には血管が浮かび、眉間(みけん)には深く(シワ)が寄っている。


英雄(えいゆう)を気取ったあの時間は、(さぞ)かし楽しかっただろうに──」


先生の瞳が、ギラリと奇妙(きみょう)に輝いた。


その(ひとみ)にユダは再度肩を震わせて、少し不安げに。そして不満げに。


「……そ、そのだな……。私も、今回の事は(しっか)りとごめんなさいと言おう。……だ、だから。その……ごめんなさぃ……もう、許しては貰えないだ──」


先生は、尻餅(しりもち)を着き見上げるユダを見下して。その視線が、ユダの(ひとみ)を覗かせる。


──そして、ユダが(うな)った。


「ぅ゛ぐっ。……は、あ゛ぐぅ〜〜っ?!」


先生に首を捕まれ、持ち上げられるユダ。壁に押し付けられ、思う様に動けないのか、ユダは芋虫(いもむし)の様に体を(うず)くめるのみ。


「ごめっ、?!──ん、ごめんなさぃ゛っ?……ひゅ、っ。がひ゛っ〜??ぁ゛っぐ、ぅ……!」


先生の図太い腕を掴み、力無く()(むし)りながらユダは言った。が、先生は一刀両断(いっとうりょうだん)


「──馬鹿か、てめえは。自己陶酔(じことうすい)の化物め。お前は、英雄(えいゆう)なんかじゃねえ。(ただ)の自分が分からない、自惚(うぬぼ)れた(ケモノ)に過ぎないんだよ」


先生は、相当お怒りのご様子で。


涙目になり懇願(こんがん)するユダを無視し、一言一言。噛み締める様に(しっか)りと。


「お前のせいで、計画が(こじ)れそうになった事が何回あったか覚えているか?……はあっ。……お前の様な馬鹿はやはり、身体で覚えさせる方が手っ取り早かったか……」

「ぁ゛がっ?!……っう゛っ??ごめっ……〜?なひゃ、っィ゛……ッ??」


先生が、ユダの首元を()める力を強くした。


首の肉が手に食い込み、今にも千切(ちぎ)れそうだ。それに、そろそろ死ぬのでは無いか?私の頭へ、そんな予想が浮かび上がる。


だが、この状況(じょうきょう)へ足を突っ込めば。今度は私もこうなるかもしれぬ。馬鹿の命より、自身の命の方が大切だ。それは、当たり前の行動(ゆえ)


それに、私はまだ死ねない。この忌々(いまいま)しい(オオカミ)をこの手で殺す為に。◇◆◇◆やその家族、先生が手に掛けた私の母親や友人。集落の皆の仇を打って、そのまま──(いさぎよ)く死ぬ為に。


「今回はまだ、重要なのを数えても二度目だ……俺は優しいんでね。(ゆる)してやるよ。だが、次にまた俺の説教が始まった時には──俺はお前を殺す」

「ぁ゛っ、……〜が。……ぅ、。……っふ、……あ」


ポタッ、ポタ。……血の池へ、何かが(したた)る音が聞こえて来る。──失禁(しっきん)だ。


死を感じると、排泄物(小便)を出してしまうのが人間の(サガ)であるが(ため)。まあ、仕方あるまい。


ユダは小さな(あえ)ぎ声を荒らげるばかり。そして、そんなユダを見て。先生はやっと、ユダの首から手を離す。その首元には、大きな手型が紫色で、くっきりと刻まれていた。


──そして、そんなユダと大剣を。先生は脇腹(わきばら)へと抱え。


「……っち、これじゃあ予定していた宿にも入れねえじゃねえか……。はあ、今回も──」


先生はそう独りでに呟けば、私達の方へ顔を向け。苛立(いらだ)った様子で一言。


「おい、オズヴァルド、ヴェルギリウス。……この馬鹿のせいで予定変更だ。首都から離れた向こうの森に、場所を変更する」


ああ、私のチェリーパイが……。──だが、そう言っていられないのも確か。


この有様(ありさま)じゃ、近くに宿に調査の手が回る。(ゆえ)に、身元がバレる危険性が高まるという訳だ。


だが、こんな事で童話の標的は変えられない。だから、先生は向こうの、首都や人里から離れた森の中へと目的地を変えたのだ。


それと、先生が森中に指定した理由は。


「──それと、此奴(こいつ)を森の中へ捨てて来る」


先生の口からは、そう信じられない言葉が。


そして、真っ先にオズヴァルドがその言葉に反応した。


「捨てるって、どういう事なの?ダンテさん。別に、いつも通りお説教をすればいい話だろうに」


普通に、お仕置程度なのなら椅子(イス)に縛り付けて放置するなりある(はず)なのに。オズヴァルドが言いたいのは、そういう事なのだろう。


そのオズヴァルドの言葉に、先生は。


「前に、地下室で此奴(こいつ)調教(ちょうきょう)した事があってな。その時はまだ、少しマゾ要素が残っていた頃の馬鹿だ。少し手間取っちまってね」


先生は煙草(タバコ)の箱を手に握りながらそう告げる。が、煙草(タバコ)のストックが無い事に気が付き。


先生は「チッ」と、もう何度目か分からない舌打ちを。次にその煙草(タバコ)の箱を地面へ投げ捨てて。そして口をこそばゆく、何か物足りなさそうにうずうずと体を動かしながら。


「……っその時に、俺が(しび)れを切らして此奴を何処(どこ)か山奥に捨てようとしたんだよ。そしたら、態度が急変してな。急に泣きじゃくりやがったのさ──。な、面白いだろ?」


そして先生は最後、追記程度に「だから試すんだよ」と一言。──その姿は(さなが)ら、悪魔の様であり。


「──なあ、先生。もしそれで、ユダが帰って来られなくなったらどうするつもりなんだ?」


私は一言。先生へそう疑問を問うと。


「大丈夫だ。此奴(こいつ)も元々は支部の犬、匂いでも何でも辿(たど)って帰ってこられるさ」


馬鹿げた理由だった。だが、私には分かる。先生が、本当にユダを捨てようとしている事を。


(たし)かに、我々の命の方が、ユダの命より尊いのは(たし)か。それは私も同意見である。


──そして、その会話を皮切りに。私達はその場から姿を(くら)ませた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ