表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode8_白痴の英雄と死
39/75

038_機知に富んだドン・キホーテの旅立ちについて。

002



──目を開ける、耳が妙に(さわ)がしい。


重い(ひとみ)を動かして、私は(となり)の窓を見る。どうやら、童話と童話の国境を越え、首都(しゅと)へと辿(たど)り着いた様だ。もう、あの新聞で報道された、胡散臭(うさんくさ)い童話殺しの情報も、薄れ消えつつある。


(ゆえ)に、我々は首都へと出向いたのだ。


馬の吐息(といき)と共に、外で店を構える商人や、幸せそうな市民の顔が目に映る。


絶望を知らない子供と、育む幸せな大人。


私は窓からそっと目を背けた。いたいけな幼子の姿が、少し視界に入ったから。


希望を見てはならない、望みを捨てよ。希望の先には、それをも超える絶望が待っているからだ。


……途中、とある沿()いで馬車は止まり、(ムチ)を持った男が無愛想に、馬車の扉をギィィッと開く。それを見て、私達は少ない手荷物を持ち外の空気を吸い込んだ。


「っくあ〜、腰とケツが痛いよ。小刻(こきざ)みに揺れる馬車との相性も最悪だ……っ」


馬車の男へ運賃(うんちん)と、何かあった際の口止め料として、運賃(うんちん)比較(ひかく)し三分の一程度のチップを手渡す先生を横に。オズヴァルドは老体の老人の如く、荷物を床へ乱雑(らんざつ)に放置すれば。


そのまま腰へ手を回し、トントンを脊椎(せきつい)を拳でノック。……そして、私も同様に、両腕を上げ手の平を空へやり、グイッと背骨を鳴らしている最中だ。


やはり、馬車は何度乗っても慣れまい。移動は楽だとしても、長距離移動は腰に来る。


「……な、なんと美味そうなマフィンなのだ……?!それに、蜂蜜(ハチミツ)まで……!」


しかし、そんな我々の隣では、近場にある喫茶店(きっさてん)から漂う甘い香りに誘われて、ユダが息を荒らげていた。……なんて元気な奴なんだ。


……まあ、後で一緒に、喫茶店にでも行くとしようか。


私は一旦息を整え、持って来た荷物を再度手に取りくわっと欠伸(あくび)


そんな私達の様子を見て。手荷物を全て私へ預けた先生は。


「──向こうの角を曲がって数歩の所に宿があるらしい。……まだ時間はあるな。少し寄り道を挟みながら行くとしよう」


そう言う先生の視界の先には、雑貨屋が。……私は、先生が銀食器(ぎんしょっき)等を粗布(あらぬの)で拭っている姿をよく見たことがある。先生は、銀食器(ぎんしょっき)等を磨き上げ、ピカピカにする事を趣味としている。


前は確か、人の頭と同じ大きさのティーポットを磨き上げていた様な……。


執事(しつじ)の下積み時代にやる事の様なことを、先生は好き好んでするらしい。


「へえ〜、ダンテさんは安っぽい商品好きなのかあ」


視線の先や、先生の言動から察したのだろう。だが、空気は読めなかった様で。突拍子(とっぴょうし)も無く、オズヴァルドが先生の前でそう告げた。


オズヴァルドの悪い癖だ、思った事を此奴(こいつ)は直ぐに口に出してしまう。


その言葉に先生は、ほくそ笑みながら「そうかもな」と返答し、そのまま歩いて宿へと向かう。


……だが、まだ怖くて先生にあの店へ行きたいと話せないのだろうか。少し名残惜(なごりお)しそうに、喫茶(きっさ)店の方を眺めるユダの姿がそこにはあった。


──と、同時に。光の差し込まない路地裏(ろじうら)の方から、何処(どこ)からか声が聞こえて。


「──っち、これだけかよ。──足りないねえ、子供二匹と大人一匹含めた金には到底」

「────お、お願いじまず……。ど、どうか子供だけは──……た、炭鉱(たんこう)煤取(すすと)りの仕事に行かせんといてください……っ!」


その声を聞き、少し路地裏の方をちらっと眺める私達御一行。そして、見えたのは人間の闇の部分であった。痩せ細った子供を腹に抱き抱えながら、警吏(けいり)に蹴られ殴られている女房(にょうぼう)の姿がチラリと見える。


──その姿を見て、先生は直ぐに目を逸らし。少し笑いながら。


「どうせ、税金が(おさ)められなくなってこうなったんだろうに。ま、俺達も払ってねえがな」

「へえ、貧乏(びんぼう)で税金を納められない割に、子作りなんかは出来るんだね〜」


税金。国に納める金の事である。その数、大人銀貨二枚に、子供は銅貨十枚だ。


そして、その硬貨のレートは、金、銀、銅、(こう)に分けられる。一般人計算、銀貨は一枚で一月分の食事を、銅貨は一枚で一日分の食費が補える。


──だが、貧困層の者共には、そんなはした金も払えないのだろう。


(ゆえ)にこうなっていると言う訳か。知恵を使えない子鹿(こじか)程、この世の中では生きていけまい。女の口振りからして、子供はこれから奴隷(どれい)となり、煙突の煤取(すすと)りや、狭い炭鉱(たんこう)の石炭掘りに向かわされるのだろう。


煙突の煤取(すすと)りは、汚れた(すす)で肺を壊し。狭い炭鉱(たんこう)は、いつ炭鉱が崩れるか分からない中。


背丈(せたけ)より少し小さく、半分程度の炭鉱内、石炭を掘り続けなければならない。


何方(どちら)地獄(じこく)に等しい。


「ふうん、あれが貧困層の馬鹿な人間達かあ。けど、あんな知恵を()らせない(ウサギ)のお陰で、僕達はこうやって生きていけるのかもね」


その集められた税金は、全て童話世界の為に使われる。


その様子を、オズヴァルドは物珍しく眺めれば。そのまま欠伸(あくび)をし「僕の家は裕福(ゆうふく)だったからね」と一言。余計な一言ではあったが、(たし)かに、貴族さながらの行動や、食事マナーは(しか)りと染み出している。


私は彼らの言葉を聞きながら、再度貧困層の家族の姿をそっと眺めた。……私の膨らむ財布(サイフ)には、奴らを満足できる程の金がある。


「……こんな泥臭(どろくさ)い現場なんて、見て面白いかよ。早く行こうぜ」


だが、与える(はず)が無かろうに。物乞いや乞食ならまだしも、あんな現場に駆け寄ろうなんて馬鹿げてる。私達は、英雄(えいゆう)でも何でもない。


……まあ、今回は奴らの運が悪かったという事で、この話を()(くく)ろうではないか。


その私の言葉に納得した様に、彼らは足を進めて行く。私も、泥臭い現場からは目を背け、そのまま光の(とも)る太陽へと向かって行く。


「──ねえヴェルギリウス、ダンテさん。彼奴(あいつ)らに、僕の財布(サイフ)にある金貨をちらつかせたらどうなると思う?」

「そりゃあ、(クツ)を舐めてでも貰いに来るだろうよ。私だったらそうするな」

「まるで慌てふためく乞食(こじき)だな。……だが、焦る乞食(こじき)程、貰いは少ない──」


──ガコッ、ッ!?


「……ん、何だ……。今の音……?」


そんな会話を(さえぎ)る様に、何処(どこ)かしらから(にぶ)い音がした様な気がした。それと同時に、先生が後ろを振り向けば。そのまま、先程の路地裏へと駆け出したのだ。


──ユダの姿が見えない。まさかとは思うが……?無駄な思いを背に、我々は先程の路地裏へと視界を。


すると、警吏(けいり)の者共の顔面へ殴り掛かる彼女の姿がそこにはあった。ユダは、警吏(けいり)の者共を一通り殴り終えると、そのまま項垂(うなだ)れる子供と親へ、金貨のたらふく入った布袋を手渡し。


謝礼(しゃれい)の言葉は要らん。早く逃げろっ!」

「──っ、う。……あの馬鹿っ?!」


奥へと逃げる低級庶民(しょみん)の背中を、少し(いぶか)しげな視線で眺めるユダ。そして、倒れた警吏(けいり)の一人が、仲間を集める為のホイッスルを鳴らす。


勿論(もちろん)、私達は素性(すじょう)がバレてはまずい存在。ユダは何を思ったのだろうか。考えるだけで腹が立つし……それに、先生が……。


私とオズヴァルドが、目元を歪ませる先には──……。


言葉も出ないのか、大きな溜息(ためいき)を吐き、(するど)い視線でユダを見詰める先生の姿。


ドタドタドタ。ホイッスルの音を聞いて、近場の警吏(けいり)達がやって来る足音が聞こえる。


だが、我々にはそんな音など聞こえない。目の前に居る先生の事で、頭がいっぱいだからである。


先生は、重い足を動かして。ユダの方へと歩き出せば。


「お前……後で覚えておけよ………………」


先生から、鉄槌(てっつい)の様に下されたその一言。


その言葉に、流石のユダもやってしまったと息を飲む。先生は今の状況を解決してから、ユダへ説教(せっきょう)をするらしい。


──そして、路地裏の通路を塞ぐ様にして、結構な数の警吏(けいり)達が集まった。……私達は、そっと自身の武器を持つ。私は(オノ)を、ユダは漆黒(しっこく)色の、名を()()()()()()と呼ばれる大剣を。オズヴァルドはハッシュパピー。先生は、イラつきながらもライフル銃を手に。


「──全員、戦闘準備。生死は問わん」


先生は弾をリロード(装填)すると、冷たく、そして冷酷にそう告げる。


それと同時に、我々は此方(こちら)雪崩込(なだれこ)警吏(けいり)共の首根っこへ。自身らの武器を食い込ませた──!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ