表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode7_鶏の囀りと翼
36/75

035_過去が蝕み、疼く傷跡。

──黒猫へ事情(じじょう)を話し、ユダと共に家へと帰って来た私達御一行。しかし、家には誰も居らず。居るとするならば、この家の元家主の(しかばね)だけだろう。


私はくわっ、と欠伸(あくび)を噛まし、そのままユダへ「仮眠を取る」と言い、自室へと。


──そして翌日。私とユダが、朝食を食べていた最中の頃。……先生の言っていた通り、本当に酒に(おぼ)れたオズヴァルドと先生が、朝帰りをした。


手には、空っぽになった酒瓶が、指の隙間(すきま)()えてある。


焼き立てのバケットにバターを塗る中、気分を害する様にやって来たのは酒酔い御一行。絶句の一言である。それに、とてもじゃないが、息が出来ぬ(ほど)に酒臭い。


「……っひぐっ、ぁ゛〜〜〜〜っ。ダンテさゃん飲み過ぎだぁって〜〜っ……!」


顔を赤らめ、呂律(ろれつ)の回っていないオズヴァルド。そして、そんなオズヴァルドに肩を貸して


いるのは、珍しく顔を赤らめている先生だ。

先生はとてもじゃないが、酒が強い方である。そんな先生が酔っ払って帰って来る(など)……どれだけ飲んだのか計り知れまい。


「……っ、酒も女も堪能(たんのう)出来たなあっ。あの女のサービスは良かったぜ、顔は悪いが技術は腕利きだっ」

「だよねぇ〜〜っ。ぷ、……こりゃもう数日は通わなくても良いかなっ。久々にこんなにも張り切ったよ〜〜。あの店良かったなぁ〜っ」


馬鹿共めっ!私が眉間(みけん)(シワ)を寄せる中、ユダはせっせとパンにジャムを塗っている。オズヴァルドは、酔った体を揺ら揺らせ。そんなユダの方へと寄って行くと……。


酒の勢いのまま。ユダの服へと手を突っ込んだのだ。そして、ブラジャーを通り越し、直接(むね)鷲掴(わしづか)み。完全に頭のネジがぶっ飛んでやがる。私は、飲んでいた紅茶を吹き出した。


「っん゛なっ──?!」


ユダが声を荒らげ、耳の先まで赤らめる。


「ユダちゃ〜〜んっ。ユダちゃんは家庭的だし、料理も出来るしで、やっぱりお母さんっぽいよね〜〜っ。僕、ユダちゃんと赤ちゃんプレイ(ベイビーセックス)したいなぁ〜。その無駄にでかい(チチ)も、使われて絶対に喜ぶっふぁ゛っ?!!」

「ぶち殺すぞてめぇっ!!」


そのままユダは、オズヴァルドの(あご)へと拳を突き上げた。豪快(ごうかい)な声、大袈裟(おおげさ)(げき)の様に、オズヴァルドは気を失い、地面へ力無く倒れ。


ユダは溜息(ためいき)を吐くと、そのまま自身の背丈よりも大きなオズヴァルドを、いとも容易(たやす)く持ち上げて。


「私はこの馬鹿を寝かせてくる」


そう呟けば、ユダはオズヴァルドを肩に乗せ、そのまま二階へと向かって行く。……私も、先生と同じ所に居るのは嫌なので、戻らせてもらおう。


そう考えて、足を一歩進ませた──と同時刻、先生に肩を掴まれた。


背筋が凍り付き、一瞬にして鳥肌が全身を覆うと、先生はニヤリと小馬鹿にした様な笑みを見せ。


「──っお前、最近露骨(ろこつ)に俺の事避けてるだろ?……俺は寂しいなあ。もしや反抗期かっ?」

「……その酒臭ぇ手を退けろ。殺すぞ……!」

「出来もしない事を自慢げに言うな。餓鬼(ガキ)が調子に乗ってると、無性に腹が立ってくる」


先生はそう言うと、私の肩を掴む手の力をぐっと強め。……痛みで少し顔が(こわ)ばるのと同時に、先生は酒に(おぼ)れた顔を覗かせる。そして──(わら)った。


「……っくく、くはっ。……ああ、すまねぇ。いつもの(クセ)だっ、くく!?……ははっ……!」


私の顔を見て、小馬鹿にする様に笑う先生。


今、出来るのならば。私は此奴(こいつ)の顔を、思いっ切り殴り飛ばしたい気分だよ。本当に先生は、人をおちょくるのが上手い。


先生は人間を、心行くまで嘲笑(あざわら)えば。そのまま酔った身体を引き()らせ。


「俺は寝る。じゃあな〜糞餓鬼(クソガキ)……っくははっ!」

「おえっ、酒臭ぇっ?!おい先生っ!その(ドブ)に浸った獣臭(けものしゅう)のする体を洗ってから寝ろっ!!」


先生が移動する度に、その通路へ酒の匂いが充満(じゅうまん)する。気持ち悪い。一言でそう表せられる程に臭い。


だが、先生は酔っているのか、無視をしているのか。私の言葉に返答は返さず。そのまま自室へと戻って行く。私は、そんな先生の背中を眺めながら、ふと、脳裏(のうり)に過ぎる計画を暗唱(あんしょう)した。


「もしや……殺せるのではないか?あの(クソ)ったれのオオカミを……っ?!」


先生は今、とてつもなく酒に(おぼ)れている。酒と言うのは、時に人を(にぶ)らせる。先生は酒が強いので、こんなに酔っているのは珍しい。(ゆえ)に、酔いに慣れて居ない(はず)


性行為(セックス)を初めてする人間が、最初は快感諸々(かいかんもろもろ)を感じ無い様に。人間は初めてに弱い。


……先生は人間では無いが、今は人間みたいなものである。今の内に殺すが吉と出た。


私はキッチンから、大きな薄刃包丁(うすばほうちょう)を取り出し、手にしっかりと馴染(なじ)ませて。微笑(ほほえ)んだ。


「……今日こそ拝んでやる、あの野郎の、死に屈服(くっぷく)された表情を──っ!!」


長年の私の夢、生きる(かて)となった先生を、今日。この手で、殺す為に、私は握る。鉄製の、肉をバターの様に切り裂ける薄刃包丁(うすばぼうちょう)を。


床に耳を当て、物音がしていない事を確認。私は、ひっそりと、階段が(きし)む音を出来るだけ立てないように、(はじ)に足を掛け移動する。忍び足でだ。


「…………っ。……………………………」


包丁(ほうちょう)の先が、ライトの光で輝いた。それを眺めながら、私は先生の部屋となった個室の前へと(たたず)むと。


次に、ギィィッ。と、扉を(きし)ませ()を開く。……先ずはナイフを先に入れ、安全確認である。包丁(ほうちょう)の角度を変え、部屋全体が見える様な角度にし、見えたのは、白色のシーツのベッドと、そこで寝ている先生の姿と思しき膨らみだ。


……私は、静かに部屋へと足を踏み入れる。興奮と言うスパイスを噛み締めて。


そして、ベッドの前までやって来た私。私は包丁を頭上まで持ち上げると、その布団の膨らみへ。


「……っは、……っ。────────!!!」


そのままナイフを、ベッドの方へと差し込んだ。やった!……そう思ったのも(つか)の間、私は感触が無い事に気付く。人を刺した時は、筋張(すじば)った肉を斬る様な感触があるのだが……それを全く感じなかった。


そして、不覚にも背後から感じる不思議な圧。血も出ていない。


このナイフを抜いて、後ろを振り返るのが怖い。後ろに何かが居る。だが、答えは一つのみ。私はゆっくりと……ゆっくりと、両手をナイフから広げると────!そのまま、不意打ちの(ごと)く後ろへの足蹴(あしげ)り。


パシッ!……嫌な音が、私の耳を掠めた。


「ん、っ。何だ、夜這(よば)いか?」


足を掴まれた。最悪。最悪を想定した行動だったのに、それも失敗に終わってしまった。


……それに、私が隠し持っていた手榴弾(しゅりゅうだん)も、いつの間にか先生の手の中に。


先生は、私の靴裏に付いた小さな刃物を横目見ると、「おっかねぇ」と一言。


「……私の足から手を離せっ。……!」

先生を(にら)む。が、対して効いていない様子。


それに、足から手を離してもらったが……。奴は私の腰周(こしまわ)りへ、手を(ヘビ)の如く絡ませると言う、最悪も最悪のケースに私は(おちい)ってしまったしまった。


まるで、エスコートをする様に。……これが白馬の王子様なら絶賛だが……なんせ相手が相手だ。身の毛が弥立つ。拒否反応、(ゆえ)の拒絶である。それに、鼻が曲がる程に酒臭い。


……もう、此処(ここ)が私の地獄(じごく)に相応しいほどに。


「……っクソがっ??──先生、てめぇっ、マジで酒臭いんだよっ。風呂に入って来い風呂にっ!!」

「お前だって、昨日は酒場に入り浸って居た(クセ)に。どの口が言ってんだっ、ええ?」


スルッ。(ヘビ)が身を()う様に、脇腹(わきばら)ら辺まで手を寄せられた。……早く、この悪夢が覚めることを、私は願おう。


「ん〜?どうしたぁ〜〜。そんな顔してっ」


「この酔っ払いめっ!」私がそう叫ぶのと同時に、先生は眠そうに「くあっ」と欠伸(あくび)を噛まし。


そのまま、先生は私の体を(むね)で抱きながら、ベッドへと転がり込んだのだ。……添い寝の様に。


しかも、世界で一番憎い相手と、体を合わせてである。


ズキッ!脳裏に電流が走り、眉間(みけん)と顔が歪む。忘れたい(はず)の記憶が私の脳裏を巡った。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



……体が痛い、肺の下ら辺がヤケに熱い。


屈辱(くつじょく)的だっ、獣臭(けものしゅう)が鼻を掠め、目の前の獣は唾液(だえき)を垂らす。気持ち悪い、それに、先程()んだ肉とワインの味が口から離れない。


あれが、人の子の血肉の味なのか。


私は愛する人をこの手で食べてしまった。ワインと称して、親戚(しんぞく)の血を(むさぼ)ったのだ。ステーキと称して、その脇肉(わきにく)咀嚼(そしゃく)し飲み込んでしまったのだ。


貪欲(どんよく)にまみれた自身の体は、まるで自分の物では無いかの様であり。目の前の(オオカミ)が、私の体へ薄く(ツメ)で線を引く。


まるで、無邪気な子供がクレヨンで絵を描く様に。しかし、私の皮膚から出て来るのは、丸い血の塊と、声にもならない絶叫だけだ。今まで、味わった事の無いような痛みだったからである。


「ぁ゛ぎっ、あぁああ゛ぁ゛ぁ゛っ!!ぎっ、がっ!!ぁ゛あ゛ぁ゛ぁぁあ゛っ、ぃ゛だぃ゛っ??辞めて゛っ、い゛た゛ぃ゛ぃ?!」


……辞めてくれ、これ以上、私を(むさぼ)らないでくれ。オオカミは、声を荒らげる私を見下しながら、そのまま口の中へと放り込んだ。


締め付けられる様な、生暖かい肉の感触。そして堕ちたは胃の中である。……人の骨や頭蓋骨(ずがいこつ)が浮いている。ここまで来るに、何人の人間を食ったのかは歴然(れきぜん)だった。


ああ、皮膚が焼けるように熱い。触ってみると、腐肉(ふにく)の様に溶けていた。触り心地も最悪だ、まるで腐った林檎(リンゴ)に指を沈める様な、そんな感触。


胃酸が傷口に染み込み痛い、辞めてくれ。


──だが私は、このまま死んでいれば、今という地獄(じごく)を生きずにすんでいたのだろうか。


あの時に(いさぎよ)く死んでいれば、こんな生き恥を(さら)さずに済んでいたのだろうか。


そう思う時がある。虚空(こくう)の夢の中、残酷に残響(ざんきょう)する傷の跡を(うず)かせて。私はまだ、美しい悪夢の中、一人で取り残されているのだ。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  ◆  ◇



「…………っ、ぁ゛……??……糞っ、離れろ屑野郎(クズやろう)がっ……!」

「おやおや……っ?」


思い出した事により、片目のの古傷(ふるきず)(うず)き、ぽっかりと傷が開く。……垂れる多少の血が、ナイフの突き刺さったベッドシーツを(よご)したんだとか。先生は、それが見たかったんだと言わんばかりの笑みを見せ。その笑みが、どうも私の心を傷付ける。


「──っ帰る、その手を退けろっ!!」


私は、(うず)く片目を抑えながら、そのまま先生の手を払いのけ部屋から出て行った。先生は、そんな私の背中を見ては、また欠伸(あくび)


そしてそのまま、刺さっていたナイフを抜き捨てて。私が垂らした血を一舐め、ペロリとシーツに舌を付けたんだとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ