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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode7_鶏の囀りと翼
34/75

033_「そんな人は知らない」と誓って言った。

001


とある人里離れた一軒家にて。


草木が生い(しげ)る地面に()(つくば)るは、頭巾(ずきん)を被った少女であった。そしてその傍らには、頭に(オオカミ)の耳の様なものが付いる、白髪の男が立っている。


「──っ糞がっ!!待てっ、私はまだやれる。勝手にシラケて終わらせんじゃねえっっ!」


……私は唸った。噛み締める様に芝生(しばふ)を叩き、言う事の聞かない身体を無理矢動かして。──しかし、先生は。


「馬鹿かお前。もう今日で何セットしたか覚えてるか〜?俺も覚えちゃ居ないが、数えるのも飽き飽きする程したなあ。俺ももう飽きたんだよ。今日はもう諦めろっ」


先生はそう言うと、寝そべる私の脇腹(わきばら)へ革靴を向け、蹴り上げた。「うぐっ?!」。出したくもない、無様(ぶざま)な声が発せられる。


先生との稽古(けいこ)も、最近は気絶で終わらせる事なく出来る様になって来た。しかし、先生の方は、早く終わらせられなくなったので、少し不満げな様子。


だが、それ程私が成長したと言う事だ。このまま行けば、この野獣(クソボケ)を殺す事だって、可能なのだろう。


「オズヴァルドの方はもうとっくにユダの稽古(けいこ)を終わらせてるみたいだな。……そんじゃ、俺はオズヴァルドと夜の(エロい)お店に行ってくるからよ。明日は朝帰りだ、あの馬鹿にも伝えとけ──」


最近のユダは、オズヴァルドの方に稽古(けいこ)をつけて貰っているらしい。先生は倒れる私へそう言うと。私を置いて、朝っぱらから夜のお店に行く様だ。……この糞野郎めが。


私は不服ながらも、あの忌々(いまいま)しい(オオカミ)の背中を見送り。そのまま重い体を引き()る様に、家の中へと入って行く。


「ああっ、糞が……。身体中が痛え……っ」


昨日は、身体全体に包帯を何十にも巻き終わった所で、一日が終了した。何度も音を上げる体が、使い物にならなくなってしまうのも、近い未来なのかもしれない。


所々が(ほつ)れ、(すす)だらけの赤い頭巾(ずきん)を身に(まと)い。私はキッチン付近にあった、冷めた雑穀(ざっこく)のパンを口に入れ。……昨日は、起きると部屋の前にシチューが置いてあり、食欲が全く湧かなかった。


だから今の内に、食べれる物を全部体の中へ詰め込まなければ。


そして、お陰か。私は金輪際(こんりんざい)、シチューを食べる事は出来なくなった。馬鹿な恩威(おんい)が人を潰すのだ。


……私が一通り、机の上のパンを(むさぼ)り尽くした時。階段から降りて来たユダと目が合った。ユダは私の姿を見ると、少し嬉しそうに口角を上げ。


「っ!お、お前……!最近無理をしていないか?す、少しくらい休んでも……っ!」

「急に何だお前、気色悪い。……それに、余計なお世話だ。私は、あの(オオカミ)を殺さなくてはならない。……その為なら、何だって……っ!」


復讐に全てを賭ける私の姿を見て、ユダは何を思ったのか。少し表情を暗ませる。


しかし、それが返って私の心を傷付けた。ああ、そんな顔で見ないでくれ、全て私が悪いと言うのに……。


だが、そんな私の心情を察してか、赤髪を揺らしながら。ユダは話を変えようと、作り笑顔をぱっと見せ。


「……っ、そ、それより、オズヴァルドとダンテ殿は何処(どこ)にいるか知っているか?先程から探しても見つからなくてな。さっき稽古(けいこ)が終わったろう。オズヴァルド達が何処(どこ)に行ったのか知ってい──」

彼奴(あいつ)らなら遊びに行ったよ。……どうせ、遊女を抱くやら安い娼館にでも行ったんだろ」


その言葉に、少し肩を震わせるユダ。


……そうか、此奴(こいつ)痴女(ちじょ)だったんだった。私が顔を(しか)めるのを見て、ユダは「ち、違うぞっ?!」と声を荒らげ。


この歳なんだから、少しくらいそう言うのにも露骨(ろこつ)に反応をしないで欲しい限りである。……と言うか、此奴(こいつ)に生のセックスを見せたらどうなるのだろうか。悩ましい限りである、爆散(ばくさん)しそう。


「………………っ、お前、セックスは好きか?」

「ち、違うぞ、私は……っておいっ!女の私になんて事を言うのだお前は!?セックスと言うのは……あれだろ!()()()()子孫繁栄(しそんはんえい)をする為にする生殖行為の事だろーっ!!??」


何だか急に早口になったぞ此奴(こいつ)。まあ、多分好きと言う事なのだろう。私は、それ以上深堀はせず。だが、その表情は、嘲笑(ちょうしょう)など無く純粋(じゅんすい)に微笑んでいた。……何だか、此奴(こいつ)と居ると、無性に腹を抱えて笑いたくなって来る様な……。


「……っまあ、そんな事は置いておいてだ!」

「いや、置いておいたら駄目だろ……。どんな野生児(やせいじ)だお前……」

「お前は一旦黙れっ!!人の話を最後まで聞かんかっっ!!」


ユダが顔を真っ赤に染めながら、私の(ほお)(つね)って来た。……いひゃい。ユダは私の(ほお)(つね)りながら、いつもの大きな声でこう叫ぶ。


「お前、最近元気が無い様じゃないか!そ、それなら私と少し、気分転換がてら、お出掛けに行かないか?」


無茶苦茶だ。お前も、私も。


そして、ユダが此方(こちら)へ見せるのは、とあるチラシ。──《『ブレーメンの音楽隊』パレード開催中》と、そこには書かれていた。そして、煌びやかな装飾(そうしょく)と、動物の微細な絵。


つまり、私と共に遊びに行こう。奴はそう言いたいらしい。……だが、生憎今は人とあまり出会いたくない。私の選択肢は──。


「断る。……私は、もう誰とも仲を深めまいと決めた。どうせ、あの糞野郎(オオカミ)が壊して行く」


床の木目に視線を移し、(うつむ)き私はそう呟く。


糞野郎、言わずと知れた、あのオオカミの事だ。どうせ、また私が何かをしていると勘づけば、奴はすぐ様全てを壊して行くだろう。


だから辞めた。──それに、今は他の者にあまり会いたくない。幼子共(おさなごども)の声を聞けば、自然と傷口が開くから。


「……そうか。……だが、私はお前と共に出掛けたい。──仲を深めたいのだ!……。……ヴェルギリウス。お前、あの時に何があった」


あの時。私が先生と共に部屋に(こも)っていた時の事だろう。……私は静かに(くちびる)を噛んだ。


「……っ別に、何も無いさ。ただ、少し下らない取っ組み合いがあっただけだぁふっ──??」


次の瞬間、私は(ほお)を膨らませたユダに、両頬(りょうほほ)(つね)られた。ユダは、目尻(めじり)(あわ)い赤色を添えて。少し、何とも言えない表情を見せれば。


「何ともない訳がなかろうがっ!!その様子からして、絶対に何かあったのだろう。だからこそ、お前には心の休暇が必要だっ!」

「いひゃいぃ……。ほ、……ほふなのか……?」

「そうだっ!もう少し自分に自信を持て、ヴェルギリウス!!──だが、嫌なら断れぃっ!」


ユダは、叫ぶ様にそう告げると、満足したのか。私の(ほほ)から手を離す。……両頬(りょうほほ)(つね)られて、断片的に続く痛みが中々引かない。


だが、そんな事はお構い無しに、ユダは私の襟元(えりもと)をぐっと掴むと。


「ふふん。オズヴァルドから聞いたぞっ。ヴェルギリウスは()()()()()()が好きなんだとな。……美味い店を見つけてやるから、今日はそれを目的として、付き合ってくれっ!」

「………………チェリーパイ(。。。。。。)……」


身体が痛むし、まだ心の傷は()えていない。

けれども、それを乗り越えなくてはならない日が、必ず何処(どこ)かで来る(はず)だ。



『──次は、────を教え──ねっ!』



幼げな少女の無垢(むく)な声が、私の心を振動させる。……私は、静かに温もりの感じる手の平を見詰めた。少女の姿が、鏡の様に見える気がして。


「……ん、どうしたんだ、ヴェルギリウスっ」

「…………いや、忘れた……」


私は、見詰めていた手の平をギュッと握り()め。「ほうっ」と息を吐く。


白痴(はくち)の少女を背に見えたのは、笑う幼子(おさなご)だけだった。


何か、大切な事を、忘れている気がする。


── 疑問 ──


追記『とある旅人の記録』


拝啓(はいけい)、この日記を見る者は居ないであろうが、一応書き連ねておく。私は、この世界の神秘(しんぴ)について、知りに行こうと思う。旅をするのだ、世界の(はし)を見る為に。


どうやら、信用ならない支部の情報によると、この世界は観測上平らな皿の様になっているらしい。が、私はこう思う。何故(なぜ)星は丸いのに、我々の居る星だけは平らなのだろうかと。実に不思議(ふしぎ)だ、(ゆえ)に、私は行く。


ああ、世界の(はし)には何があろうと言うのか。


実に楽しみだ。もし、その(はし)に到着したのならば、私はこの日記に、また新しい情報を付け足そうと思う。

《ページが破られており、解読不能(かいどくふのう)

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