表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode6_信用してはならない
32/75

031_第四幕への間奏曲「アラゴネーズ」

004


「──ん。よお、生きてたか、餓鬼(ガキ)


数日後、先生が朝帰りをした。どうやら、私が居なくなってから三週間程度、家を空けていたらしい。


先生は、私の姿を見ては、嬉しくないのか嬉しいのか。いつもの上っ面(うわ つら)だけの笑顔を見せる。一生見たくも無い顔だ。


そして、私の(となり)へと歩き出し。私の(かた)へポンと軽く手を置けば。


「少し話がある。──二階の部屋に来い」


……本当は断りたかったが、さすれば私の命が無いだろう。仕方無く承諾(しょうだく)し、私は先生に連れられて、二階のとある部屋へと案内される。


ユダとオズヴァルドは今、向こうの平野で稽古(けいこ)を受けている最中だったが為に、家には私と先生以外誰も居なかった。……少し、不気味な感じがする。


そして、先生は部屋に私を入れたのかと思えば、(とびら)を塞ぐ様な形で立ち止まる。次に、前菜(ぜんさい)となる軽い雑談の始まりだ。


「お前、生きて帰って来れたのか。良かったなあ、その醜い(ツラ)と体を、傷だらけにするだけで済んで。はは、安心しろ。メインは最後にとっておくタイプなんだよ、俺は」

「……先生こそ、朝帰りなんて珍しい。風俗(ふうぞく)かソープにでも行ったのかっ。それにしては、女の臭いが漂わねぇが」

「それよりも、もっと面白い所だ」


先生はそう笑うと、隣の(たな)上に置かれた新聞を手に取り、余裕そうにペラペラと(めく)り始め。そして、とあるページで指を止めると。


「……お前、随分(ずいぶん)と普通の世界に足を沈めたみたいじゃねえか。お陰で、俺は悲しかったぜ〜。俺を殺すと(なげ)く相手が居なくなって」

「──っ?!」


先生は知っていたのだ。私が、ジプニー家でお世話になっていた事も、全部……っ!


先生は、私の顔を見て「当たりだな」と冷たく呟けば。私が顔を(しか)めるのを、待って居ましたと言わんばかりに表情筋(ひょうじょうきん)をつり上げて。


長々と、舐めとる様に呟き始めたのだ。


「今日の新聞はこのページに、こんな事が書かれてるみたいだなあ。──『謎の発火により、家が全焼。中からは、二人の大人と一人の幼子。そして、赤ん坊が一人。焼死体(しょうしたい)となって見つかった』んだとさ」


は?まて、待て待て待て。……先生っ?


──今の私の顔は、混乱(こんらん)と焦りでぐちゃぐちゃになっているだろう。ジプニー家、私が、居候(いそうろう)をさせてもらった家。……それに、家族構成も一緒。


「……っいやいや、冗談(じょうだん)も程々にしておいてくれよ、先生。だ、だって焼死体?したっ、死体だが……!私と何の関係が──っ??」

「現実をしっかりと受け止めろ。──お前が居候(いそうろう)をしていた家の者共は全員、焼死体となり死亡したんだよ。………………そ、し、て、っ」


先生は、軽いステップと共に、私の(そば)まで近寄ると。(いや)らしく、そしてねちっこい笑みを浮かべて。……こう言った。


「あの家を燃やしたのは俺だ。サプラ〜イズ〜♪」


一気に脳味噌(のうみそ)の血管がはち切れた音がした。


そして私の両手は、自然と先生の首元へと(かざ)される。ゴツンッ、重い物が地面にぶつかる様な(にぶ)い音。そして、私は先生の上に乗りかかるようにして。……首を絞めた。


怒りと絶望で身体が熱い。今は、この目の前の化物が憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!


「っふ──〜〜っ!!お前……っ、お前ぇっ!何で……!何で何で何で、お前はっ!!そうやって──っ!!!」

「……がはっ。かかっ……ききっ。くっ、っはははははははははははははははははははっ!!!ひ〜〜っ、はははははははっっ!!〜どうした、ヴェルギリウス。……っ、俺を襲おうってのか?一丁前(いっちょうまえ)になったもんだなあ」

「──っ、──っっ!黙れぇぇっ!!!」


首を絞める力をより一層強めた?……が、それでは、生まれながらにしての化物である先生は殺せない。……そう、分かっていた筈なのに。私は、何故(なぜ)こんなにも馬鹿なことを。


「お前は──っ!!何故(なぜ)そんなにも簡単に……人の心を弄ぶことが出来るっ!!何故(なぜ)……!」

「ふうん。お前、沢山人を殺して来たのにその態度か。……随分(ずいぶん)と楽しかったみたいだなっ。彼処(あそこ)での生活は」


口からツーっ……。と、唾液(だえき)を垂らす先生の表情は、まるで私を見下す様な、そんな顔。


「何でだ。なんで先生は……そんな事っ?!」

復讐心(ふくしゅうしん)は人を強くする。それは、人間様の大好きな愛を、上から黒く塗り潰す程に」


先生は、やはり私の事を、自身を殺してくれる便利な道具とでも思っているのだろうか。


巫山戯(ふざけ)るな、私は人間だ。化物であるお前に、分かられてたまるかっ!!


私の(くちびる)からは、強く噛んだことにより血が滴り落ちる。そして、その血は先生の(あご)へ落ち。先生は、そんな私の血を、舌で器用に()め取れば。


「……俺は、人間としてお前に期待してるんだよ。俺を殺してくれる道具として。そして、反応を楽しむ壊れない玩具(オモチャ)として──な」

「人間じゃないお前に、人間の何が分かるっ!!!?」


先生は、力を溜め込めば、残酷非道(ざんこくひどう)(オオカミ)へと姿を変えることが出来る。今は、そのエネルギーが不足し変化出来ない状態。


そんな化物であり、人で無い先生に、一体私の……。人間の、何が分かるというのか。


「──人間じゃない俺が、唯一(ゆいいつ)知っていることを教えてやろうか?……女ってのはな、怒りより先に、(なみだ)が出る生き物だって事だ」


……ああ、目の前が(かす)んで見えない。これが本物の憎しみである涙。長年忘れていた、あの時から、ずっと。


『復讐に、命を懸けてはいけないよ』


親から言われたそんな言葉。……巫山戯(ふざけ)るな、巫山戯(ふざけ)るなっ!!私は涙を流しながら、先生の首元をぎゅっと締め付ける。


が、先生は飽きた様に溜息をつくと。


「あばよ、餓鬼(ガキ)。これを()に、俺を殺す事だけを考えて生きるこったな」


それと同時に、先生は思い出した様に目を見開けば。私を(あお)る様に追記(ついき)を残す。


「……それと。今日の晩飯(ばんめし)は、シチューにしろと言っておいた。存分に味わって食えよ」


此奴(こいつ)此奴(こいつ)はっ!!最初から私の事を見ていたのか、この糞野郎はっっ!!??


その瞬間、私の視界は、一瞬にして闇に包み込まれたのだった。


005


「──ん、ヴェルギリウス、中々来ないね折角(せっかく)の晩飯が冷めちゃうよ」


(フクロウ)が鳴く静けさが残る夜にて。食卓(しょくたく)を囲むのは、大罪人である三人のみ。


オズヴァルドは、手に持った"甘い"シチューを舐め取りながらもそう告げる。


「……というか、珍しいな。ダンテ殿(どの)が、(みずか)ら夜食のメニューを考えるとは……!」


ユダは、甘口のシチューにかぶりつきながら、口をもごもごと動かして。先生はそんなユダの言葉に、機嫌(きげん)が良さげな顔をし「気分が良かったんでね」と一言。


「それでは、私がヴェルギリウスを呼びに行こう。久々(ひさびさ)にダンテさんも帰ったんだ。四人で食事でも──」

「待った」


先生のストップが掛かり、動きを止めるユダ。先生は、いつもよりも機嫌が良さそうに、そして(さげす)みの含んだ頬笑みを浮かべ。


「ああ、彼奴(あいつ)は今部屋で疲れて寝てんだよ。部屋の前にでも置いてやってくれ。──目覚めた時の、良いスパイスになると思うからよ」

「?ダンテさん、(めずら)しいね。それに機嫌も良さそうだ。何か良い事でも?」


部屋で疲れて寝て居ると言う言葉に、少しだけ反応を示した変態(へんたい)オズヴァルド。そしてその言葉に、先生は。


「ああ、餓鬼(ガキ)の面白い(しか)めっ(ツラ)を拝めたんでね」


そう言い終わると、先生はシチューを飲み込んだ。そのシチューは甘かったがヴェルギリウスにとっては、とても辛く苦い味となるだろう。



──あんな甘い世界に足を踏み入れたのが悪かった。そのせいで、私は失ってしまった。


私は、長年の傷を(いやし)す為に此処(ここ)へ戻ったのでは無い。あの憎き(オオカミ)に、復讐(ふくしゅう)を遂げる為に此処(ここ)へ帰って来たのだ。


やはり──、信用してはならなかったのだ。


次こそは、復讐の灯火(ともしび)が、消えてしまわぬ前に……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ