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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode6_信用してはならない
31/75

030_第三幕への間奏曲。

003


──あの日から、指折り数えて二週間程度経っただろうか。私は、この家族の一員に見える程に、ジプニー家に馴染(なじ)んでいた。


毎日の皿洗いや洗濯物、カルメンとのお遊びに付き合う事が大半だっただろうか。そんな私も、この家の家族は受け止めてくれたのだ。こんな、(みにく)い姿をした私を。


「ねね、ベアっ!今日は私に星の見方(みかた)を教えてよっ!今日も特別に、あたしがベアの部屋に行ってあげるからー!」

「おお、カルメン。食べながら喋るなと……」


カルメンは口の周りを、パンのジャムで汚しながらもそう告げる。私はそんなカルメンの顔を見て、(あき)れながらもナプキンを手に取り口を拭う。


(イチゴ)のジャムにより、血の様に赤く染まる白色のナプキン。だが、今の私には関係無い。──武器の手入れも、最近は少しサボり気味だ。……もう、必要ないのだから。


「──こらっ、カルメン。あんまりベアトリーチェを困らせないでっ!」

「はははっ。良いじゃないか、カルメンも、星に興味をもつのは良い事だ。将来は、天文学者(てんもんがくしゃ)にでもなるのかい?」


バケットにバターを()りたくりながら、カルメンの父がそう声を出す。天文学者、か。多分、カルメンもこのまま行けば、星への知識も得てくる筈。天文学者も夢じゃない。


「ふふん、天文学者ってあれでしょ?あたし知ってるもん。──星を観察する仕事でしょ。地球を中心に回っている星々(ほしぼし)の観測をするの。てんどぅーせつでしょっ!」

天動説(てんどうせつ)だ。ふふふ、将来が楽しみだね」


私がそう言い終わる(ころ)には、皆食事が終わり。雑談(ざつだん)を最後に交し、各々が各自の仕事へと移る。父は牧場に居る家畜へ再度(エサ)やりに、母は皿洗いだ。


私はと言うと──、今日の仕事はこれにて終了である為、カルメンと共に星を眺め就寝(しゅうしん)するのが主な流れ。


私は、手に大きな星の本を持ったカルメンと手を繋ぎ、私の部屋となった空き部屋へ。


カルメンが()れた手つきでベッドへ軽快に飛び出し、カーテンを開き自信満々(じしんまんまん)にベッドへと。私は、そんなカルメンを(なだ)め、布団(ふとん)へ潜り込む。


「今日は昨日の続きについて。──今日は、昨日言った天動説を詳しく説明していこうか」


私は歪んだ()を描く様に、人差し指で空をなぞり。お皿の様な絵を描く。


それから、戯言(ざれごと)の様に私の口から発せられるは膨大な、宇宙の話。


星々が、この世界を中心に回っているという事。そして、この世界については何も分からないという事。謎が多い事。占い師は、星の流れが狂うと悪い事が起こると予言する事。


──全てがまるで、お手本の様な常識だった。スラム街に居る、夢のある孤児(こじ)も知っている、当たり前の常識。しかし、無知な子供には、膨大(ぼうだい)な話に思えただろう。


空に満遍(まんべん)なく広がる星々を、憧れの目線で眺めながら。そして、紙を(めく)りながら。彼女は目に星を宿し、話を真剣に聞く。


「──ベツレヘムの星は、三日で復活した男が誕生した際に、見えたと言われる星の事だ。ほら、クリスマス・イヴやクリスマスの日に、木のてっぺんに一番星を飾るだろう?あれがその星さ」

「じゃあ、その星は本当にあるの?」

「さあ、それは分からない。──カルメンが大人になって、天文学者になったら分かるかもね。カルメンは容量(ようりょう)が良い。きっと立派な大人になるよ。……それに、顔も美しい」


女は美しく在ることを強要(きょうよう)される。(ゆえ)に、彼女は恵まれていた。大きな(ひとみ)に、無垢(むく)な口。それに加えて枝毛一つ無い髪と来た。


私なんかよりも、もっとちゃんとした道を歩めるだろう。カルメンには、立派に育って欲しい。私の様な者には、成って欲しくない。


──決して、成れ果てないように。


そして、時計の(こく)が十時を回った。


「おっとカルメン、そろそろ時間だよ。さあ、お部屋に戻って寝て来なさい。早く寝ないと、魔女が君の命を狩りに来る」


早く寝ないと、魔女に連れ去られてしまう。


これは、誰もが親に言われる言葉である。魔女と言うのは、子供を攫い、供物(くもつ)に捧げ生贄(いけにえ)にする悪い(やから)。そんなのに、連れ去られてしまう。


……実在はするが、子供騙しに過ぎない台詞(セリフ)。しかし、昔の私は怖かった。


それは、カルメンも同じ様に。


「じゃあね、おやすみっ、ベアっ!──次は、名前の無い星について説明してねっ!」

「ああ、『約束する』よ」


そう言い終わると、カルメンは立ち上がり、裸足で(とびら)に向かえば戸を占める。そして、部屋は再度闇に包まれた。──私は、カーメンを閉めて。静かにベッドへ潜り込む。……が、目は(つぶ)らない。


辺りを見渡し、閉めたカーテンの方をじっと見詰める。……本能が、野生の(カン)が働いている。


そして、閉じられたカーテンから『コンコン』とノックの様な軽い音。しかし、次には窓を手の平で、思いっきり(はた)いた様な(にぶ)い音が。そして、聞こえて来るのは聞き慣れた、男女の声。


「──馬鹿っ、オズヴァルド、この家の者に気付かれてはどうするっ!」

「……ユダちゃ〜ん、稽古(けいこ)の時も、僕言ったよね?ちゃんと周りや状況は確認しろって。──起きてるんでしょ、ヴェルギリウスっ」


私は、上半身を起こしカーテンを開ける。


「……何だ、夜這(よば)いか?」

「はっ、誰が化物なんて抱くか馬鹿野郎っ」


そこには、暗闇に隠れるユダと、オズヴァルドの姿。……それを確認し、私は立ち上がろうとするが──「待った」。そうオズヴァルドが呟くと。


「ねえ、ヴェルギリウス。……君はさ、今のままで居たい?幸せで居たい?」


オズヴァルドから告げられたのは、想像もしなかったそんな言葉。──私は少し目を見開けば、彼らの方へと視線を向ける。


「……多分、ダンテさんも、君が此処(ここ)に居る事は知らないだろう。だから、今ならまだダンテさんを、僕達なら言い包める事が出来る。──ヴェルギリウスが望むのなら、僕達はもう君とは関わらない」

「…………」


彼らが私に与えたのは、残酷(ざんこく)な選択だった。



『──ねえ、ベアトリーチェ。貴方がもし良ければ、家族になれたら……』



ジプニー家、カルメンの父と母に告げられた言葉が蘇る。……私は眉間(みけん)を歪めた。


「僕達は友達でも無ければ、相棒でもない。(ただ)のビジネスパートナーだ。けど……厚い(じょう)が有るのは確か。僕達は、君が望むなら、そのままこの家族達と一緒に幸せになって欲しい」


ああ、何て残酷(ざんこく)なんだ。私は(くちびる)を食い縛る。


………………そして、私は────。……ベッドから立ち上がり、窓の取っ手を(うね)り窓を開いた。


その行動が意味する事は、ずばり。ユダ達と共に行くと言う事だ。ユダは、私のその行動に戸惑(とまど)いを見せている。


「──ほ、本当に良いのか?ヴェルギリウス。私達は別に、強制している訳では無いのだが」


そう言いながらも、少し嬉しそうにするユダの姿を見て。私は、ユダが渡して来た、手に馴染(なじ)(オノ)を握り締め。


「お前らが来るのが、あと数日遅ければ、私は変わっていたかもしれない。……だが、そうはならなかった。残念(ざんねん)だが、それが運命だ。私は行くよ、先生をこの手で殺す為に──」

「そっか。それが、ヴェルギリウスの答えなんだね」


そう言うオズヴァルドも、少し微笑(ほほえ)んでいる。──忘れていた、私の本当の使命について。血の刺青(いれずみ)を、もう一度綺麗(きれい)さっぱり洗い流すのは不可能だ。


……私は、部屋のティーテーブルへ、"前に書ておいた"一通の手紙を置き。


「そうだ。……それと、お前ら。少し金を貸してくれないか?後で返すからよ」


その手紙の重りとして、ありったけの金貨の入った袋を置いた。──そして、私はその場から去って行ったのだった。哀愁(あいしゅう)漂う手紙と、匂い漂う金貨を置いて。


追記『手紙』


朝、起きると手紙と金貨の入った袋が置かれていた。

そして、ベアトリーチェの姿も見当たらず。それに、布袋(ぬのぶくろ)の中の金貨。相当な(がく)だった。私達が生涯(しょうがい)、数年は遊んでくれせる程に。


だが、使うつもりはない。そして、手紙の内容は──見ていたら泣いてしまったよ。多分、私はあの子の事を、しっかりと家族だと思っていたんだと思う。


そんな中。(とびら)が叩かれた。──来客が来たみたい。

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