026_死人の中から蘇った預言者。
「答えは後者、だが私は死ぬつもりはない。私を殺せるのなら殺してみな。それまでは、好き勝手に暴れさせて貰うぜっ!!」
全体重を乗せた、不意討ちに等しい斬撃。その攻撃は相手の頬を掠り。
そして私の行動に、マタイは溜息をつくと。そのまま腰に掛けていた、レイピアという剣を握り、厭らしい笑みを浮かべ。
「──お前、あの……なんたら共の銃とは違うんだな…………愛の無い奴めっ」
「何を勘違いしているのか?私はあの子達を大切に思っていたよ、そんな事を言うなんて酷いじゃないかっ!……まあ、そんな時は君を殺して、その死体を嬲るとしようかなっ!!」
両者同時に動き出す。が、相手の方が格段に早い。
剣も軽い上に、奴自体が足をバネの様にし、勢い良く飛び出す事ができるからだろう。それに、足の筋肉が服越しでも分かる程に発達している。
随分と、踏み込みを何度も練習して来た様だ。努力の賜物と言っていいだろう。
「私の速さに驚いちゃったかな?まあ、我々が星に還るのも、もう遠くない未来なのかもね」
彼の胸に捧げられているペンダントには、星を崇拝する宗教団体の証である紋章が。私は、それをちらりと見ては。
「馬鹿言え。と言うかもうお前は喋るな。お前の話は長い上に、中身の内容がスッカスカでね。雑音の様で不愉快なんだよ──」
その私の言葉に、眉間をピキリと歪めて。血管を浮き彫りにするマタイ。多分、少し気にしているのだろう。
目の前へ、急に剣の矛先を伸ばして来たからだ。気にしているが故、怒りが行動にも現れている様だ。
私は両手を下ろしブリッチの状態へ。
そしてそのまま相手の顔面目掛けて、両足を伸ばす。だが、マタイは剣を持っていない手で、その足を軽々と受け止める。私はそれを確認すると、瞬時に身体を捻り体制を元の状態へと。
「何度やっても無駄だよ」
私の行動に、そう呟くマタイ。
「──お前、露骨に言葉数減らしやがったな。やっぱり気にしてたのか……ああ、散々好き勝手にやられてた鬱憤が晴れた気がするよ──」
絶対に、奴は気にしているのだろう。マタイの攻撃がより一層、早く激しくなったのを、身を持って体感出来る。
と言うか、今の私でも守り切るので精一杯。だが相手は待ってはくれない、休む間もなく攻撃を与え続けてくる。──────だが。
「温い温い。お前、戦闘力は特筆すべき点がないだろ?あの馬鹿ユダよりかは断然マシだな」
「はあっ。なんで君は、私の気にしている事を言ってくるのかなあ。……私は、指揮官としてやカリスマ性で此処まで成り上がって来たよ。それは否定出来ない」
やはり。だが、速度が早いのが難点だ。
これじゃあ、私が攻撃をしようとしても、一瞬で蜂の巣にされてしまうだろう。そして、マタイが言う様に。私が針のむしろとなれば、この身体を散々と嬲られ……これ以上考えるのは辞めておこう。
──しかし、私はそう言う類の奴らの対処法を知っている。それに、今は短期決戦で勝負を終わらせたい。
「────────は?」
私は、自らの左手に、相手の剣先をヌプリと沈めたのだ。その行動には、流石のマタイも声を出さずには居られまい。
先程まで抵抗していた奴が、急に大人しくなり攻撃を受け始めたのだ。これ以上の疑問と言う名の恐怖は無いだろう。私は、剣の部分を最後まで手の平に通らせると。
「お前、死んだな。さあ、抜いてみろよ」
その言葉通り。マタイは剣を抜こうとするが、抜けない。
まあ、女の私が言うのも何だが、一応鍛えている身だ。それに、斧を振り回していれば、自然と手に筋肉がつくのも納得のいく話。
だが、マタイは剣を捨てて後ろへと撤退する。
──想定外だった。本来なら、相手は馬鹿正直に剣を握ったまま、固まる筈なのに。……まあ、さすがは頭脳派と言った所か。此処でも冷静な判断が出来るのは凄いだろう。
人間、急に想定外な行動をされれば意識が遠のく生き物だ。故に、この状況になれば、相手は止まるはずだが……。
私自身も、同じ状況になったら、奴のようにそこまで冷静になれる自信は無い。人間というのは、単純な生き物故に。
だが、爪と牙を無くした狼が、どうなるのかは歴然だ。彼は、この状況では不利だと感じたのだろう。手から剣を引き抜く私を見ては、一目散に出口の方へと駆け出したのだ。
「──させねえよっ!!」
私は、マタイの服の裾を何とか掴み、そのまま倒れさせる様に、ぐいっと後ろへ引っ張った。
この衝撃で、無様にも地面へ倒れるマタイ。……そして、マタイはまたもや溜息をつくと。そのまま後ろを振り返り。
「──還るとしよう。我らが星の中へ。そして、彗星となり再開しようじゃないか」
斧を後頭部へ振り翳す私の方を見ては、マタイはそう呟き、静かに目を閉じる。
……そして、彼の頭へ斧が突き刺さる。後頭部を割り、そのまま脳へと侵入後。顎を真ん中で割るようにして裂ける頭。
目玉がビュッ!と飛び出すがお構い無し。
「死ねっ、死ねっ!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっっ!!」
「──ッン゛ぷっ!……ガびっ!びゅっ!!」
そのまま、奴の顔を、元の美しい美貌が失われる程に。何度も何度も叩き付ける。……息が切れ、私が腕を止めた頃には、マタイの顔面は、原型が分からない程に粉々になっていた。
私は、死後硬直で少し痙攣をしているマタイの死体を踏み付ければ、そのまま出口の扉を開く。──勿論、鍵が掛かっていたので蹴り飛ばしながらである。
そして、支部の本拠地へと足を踏み入れる。極力相手に悟られない様に、最短で出口へ向かう。出口は見当たらないが、何れ何処かで出会うだろう。
と、その時。奥の曲がり角から二人の男の声が聞こえて来る。
「──だーかーらーっ。本当に見たんだって、マタイさんが地下室にゴミの様な袋を持って、専用の地下室へ向かって行った事っ!」
「──────確かに、最近は地下室に入り浸っては居るが……。我々の様な下っ端には伝えられていない、何が重要な情報なのだろう」
「──まあいいさ。それより、今日の食堂のメニューって何だったっけか?確か、南瓜のポタージュだけは覚えてるんだが」
「──────今日の献立は、南瓜のポタージュスープに、バケット。ホワイトチーズに生ハムだ。グレゴール、確かお前。生ハムが嫌いだったろう。俺が食べてやる」
……私には関係無い。相手が楽しみにしている食堂が食べられなくとも。罪悪感なんて感じてしまえば、私は確実に死ぬだろう。
大丈夫だ、いつも通り、人を殺せば──。
曲がり角を曲がれば、此方に背を向けている一人の支部職員を発見。そのまま首元へ、斧の先をギュムリと食い込ませ。
「──っあ、危ない避けろ!ザムザっ!」
目の前の、乱雑に支部服を着込んだ職員が、私が殺した相手へ手を伸ばす。が、私はその相手に斧を向け。殺意の籠った口振りで。
「吐け。此処の出口は何処だ。返答次第ではお前を殺す。この捨て駒の穀潰しと同じ様に」
「あっ……あ。……此処を左に曲がってっ!?次に見える通路を右に……っ、行けば──ぁ」
相手は腰を抜かし地面へ倒れ込み、ヘラヘラとした口調で、震えた声を捻り出す。
そして私の鼻に香る、アンモニア臭と排泄物の臭い。……人は死を感じると脱糞や排尿を、脳の意志に背きしてしまう生物だ。
私はそれには触れずに、その言葉に返答は返さずに。そのまま言われた方向の廊下へと走って行く。そして、私の耳に掠める小さな声。
「……なあ、ザムザ。俺って、最低だな……っ」
今更、私は心を痛めたりなんかしない。
だって、私はそんな事を何度もやっている。もう戻れない、謝ったって、慈悲深い神様でも許してはくれない大罪なのだから。
──そして、私は奴が言った通りの道を進めば、すぐに出口へ向かう事ができた。しかし、出口には受付係と思しき人間が両方に。
……はっきり言って面倒臭い。私は、先程死体から盗ってきた銃を手に取れば。そのまま二発。両方に居た受付係へ発砲する。
が、流石は自害用だ。威力はあっても命中精度がそこらの安物以下。少し外れたが、相手は目を閉じ混乱状態。この場を乗り切るには十分──。
「──ああ、此処が外かっ」
支部の本部は、大きな時計塔の様な作りになっており、その支部の数字ごとに時刻が刻まれている。此処は第八支部なので、時計を見れば、ピッタリと八時を針は刻んでいた。
そして、空は暗い。月の位置を確認し、現在の時刻が午後の十一時だと言うことを確認。
私は密集する建物を蹴り上げ、瓦屋根へと足を置き、そのまま颯爽と駆け出して行く。
現場に留まる奴は唯の馬鹿だ。今は、この場から少しでも遠ざかる事を目標に……。
だが、此処で私の記憶は途絶えていた。
多分、もう身体が限界を迎えていたのだろう。体を動かす事で精一杯だった。
──次に目を開けた時は、地獄でない事を願おう。
やがて、私が死ぬその時まで……。
やがて、私の目標が達成される、その時まで………。
追記『騎士道物語』
本物の騎士とは何なのだろうか。
人々を救う者であるか。謝礼も無しに人々を助ける者であるか。それとも、正義や勇気に満ち溢れ、邪悪に対しては敏感な者であるか。
否、そうでは無い。本物の騎士とは、自身の為に死ねる者である。




