019_ 「悔い改めよ、天の国は近づいた」
002
「…………ん、何だ?この爆発音は。もしかして、お前の仲間がやったのか?童話殺し」
「いやあ、僕は知らないねっ」
笑みを浮かべるオズヴァルドの目の前には、第八支部の副支部長である、アウグスティヌスが。そして先程、大きな爆発音と共に、微かに地面が揺れた事を指しているのだろう。
アウグスティヌスは、ポニーテールの髪を靡かせながらも、オズヴァルドへと銃口を向ける。勿論、銃の種類は、パウロと同じピースメーカーだ。
「まあ、そんな事はどうでもいい……訳では無いな。パウロが無事であるといいんだが……」
「ん?ねぇねぇ、パウロって君の彼氏さん?もしかして、パウロさんとセックスしたの、処女じゃないんだねー、君。僕好みなんだけどなあ……流石の僕でも、誰かのお古は遠慮気味なんだけど」
オズヴァルドのその発言に、額へ血管を浮かび上がらせるアウグスティヌス。
「馬鹿か貴様はっ?!パウロとは昔からの戦友だっ。肉体関係など……恋愛感情すら抱いた事も無いっ!!」
そう言いながらも、オズヴァルドの方へと銃弾を発射するアウグスティヌス。だが、流石のオズヴァルドも、奴の連射速度には目を見張る物がある様で。少し目を見開けば、瞬時に体から塩の壁を生成する。
そうだ、オズヴァルドは、体から塩を出せる特異体質。勿論、その塩も自由自在だ。彼の思い通りに動かせる。
「塩の壁……?貴様、奇妙な技を使う様だな。もしや貴様、リバイアサンの悪魔憑きかっ!」
服に付いた塩を払うオズヴァルドの姿を見て、アウグスティヌスはそう語る。勿論不正解である。オズヴァルド曰く、妻が塩柱になった際に、発現したんだとか。
そして私も先生も、詳細はよく分からない。
「さあ、それはどうかな──────?」
曖昧な返事を返し、溶けゆく塩の壁の隙間から、不意打ちの如く、彼は銃弾を発射する。
が、アウグスティヌスにはそれが透ける様に見えていた様で。軽く首を傾け避ければ、「ふっ」と不敵な笑みを浮かべたのだ。
「君が銃なら、僕も今回は銃でも使って見ようかなっ。……まあ、君のとは全然違うけどね」
オズヴァルドの愛銃、その名をハッシュパピー。
『この銃を与えれば、どんなに吠える猟犬でも静かになる』
と言う意味が込められた銃であり、彼の大好物である食べ物、ハッシュパピーと同じ名をした銃だ。
「僕の銃は君とは違う、ハッシュパピーさ。どう?凄いイケてるでしょ、君のピースメーカーなんて古臭い銃よりもねっ」
そう言い、またもや弾丸を発砲するオズヴァルド。しかし、彼女はそれを華麗に避ければ。右手に持った銃に左手を添え、早打ちの体勢に。そして放たれるは雨の如し弾幕の鉛玉。
オズヴァルドは、いつもの貼り付けスマイルのままそれを避け、ハッシュパピーを再装填。そしてプシュンッ!と、独特な発射音を響かせる。
「──っくははははは!中々やるじゃないか、童話殺しっ!此処まで私に弾を使わせた人間は、パウロとマタイ以外初めてだっ!」
そう言い、オズヴァルドへ冷たい銃口を向け、鉛玉を連射するアウグストゥス。
命中精度は腕利きだ。貼り付けられた微笑みを浮かべ、銃弾を避けるオズヴァルドに何発も当てている。だが、オズヴァルドは何故か攻撃をしようとはせず。
逆に、懐へハッシュパピーを仕舞う始末だ。
そしていつも通り、オズヴァルドは厭らしく。少し色気のある笑みを浮かべながらも弾を避け。その様子に、少し違和感を覚えるアウグストゥス。
太腿に当たっても顔色一つ変えないオズヴァルド。私に弾が当たらない事を悟って諦めたか?アウグストゥスにそんなありふれた一つの回答が、すっと脳裏に導き出される。
「……私に弾を消費させても無駄だぜ。そこらで死に垂れてる奴らの懐を漁れば、わんさかと出てくるんでねっ」
「いやはや、爽快爽快っ。やっぱり馬鹿を眺めてると、こっちが気持ち良くなってくる」
そう言い、此方へ発射される弾丸を塩やらで防御しながら、不敵に笑うオズヴァルド。
その様子に眉間を歪め、「馬鹿はそっちだ童話殺しっ!」と叫んでは。ちょこまかと逃げ回るオズヴァルドへ何度も弾を発射する。
もう、彼らの銃撃戦が始まってから何分経っただろうか。颯爽と逃げ回る兎を追うように、銃弾を撃つ狼側のアウグストゥス。
──だが、間抜けな狼が生き残れる程、この世の中は野暮じゃない。
「僕はね、体内から無尽蔵に出る塩を操る事ができるんだ。けど、出しすぎちゃったりしたら、穴という穴から出血しちゃうんだけどねっ」
「……っはは、どうした急に。自身の能力なんてさらけ出して。負けが確定しちゃって諦めムードってか?」
少量、鼻から血を垂らしながらオズヴァルドが不意にそう呟く。その言葉に少し驚きながらも、彼女は首を傾け嘲笑の含んだ溜息を。
だがしかし、その瞬間。不意にオズヴァルドが口元を手で抑えたのかと思えば──。
目、鼻、口、臍、耳の穴。全身の穴という穴から血を吹き出したのだ。
突如の事で固まるアウグストゥス。そして、全身の穴から血を吹き出しながらも、笑みを崩さずに立ち尽くすオズヴァルドに、恐怖を覚えたのも束の間。
「──────〜〜〜〜っ……ふぁぇ?」
その瞬間、アウグストゥスの視界が歪む。
……アウグストゥスは悟る。これは目眩なんかじゃない、自身の体が傾いているのだと。
耳にへばりつく程の耳鳴りと共に、力が抜けた玩具の如く、地面へ倒れる彼女の体。
新手の特殊攻撃か?様々な思考が脳内を駆け巡る中、視界を彼女は自身の体へと向けるのだった。
……そして、見えたのは傷だらけの体。床に溜まる血の池が反射し、見分けがつかぬ程穴だらけになった自身の顔も目に映る。
そしてそれを見下しながら。オズヴァルドは倒れたアウグストゥスの体を踏み躙ると。
「僕はね、体に負担が掛かるけれども、こうやって相手の塩も操る事が出来るんだ。けどもう、こんなの神からの奇跡だろ?僕でも驚いちゃうさっ」
「……っお前、私の汗を…………!」
「大正解〜っ。僕特製の花丸あげちゃう」
オズヴァルドは、アウグストゥスのかいた汗を針状に操り、そのまま彼女の体をぶち抜いたのだ。
オズヴァルドは地面へしゃがみ込むと、アウグストゥスの舌を掴み。そのまま指に血を付け花丸マークを舌へ描く。その姿は宛ら、アウグストゥスには悪魔に映って見えただろうに。
「本当は実力でぶちのめしてあげようと思ってたんだけど……如何せん君が強いもんで。僕も強行突破に出る事にしたって訳」
そう言うと、オズヴァルドは立ち上がり、口を拭えば。煙草を片手に火をつける。
アウグストゥスは、そんなオズの姿を見ながら「地獄に堕ちろ……」と呟き目を閉じた。……確実な死である。
「映画チックな死に方だね。……まあ、地獄で頑張ってね、ビッチちゃん♡」
最後に最高の侮辱の籠ったウインクを噛まし、オズヴァルドは先程爆発音のした方向へと向かって行く。
オズヴァルド。人間よりも人間らしく、悪魔よりも悪魔なこの男。彼の本当の実力を知るものは、地上に存在していないだろう。




