017_茨のぶどう。あざみからいちじく。
「偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である。あなたがたは、その実で彼らを見分ける。茨からぶどうが、あざみからいちじくが採れるだろうか。すべて良い木は良い実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。良い木が悪い実を結ぶことはなく、また、悪い木が良い実を結ぶこともできない。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。このように、あなたがたはその実で彼らを見分ける。」
──マタイによる福音書、第7章──
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……頭の中がホワホワする。そんなこんなで意識が朦朧とする中、扉を開く音が聞こえて来る。誰かが帰ってきた様だ。
「たっだいま〜!ヴェルギリウス、ダンテさんっ。……って、なんでヴェルギリウスの部屋に居るのさ、ダンテさん」
玄関の扉を豪快に開けて入って来たのは、満腹そうに腹を抱えるオズヴァルド。そして、気持ち悪そうに腹を抱えるユダの姿もそこにはあった。
宿内の私の部屋は玄関に近い。それに加えて扉も開けっ放しと来たものだ。部屋内が見えるのも、納得が行く話だろう。
「……っん、おお、お前らか。お前らが居なくて俺は寂しかったぜ〜、こんな餓鬼と酒を飲む羽目になってんだからなっ」
顔を少し火照らせた先生は、机へ突っ伏している私を指差しそう言った。……流石に、数時間も度数の高い酒を飲んで居ると酔いが来る。
特にウォッカを飲んだからか、異様に喉内が乾いて塩辛い。……先生は酒が強いので、まだまだ少し酔う程度なのだろう。
「……っう゛っ。……これだから、私は先生と酒を飲みたくないんだよ……っ」
口内が違和感で埋め尽くされている。
口の中全部がはてなマークだ。それに、頭も上手く回らない。……今回の任務が上手く行くか心配である。
「ヴェルギリウス〜〜っ。助けてくれ、オズヴァルドが、急に私へ飯を食いに行こうと誘ったのかと思えば……っ。吐くほど高級ランチを食わされた。絶望的に胃がムカムカするっ……私は嫌われているのだろうか……」
その時。涙目のユダが、此方へ縋りよってくる。
「馬鹿っ!?気安く私に近付くな、お前はソーセージでもしゃぶってろカスビッチっ!!」
「酷いっ?!それは酷いぞヴェルギリウスっ!!」
私はそれを嫌々ながら払い除けると、席を立ちそのまま洗面所へと向かって行く。……勿論、この腐った面を洗い流す為だ。
童話殺しの、はじまりはじまり♪
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「それじゃあ各自、死ぬ程度に頑張れよっ」
酒の香りが引いてきた夜の世界。時刻は既に十二時をまわっている。そして、そんな先生の言葉と共に、皆各自別々の方向へ別れて行く。
やっぱり、《マッチ売りの少女》の童話に合わせて、今回もマッチを使わせてもらうとしよう。ライターよりも需要が無いので、安値で買えるのがいい所だ。
……だが、やはりライターに劣る部分があるのは確かである。
やはり、マッチ売りは商売にすらならないのかもしれないな。私はそう考えながら、マッチを擦り地面へと投げ捨てる。
「……やはり、今宵の舞台もよく燃える」
地面にマッチを投げ捨てただけで、瞬く間に火が燃え盛って行く。私はその様を眺めながら、またもそう呟いた。……暖炉に火を灯した時には、こんなに燃え盛らない筈なのに。
まあ、私には関係の無い話だろう。今は、目の前の事に集中するが吉である。
と、目の前に武装をした人間が数体。彼らは曲がり角を曲がり、私の方を見れば形相を変え、此方へ銃口を向けてくる。
……支部の人間か、可哀想に。その銃が、自決用に配られているとも知らない馬鹿共め。
まあ、今にその銃の使い道を知る事になるだろうがな。
「あ、あれが童話殺しか……?う、撃てぇっ!」
プシュン、プシュンッ。此方へ弾を撃ってくるがお構い無し。私は壁側へ掛け出すと、壁を脚裏で踏み込み大ジャンプ。
そしてそのまま、弾のリロードをグダグダとしている奴らの頭上へ近付けば。私は愛用の斧を手に取り、一人目の頭を引き裂いた。
血が扇状にばら撒かれたのを確認すると、私は瞬時に血が付着した斧を片手に、空を切る様に素振り。血が地面に模様を描く。
「馬鹿共め。次はしっかりと、オートマチックの銃を支給しろって、頭の奴らに伝えておくんだなっ!!勿論、地獄で再開してよおッ!」
「なっ、はぶっ──っ?!……〜あぅ゛っ!」
横へ斧を振り翳し、そのままもう一匹も駆除完了。……残るは震える一匹狼だけである。
両手で銃を持って居るが、恐怖か絶望か。カタカタと体が身震いをしているのが伺える。
恐怖は人を弱くする。だが、心はそう簡単に強くはなれない。心を強くするには、適度な恥と恐怖が必要なのさ。そして、もう一匹にも斧の脅威が降り注ぐ。
「っん゛ぅっ──〜〜〜!」
その刃は、彼の鼻先へと近付いて行き。一筋の線が入る。彼が悲痛の表情で顔を歪めるが、それを待つほど私も斧も野暮じゃない。その勢いのまま、相手の顔面を掻っ切ったのだ。
降り注ぐは血の嵐。私はそんな天然のシャワーを浴びながら、黒装束を赤く染め。赤い頭巾を純血へ変えて行く。そして斧を地面へ刺し、そこに手を置きニヘリと笑う。その様は、恰も悪魔の様で。
だが、あくまでも私は正真正銘人間だがね。
「っくくく……!本当に、無様な死に方だ」
軽くなった死体を蹴り飛ばし、そのまま斧を引き摺り歩くは純血狂乱。他を寄せ付けない圧倒的恐怖、そして恐怖を感じない壊れた心。まるで、本物の人間兵器の様である。
私は、建物へ淡々と火を灯す。逃げ遅れた一般人共の、耳やら頬を掠める弾を撃ち、腰を抜かした馬鹿共は殺して行った。
そして、偶に出てくる支部の下っ端配属員共も狂乱の如くぶっ殺して。……ざっと数分経った頃だろう。炎に囲まれた灼熱地獄のこの場所に、似ても似つかない大人しげな靴音が。
勿論、私がその音を見逃す訳が無い。……私は斧を強く握り締め、警戒状態へ入る。
……大人しげな足音と共に、奴が姿を現した。曲がり角から出て来たそいつは、此方の方を見ると、迷う暇もなく突然鉛玉を撃って来る。
間一髪で頬を掠める程度に避けられたが、これが味方だった場合、どうしていたのだろうか。
「……っおいおい、なりふり構わず銃を打っ放す馬鹿が何処に居るんだよボケ……っ!」
「っ、すまねぇな。俺の相棒は、股間に取り付けられたピストルと同じでね。感情に任せて、勝手に打っ放しちまうのさ」
開始早々、とんでもない下ネタをぶっ込んで来た男は、深く被ったハットを銃口で上にあげればニヘリと笑う。
口元は無粋な無精髭。縁のある帽子を深々と被り、着ている服装もスーツ姿だが不格好だ。
……そして、手には私と同じ銃、ピースメーカーが握られていた。彼は、そのピースメーカーのシリンダー部分を雑に回せば。
「自己紹介失礼。俺は第八支部の副支部長のパウロ。愛用の銃は、お前が腰掛けてるのと同じピースメーカー。好きな食べ物は巨乳のねーちゃんとペペロンチーノだ」
シリンダー部分へ呑気に銃弾を補充し、笑いながらそう語る、第八支部所属、パウロ。
……これは、やりがいがありそうだ。
追記『パウロによる前日談』
最近、マタイさんから聞いたんだがよ。第十二支部のユダが任務中、突如姿を晦ませたらしい。それで、頭の奴らがユダの"死体"の在処を血眼になって探してるんだとか。
《追記》頭ってのは、簡単に言うとお偉いさんの事だ。
……だが、気になったことが一つ。普通よ、そういうのは"死体"って言うんじゃなくて、"遺体"ってオブラートに包むモンじゃねえのか?気になって、それをマタイさんに聞いたら、「上の奴らの思考は分からん」と言っていた。
本当に、お偉いさん方は情が薄い。俺でもびっくりしちまうよ。ま、会った事はないけどね。
《この先は字がかすんでおり、解読不可》




