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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode3_ダンテによる『神曲』
16/75

015_『天国篇』天動説に基づいた天国。

私は、チンピラの頬へ拳を突き付ける。


その瞬間、周りに居た男達も、時が動き出したかの如く動き出す。と、その時。黒猫は待っていましたと言わんばかりに、此方(こちら)へ向かって来たのだ。しかも、それに加えて「助けて!」と(わめ)くおまけ付き。


「おまっ……!お前は戦えるだろっ。一応、裏社会の何でも屋なんだろっ!」

「馬鹿言えっ!吾輩(わがはい)は、黒猫の人形使いだ。人形であるポッテナが居ないと、十二分に戦えないんだよっ!!」


そう言い、此方(こちら)へ近付き背中へ回る黒猫。


そして、此方へ襲い掛かる数人チンピラ共。くそっ!


護る者(まも もの)が居れば、自然と行動に制限と言う名の鎖が掛かる。例え、実力差が十二分に下のチンピラ共とは言え……黒猫に目を使いながら、攻撃を喰らわずにそのまま蹂躙(じゅうりん)するのは、流石の私でも骨が折れる。それに加えて、私は今、殺しを禁じられている状態に等しい。


やはり、戦闘にはその場の状況と環境が本当に関わって来るのだな。


「……っちぃ!黒猫っ、何か武器はっ──」

「ええと……っ。メリケンサックなら……!」


私に黒色のメリケンサックを渡す黒猫。そして「絶対に殺さないでねっ!吾輩(わがはい)の商売である、何でも屋の信頼にも関わって来るんだから」と、追記程度に一言。


私はメリケンサックを拳に握りしめ、そのまま相手の頬へと突き付ける。大丈夫、人間は意外と頑丈(がんじょう)だ。殴っただけじゃ死なないさ。


そのまま一人を戦闘不能にし、居合いの形に体を整え、拳を握りしめる。


「私の傍から離れるなよ、黒猫」


見る限りだと、総勢四名程度。しかし、目の前の情報を鵜呑みにしてはならない。一人、先程居た人数が減っているのだ。


多分、何処(どこ)かから奇襲を仕掛けるつもりなのだろう。


それか、ただ単に逃げただけなのか。だが、この状況下で、パニックに陥らず冷静な判断を取れる逸材。そいつなら、人を殺す事も躊躇(ちゅうちょ)はするが執行するだろう。この馬鹿共よりかは驚異になる。


今回の戦闘は、警戒は怠る事無くぶん殴る。


以上の事を守りながら、楽しく、戦闘に勤しむとしよう。


「てめぇっ!ぶっ殺す──っぞボケェ!!」


まずは一人目。手には果物ナイフ、両手で抑え此方へ刃を向けて来ている。が、脇腹(わきばら)がガラ空きだ。それを踏まえて、格闘の経験はあまり持ち合わせていない素人と見た。如何(いか)に、どう(なぶ)るとしようか。


「先ずはお前からだ。素人の溝鼠(ドブネズミ)──」


先手は勿論(もちろん)私から。脇腹に蹴りを入れてから、そのまま緩んだ手で掴んでいたナイフを取り上げる。ついでに肘にも拳を入れておいた。


ナイフは床に投げ捨て、痺れる手を凝視する素人の顔面に、渾身(こんしん)の一撃をお見舞する。


そして、その仲間を盾にして私は(ふところ)から、先程黒猫から買ったピースメーカーを取り出し。気絶をした奴の首元を掴めば、そのまま相手へ見せ付ける形で銃口を突き付ける。


気絶をした方は小便(しょうべん)を漏らした様だがお構い無し、人質として使わせてもらう。勿論殺す気は無いが、相手にはそれが本当か分かるまい。


例え、私達が目の前で殺すなと話していてもだ。


「此奴は玩具なんかじゃねえぜ?本物の銃、ピースメーカーさっ!……だが、お前らの行動しだいでは、そのまま『バーンッ!』だ。分かるか?撃たれちまったら終わりなんだぜ。体だと、アドレナリンやらなんたらで数分は生き延びるだろうなあ……だが、頭やこのクソ牛野郎のハツなんかに当たっちまえば、即死だよ。そりゃもう、血をドバッと吹き出してな」


まあ、撃つ気は毛頭無いんだがね。


だがしかし、それを相手が分かる筈も無く。それ故に、私のピースメーカーを本物だと思えずにも居たらしい。……ジリジリと、相手が武器を片手に近寄って来ているのが見える。


私はそれを見て、気絶した牛野郎の首元から腕を退かし。そのまま一番近くに居た二名へ発砲。勿論、アキレス腱を少し掠める程度でだ。


そのまま私に寄ってきていた、二人のアキレス腱を銃で撃ったのを再度確認する。そして私は動き出す。二人目、しゃがみ込んだ所を見計らい、首元へチョップを噛まし気絶させる。


三人目も同じくアキレス腱を切ったので、生かしやすい。其方も同じく首元を殴り気絶。


「このっ──……?!化物めっ!!」


最後の一人が、此方へ駆け出してくるのが見える。

片手には、鋭利(えいり)な刃が出てくる指輪型の武器が光っているのが見えた。確かに、分からなければ相手に傷を与える事は可能だろう。


だが分かれば無問題(もうまんたい)。小さな刃の可動域など高が知れている。相手の拳を避け、そのまま右腕で顔の正面部分をぶっ叩く。


相手の前歯が折れたが問題無し。痛みで気絶するので、逆に好ましい限りである。


だが、やはり。護るべき者が居ると、行動を制限され、意識が行くのは当然なのだろう。


「────────────っ!!??」


突然。黒猫の(そば)へ、物陰に隠れていたもう一人の男が姿を現したのだ。片手にはナイフ、それにその力の入れ具合。本当に殺す気だ。


くそっ!しくじった!調子に乗った。……やはり、最優先で黒猫の(そば)に少しでも寄り添っていれば。今の場所では、相手には攻撃は到底届かない。


私のピースメーカーも、オートマチックでは無い品物なので、右手を添えるリロードの時間を含めると、その前に黒猫が奴に刺されてしまう。


心臓の鼓動が、一気に脳内を駆け巡る。


「──っ避けろ!!黒猫──────っ!!」

「………………………………まずいね……っ」


パニックに陥った私は、意味も無く、その場の感情に任せて黒猫は手を伸ばす。が、届く筈もない。手に触れるのは空気のみ。


……次からはゲロを吐いてから直ぐに戦闘をするのは控えよう。やはり体が(いささ)か鈍る。


……これから耳に入る音は、肉を裂く音と、それと共に噴射する血のおどろおどろしい音なのだろう。だか、後悔先に立たずだ。


後悔してももう遅い、それはもう、身を持って経験している筈なのに──……。


次の瞬間、私の耳を瞬時に掠めたのは、金属が互いにぶつかる音であった。……?


「──主様が死んでは、ポッテナは悲しいです。そして、主様を命を懸けて御守りするのが、私。ポッテナの役目でもありますから」


……目の前には、メイド服姿で、黒髪黒目の闇をも飲み込む色をした。手にメスの様な小さなナイフを握り締める──ポッテナの姿が。


ポッテナは、相手のナイフを退かし、そのまま奴の腹へ、渾身の一撃をキメたのだった。


その勢いと共に、壁にぶつかり気絶するチンピラ。


「っポッテナ。もしかしてポッテナかい?」


倒れるチンピラを無視し、黒猫はポッテナの方へと駆け寄れば。そのまま、感情を表す様に、ポッテナの頭を撫で回し始めた。


「よしよしよし〜っ!偉いよポッテナ、ありがとう。帰ったらポッテナの大好きな、角砂糖を五個もあげちゃうからねっ」

「…………主様、私も大好きです……っ」


とてつもなく愛でる黒猫に、ポッテナも満更でもなさげな顔である。


口元はいつも通り平坦な伸ばし棒の様だが、自慢げに頬を膨らませ、顔を桃色に染め上げている。そして、何故(なぜ)此方(こちら)の方を見て「ふっ」と笑うポッテナ。


「……っすまん、黒猫。私が油断をするばかりに危険な目に合わせてしまって。それに、折角誘ってくれたサーカスだって、台無しに」

「君が気を病む事は無いよ。それに、ヴェルギリウスちゃんが来てくれただけでも、吾輩はとても嬉しかったよ」


私は黒猫の方へ近寄りそう言うが、黒猫からは予想外な言葉が帰ってくる。……だが、仮を借りっぱなしと言うのも(しゃく)に障る話だ。次に黒猫の店に行った際は、いつもより多く金を払ってやろう。


そう思ったのも束の間(つか ま)、黒猫のよしよしタイムが終わったのか。満足気に、そして誇らしげにしているポッテナが、私の方へ近寄ってきたかと思えば。


「ふふん、いいでしょう?主様を(たぶら)かす、諸悪(しょあく)を働く男よ。ポッテナは、主様の忠実な奴隷です。貴方より何千倍も、ポッテナは主様によしよしをして貰っていますし、カクザトー(角砂糖)だって沢山貰っています。ずるいでしょう。……ふんっ。ポッテナは、貴方の事が嫌いです」


なんと、正面から堂々と嫌いと発言されてしまった。だが、その言い草からして、私の事を黒猫を誑かすライバルだと思っているのだろう。


……男と言うのは聞き捨てならないがな。


「……じゃあ、私はそろそろこれで帰るよ」


此方(こちら)へ敵意を示すポッテナと黒猫へ私はそう告げると、愛用のピースメーカーを(ふところ)へ仕舞い彼らへ背を向ける。


「うん、じゃあ、気楽に待ってるからね」

「ああ。……だが、最近ヘンゼルとグレーテルの童話の話も聞かなくなってきた。そろそろ此処らも潮時だ、今夜中に荷物は(まと)めて出ていくことをオススメするよ。……丸焦げになりたくなければな」

「分かったよ。じゃあ、また会える日まで」


そう言い、此方(こちら)へ手を振る何でも屋、黒猫。


倒したチンピラの体を踏み付けながら、そんなこんなで私は帰路へ戻って行ったのだった。

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