012_門番を任されたは智天使ケルビム。
005
「……今回殺す童話はっ……ああ、『オズの魔法使い』ねっ」
……俺は、目の前のダーツボードにダーツを投げた。ダーツボードには、童話の名前が書かれた紙が何重にも貼られてあり、俺はその中で。
適当に投げたダーツの当たった、『オズの魔法使い』と言う童話に狙いを定めた。
もう悪役らしく振る舞うのは飽き飽きしていたさ。だからか、怠惰を貪る様に、適当に人や童話を殺して行った。
ティーテーブルへ向かい、雑に置いた小銃を手に、俺は室内に擦ったマッチを投げ捨てる。証拠隠滅、俺は駆られる側にはなりたくないんでね。
006
「ははは、喚き散らせ〜屑共〜〜」
オズの魔法使いの童話に火を灯し、そのまま逃げ惑う市民の頭を適当に撃って行く。
撃つ相手も気分次第だ。時には子供も殺したし、時には子供を逃がしたりもした。
それ故に、人間には、命乞いのレパートリーが山程あるのも確認できた。俺は、そんな醜い人間の命乞い図鑑を埋めながら、思うがまま人や童話を殺して行った。いつものノーマル笑顔と一緒にね。
一通り童話を荒らし終えた俺は、偶然目に写った、一際でかい館に目を付けた。何処ぞの金持ち貴族が住んでるんだろうな。
俺はそう考えながら、煙草を片手に、まだ炎が広がっていない館へと足を踏み入れる。
……中には、メイドや執事が数体。俺は奴らを迷わず直ぐに殺した。そして理解する。
屋敷はあのメイドや執事以外居らず、もぬけの殻状態だった事を。オマケに物音一つ聞こえない。
それを確認し、俺は死体執事の腹を蹴る。
「っち、折角指折り数えることの出来ねえ坊っちゃんの居る屋敷だと思ったのによお。……面白くも何ともねえ。此処もそろそろ燃やすか」
マッチを擦り、そのままマッチ棒を地面へ捨てようとした。その時だった。ガコンッ、物音が俺の耳を掠めた。
瞬時に物音のした方向へ銃口を向け、発砲。そこには、隠れる様にして蹲る、年端のいかない少女が座り込んでいた。……ビンゴ。
マッチの火を消して、俺はその少女の元へと向かって行ったさ。女は高そうなネグリジェの寝巻きを着込んでおり、見事に腰が抜けている。
そりゃもう、お手本の様だったよ。
「……貴方は誰っ、何でこの屋敷に入って来たの……っ!化け物めっ!!」
先程撃った銃弾で、足を傷付けたのだろう。血が滴る足を抑えながら、強気に語る少女。
俺はそんな女の姿を見て、口笛を吹くと。そのまま目の前へしゃがみ込んだ。
「っひゅ〜。いいね〜、その態度。……この高そうな服。随分と親の権力と脛を噛み千切って買って貰った服なんだな。それに、生意気な餓鬼の癖してオイルに化粧、か。権力者の臭いがプンプンしてくるなあ」
厭らしく笑う俺の顔を見て、より一層顔を顰めるネグリジェの女。……権力者の癖して命乞いは無しか。
だが、その様子じゃもう死ぬのは確定だな。一階にはもう炎の手が迫って来ており、その上逃げる足さえ怪我付きだ。
……無様過ぎて、逆に笑いが込み上げてくる。まあ、逃げれない様に足は俺がやったんだがな。
「……っくく。……ご愁傷様。で、最後に言い残す言葉は?」
俺は彼女へ銃口を向けた。その俺の行動で察しがついたのだろう。彼女は深呼吸をし、此方へ視線を向ければ。
「最後に、オ───────────」
最後の言葉を言う暇も与えずに、俺は女を射殺した。最初から、最後まで言わせる気は微塵も無かったからだ。
そして、死体に目をやると。死体からは、何故か絶えず涙が零れ落ちていた。
……こんなのは初めてだ。だがそれを押える程の、耐え難い感情が俺の口元を支配する。
「……くくっ、ははははははははははははははっ!!ひっ!は、ははははははははははははっはははははははははっ!!くくくっ……くははははははははははは!!!?」
嘲笑の含んだ爆笑。笑いが喉奥から込み上げてくる。それ故か、女と同じ様に俺の目にも涙が。……勿論、笑いの涙だ。
……俺は一通り女を嘲笑い、そのまま窓を割り二階から外へと逃げて行く。室内に、マッチの棒を投げ捨てて。
そして、屋敷の庭の芝生を噛み締めながら、俺は歩く。……そろそろ潮時だ。現場に長く留まってしまえば、自然とリスクは跳ね上がる。
コツ、コツ、コツ。靴音を響かせ歩く中。目の前から、此方に向かって走って来る人の姿が。支部の人間か?……だが的外れ。
「はっ!…!ひはっ、っ!は、っ!は!!」
息を切らし、不格好な走りを見せる青年。髪は茶色、瞳孔は吸い込まれる様な緑色。
彼は、燃える屋敷に向かっている様子だ。彼の瞳孔を見てみると、燃える屋敷が絶えず目に入っていたからだ。
そして、彼は俺の隣を通り過ぎた。……俺の事など、眼中に無かったのだろう。俺は振り返らずに、そのまま歩いてその場を後にする。
…………だが、あの青年と次に会う時は、俺があの女を殺したと伝えてやりたい。絶望に血濡れた奴の顔を、拝んでやりたいから。
俺はもう悪役なんだ。それなら、もうどうでもいい気がする。後から後悔するけれど、構わない気がした。俺は、正真正銘、本物のオオカミなのだから。
──ダンテ──




