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純血の赤ずきん  作者: 加藤 會田
Episode2_人生と禁断の果実
11/75

010_林檎が表す『誘惑』と『後悔』。

003


泣きながら暴れるユダを鎮圧し、私達は眠りにつく。勿論、ユダ用の部屋は無いので、私の部屋で寝かせてやっている。私の隣で、涎を垂らし寝るユダ。


私は暗闇の中、その姿を眺めれば、天井を静かに眺め、こう呟いた。


「……………………ムラムラして来た…………っ」


負けた時のユダの様に、足をもどかしく動かしそう呟く。そうだ、結構ムラムラするのだ。だが、生憎この場にはユダが居る。


だが、結構ムラムラする。いつもなら無理矢理寝て過ごすが、今回ばかりは、そう簡単にはイかせてくれないだろう。


……まあ、夜道でも歩けば収まるか。私は静かにベッドから立ち上がり、部屋の扉を開く。


そして、そのまま玄関の方へと引き()る股を動かして。外へ出ようと、私は扉へ向かって行く。


……私の手が、玄関のドアノブに手触れた―その瞬間、肩を優しくぽんと叩かれた。一気に背筋が凍るのと共に、瞬時に腰に掛けた武器を手に取り相手へ向ける。


「怖い怖い。そんな物騒な物しまってよ、ヴェルギリウス。僕に刺さりそうで怖いんだ」


目の前には、煙草を片手に両手を上げる、オズヴァルドの姿がそこにはあった。


どうやら、彼も同じく外に出たい様子だった。しかし、手に持っている物からして、煙草を吸いに行くのだろう。そう考えながら、私は、そのままオズヴァルドと共に外へ出る。


凍える風が、私達の体を包み込む。


「こんな真夜中にどうしたんだい、ヴェルギリウス。いつもなら寝ている時間だろうに。……もしかして、ユダちゃんの子守りに飽き飽きしたのかな?」

「違う。ムラムラして眠れなかったんだよ。だから、気分を変えようと外に出たんだ」

「へえ、化け物にも性欲ってあるんだね」


私は、そう語るオズヴァルドの胸倉(むなぐら)を掴む。しかし、彼はいつものヘラヘラとした表情で生温い謝罪を返す。


そして、ボシュッ、ライターに火が付いたのを確認すると、煙草を(かざ)し息を吐いた。夜空に溶け込む、黒い息だった。


そして、夜空に輝く星々もまた綺麗である。


私は、唾を地面へ吐き捨て奴から手を離し、そのまま夜景(やけい)を眺める事に。


「……私は星が好きだ。星を見ていると、今自分の抱えている悩みがちっぽけに思えてくる」

「僕も同じだよ。こんな大きな空を見ちゃえば、達観した気持ちになれるもんね。……あ〜あ、お金が欲しいっ」


煩悩(ぼんのう)まみれだった。


「けど、やっぱり君達と居ると金が山程集まるよ。消費する金も含めてね。……分かんないか。ほら、童話を殺したついでに死ぬ賞金首共いるじゃん?そいつらの死体を見せて金を貰ったり、亡骸や遺品を盗って金にするんだよ。それに、そういう反社会的勢力と手を組めば、謝礼として金が貰える」


煙草を片手にそう語る、オズヴァルド。


私はオズヴァルドの姿をチラリと見詰めると、また空を眺めながらこう言った。


「……逆に聞くが、お前はなんで今回そんなに金が必要なんだ?いつもの様に、遊べる程度の金貨が稼げれば消え失せればいいじゃないか。今回は、いつもの倍程の金に(こだわ)る見たいだな、オズヴァルド」

「言い方が悪いよ、ヴェルギリウス。まあ、君達と関わるのが今回で最後だからってのもあるね。一生遊べる程の金を、今の内に沢山手に入れておきたいのさ」


私は、オズヴァルドのその言葉に、少し目が見開いた。今回限りで最後……?一応、オズヴァルドとは結構な付き合いだ。まさか、この日、この場で。この言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。


その私の反応を知ってか、ヴェルギリウスは煙草を手に持つと、黒い息を吐きながら。


「僕も今年で四十一になる。整形やらで若さを見せても、そろそろ老いが来る筈だ。老いれば自然と力は衰え、反射神経も鈍くなる。そしたら、僕が裏社会で死ぬのも時間の問題さ」

「……ああ、だから毎度会う時に若干顔が変わってたのか。今回は少し顔を弄ったみたいだな。会った時、顔を上げる糸が若干見えた」


意地悪にそう言う私を見ては、「正解」と呟くオズヴァルド。だが、追記として「性欲だけは、長年僕は老いないと思うよ」と一言。


まあ、流石と言うべきか。普通に気持ち悪いのは、年齢を重ねても変わらないのだろう。


「私も、もうすぐ十六歳になる」

「あ、ヴェルギリウスの奴、年齢を僕に自慢しやがったな。あ〜あっ、昔見たいに、沢山(なぶ)ってあげたいよ」


確か、私もオズヴァルドと出会って、ざっと四年経つ。そして、初めてオズヴァルドと出会ったのが、十一歳の頃だった。


あの頃は力不足で、よくオズヴァルドに負けては罵られ、殴られていたのを思い出す。


あの頃は、本当にオズヴァルドの事が嫌いだった。が、今では共に酒を煽る、立派なビジネスパートナーだ。当然、友達などでは無いがな。


……私は、あの時から人をしっかりと信用出来なくなってしまったのかもしれない。


「懐かしいな。ほら、覚えてるか?私が十二の頃、熱をひいた日に、お前が賭けに勝ったからって、無理矢理レストランに連れて行った時のこと。あの時食った飯が、これまた脂っこくて。気持ち悪くて裏でゲロ吐いちまったよ。あの時は本気でお前に殺意が湧いた」

「ん〜っ。僕覚えてないね。そんな細かい事」


その態度に苛立つ。が、このままじゃ、昔の様にオズヴァルドの手の上だ。一旦息を吐くと、私はそのまま空をじっと見つめ。


だが、オズヴァルドがまた口を開く。多分、彼が煙草を吸い終わるまで、この長話は続くだろう。


「けど、僕は君に会った時の事は、しっかり覚えてるよ。ダンテさんの隣に居た、真っ赤な頭巾を着込んだ女の子。少し獣と血腥(ちなまぐさ)くて、その生意気な顔が気に食わなかったなあ」

「私は、お前の事を悪魔か何かだと思っていたよ。何せ、エポーレットにハイカラーのシャツで、フリル付きのシャツと来たもんさ。(さなが)ら見た目は何処ぞの魔王さんさ」

「君さあ、僕の事褒めてるの?貶してるの?」


そう言い、(ほお)を膨らませ此方を眺めるオズヴァルド。その顔は、宛ら今年で四十一歳とは思えない。何処にでも居る、健気な青年と言うべきか。顔や身体に金をかけているのが(うかが)える。


そして、オズヴァルドはまだ半分も残っている煙草を床へ捨て、グリグリと足で踏み潰した。それはまるで、彼の心情を表している様だった。


「勿体ねぇな。まだ残ってんじゃねえか」

「人生の最後に、しっかり楽しく味わう為だよっ」


人生の最後、死ぬ時だろう。だが、私にはその言葉の意味が上手く理解出来ない。


その私の顔を見て、オズヴァルドは頭へぽんと手を置くと、そのまま宿へと私を連れて戻って行った。


そして自然と、ムラムラは無くなっていた。

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