009_食べれば死に急ぐ禁断の果実。
002
「…………っん」
私が目を覚ますと、そこは宿のベッドの上。
ああ、私はあの時やられたのだと、その寝惚けた頭を動かし実感する。そして、部屋の整い具合からして、私の自室なのだと確認。
隣には、体を大の字にし、涎を垂らし眠りこけるユダの姿。……通りで、肩の調子が悪い訳だ。私は、眠るユダの頭を引っ叩く。
「な、っ。なんだあ?!何処の軍だ……っ!」
「何処の軍でも無い、此処は私の自室だボケ」
涎を自身の手の甲で拭うユダ。だが、ユダの体は、下着すら着用されていなかった。
それは、私も同じ様に。素裸で、二人で眠りこけていたのだろう。
側から見ると、誤解が生まれそうなシチュエーションだ。……それ故にユダの方は、自身が服を着ていない事に驚いている様子。
「なっ……?!なんで、私は服を着ていないんだ……??」
「彼奴らはそう言う面だけはしっかりとやってくれるんだよ。ほら、雪で汚れた服のままだと、余計に体が冷えるだろ?」
私はベッドから立ち上がり、火のついた暖炉近くの腰掛けに掛けてある、下着と服を手に取れば。そのまま着替えながらそう話す。ユダの方は、顔を真っ赤に染めながら、シーツで体を隠している。
……が、豊満な乳やケツの所為だろう。所々が丸見えだ。
だが、私はそれを指摘せずに、そのまま服を着替え始め。ユダの方も、ベッドから渋々立ち上がり。震える体で、もう片方の腰掛けに掛けてある、自身の服を取り着替え始める。
「大切な所を見られたのが、少し恥ずかしい気もするが……」
「お前は乳とケツがでけえから、脱がせる時は、先生もオズヴァルドも苦労しただろうよ」
その言葉に、またもや頬を赤らめるユダ。
急に女々しくなりやがったな、痴女の野郎め。
「ちっ、何一丁前に赤らめてんだよ。大丈夫だ、慣れりゃ問題ない。私だって、何度もオズヴァルドの服は脱がせた事はある。最初は少し恥ずかしかったが、次第に発情もしなくなったよ。オズヴァルドの体は意外と肉付きが良いんだよな、シックスパックに顔はイケメンと来たもんだ。そりゃ、誰でも発情はしちまうさ。それに」
「もう分かった、それ以上は言わないでくれ」
どうやら、先にユダの方に限界が来てしまったらしい。上着を着ていない、上半身ブラジャーの体で、ユダは両手で入念に耳を押さえている。まるで、外部からの接触を拒む様に。……だが、隠す場所がまるで違う。
「…………ふっ、初な女め。そんなに私の男の体についての説明が卑猥だったかっ」
「逆に、何故貴様はその様な事を気楽に話せる……そ、その。女なのならば、普通は自重すること所だろう……っ」
確かに、普通はそういう反応をするのであっているだろう。だが、この歳になってもまだその卑猥な言葉に慣れていないその様は、実に心配である所である。
……意味を知っているのなら、そう遠く無い未来に慣れる希望があるだろう。
まあ、私の場合は、先生と共に過ごして来たからと言う事もある。先生は酒を飲んだ時が、機嫌が頗る良くなる。その時は、脳内全てのリミッターが外れ、汚い言葉もばんばん使う様になるのだ。
その先生の酒飲み時間は、よく付き合わされる事が多かった。それ故に、この様に下品な言葉に対して耐性が出来たのかもしれない。
「ほら行くぞユダ、先生達が待って居る」
「おいっ。耳を引っ張るなヴェルギリウスっ」
喚くユダの顔すら見ずに、私はそのまま、リビングに繋がる扉を開けた。
裏切り者のユダの耳を、触りながら。
……そして、宿のリビング的部分の扉を開けると、ティーテーブルを囲む様にして、先生とオズヴァルドが、そこの椅子へと腰掛けていた。そして、先生は私達を見てにまりと笑えば。
「……起きたか、気分はどうだい二人共っ」
「最悪の気分だよ、先生のせいでね」
手にはウイスキージョッキ、ティーテーブルの上には、数多もの酒瓶が散らばっている。
先生は此方の姿を見るや否や、酒瓶を指に摘みながら椅子を引く。……座れということなのだろう。私とユダは、その席に腰掛ける。
「まあ飲めよ〜。此処のピザは別格だせ〜?特にこの、ダブルモッツァレラが至高の逸品だ」
「私はモッツァレラチーズはあまり好きじゃないんだよ。……おいオズヴァルド、私にそのポテトピザをくれ」
「お子ちゃま舌め。一生芋でも食ってろ芋女」
不機嫌そうにそう拗ねる先生は、口元へモッツァレラチーズの伸びたピザを一口。
「それなら、私にモッツァレラチーズを一つ……」
場の空気を読む様にしてそう告げるユダ。しかし、先生は、ユダに酒を手渡したのだ。
酒、酒である。それを見て、眉間に皺を寄せるユダ。そして、その顔を見て厭らしく笑う先生。
「お前になんざあげる食いもんなんてねえよ。あるとすりゃ、お前が苦手だと言っていた酒のみだ。飲むと気分が良くなるぞ?」
「私が酒嫌いだと何度言ったことか。私は酒など飲まん、酒を飲めば人が変わる。まるで、サタンが取り付いている様ではないかむぐっ?!」
戯言を呟くユダの口元へ、先生は無理矢理葡萄酒を。もごもごと手と口を動かすユダだが、その抵抗も虚しく。
瓶の中の葡萄酒は、目に見える程に無くなって行く。
酔っ払い顔を赤らめる先生と、酒飲みのコールを始める私とオズヴァルド。隣に座るオズヴァルドもまた、先生と同じく、酒で顔が火照っていた。
「うっははははは〜〜っ?!ユダちゃん、息出来てないんじゃないの?っふっははは!!」
「ぶはっ?!ユ、ユダの醜い姿に、乾杯っ!」
私はそう言い、オズヴァルドとグラスを合わせ酒を飲む。私達が幸せなのとは逆に、ユダの方は死にそうである。
そして、瓶の中の葡萄酒が、全て無くなった時だ。先生がユダの後頭部を掴んでいた手と、口に突っ込んでいた酒瓶を退かし、雑にティーテーブルの上へ空っぽになった酒瓶を置けば。
フラフラと地面を踊るユダフリッヂ、そして、急に立ち止まったのかと思えば。顔からは、溢れ出す程の涙が浮かんでいた。
「ひぐっ……だ、だあから私は……。酒が飲みたくないと言ったのにっ……!うっ、は……」
涙と酒のせいだろう、顔は耳まで真っ赤に火照っており、大粒の涙が零れ落ちている。
私達は、そんな変わり果てたユダの姿を数秒間黙って見ていれば、そのまま耐え切れずに爆笑した。そりゃもう、腹を抱えてだ。……抱腹絶倒である。
「ははははははっひっはははは!!あっははははははははははっ???!ははははははははっっはははははははははは!?くくっ……くははははははっ!わ、笑っちまうよユダ。お、お前……酒で泣くタイプか。ぶっ?!」
「くくっ、はははははははははっ!?お前に酒を飲ませて正解だったよ……っくはははははははは!!酒のお供ができたっ?!」
嘲笑の嵐である。笑い過ぎたのか、私の目元にも涙が浮かんでくる。笑わせやがってこの野郎。だが、ユダは震える体と拳を手に、そのまま背中に手を伸ばす。
手に握られしは、とある漆黒色の大剣。悔し涙と、酒臭い体を震わせて。ユダは此方へ物騒な剣の矛先を向ければ。
「お前ら…っ。いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!?!??ぶっ殺してやるからなあああああああっ!!!!」
感情のまま、室内で大剣を振り回したのだった。逃げる兎を追うように。




