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秘密基地

 町に空と太陽が戻って、蕾が膨らみ新しい命が芽吹く季節へと変わった。

 川には魚が泳ぎ、頬を撫でる風が気持ちいい。あんなに気味悪かった森付近も今は、町民がご飯をもって散歩に行くほどになっていた。そのうち森も解放されるとの噂だ。

 陽葵も体はすっかり良くなり、町で小物を売って困った人の為に魔術を使っている。

 『町の魔術団』は団長の『死亡』により解体。

 町民には団長が魔力を集めていた事実は伏せられた。『憎しみ』が生まれてはまた団長のような者が現れてしまう。

 人の世の中には必ず存在する『憎しみ』だが、なるべく平和な時間を過ごしてほしい。と言う四季の神様の願いだった。


「蕗狛ー、まだ用意できないのー?」


 窓の外で声がする。声の主は翠。

 なかなか返事がないのに痺れを切らせ、家に入る。

 

「一蕗芭さーん、こんちゃあぁー!蕗狛いる?」

「あらあら、翠君。蕗狛ならさっき出かけたわよ?」

「え……」


 一蕗芭とは陽葵のことで会うこともあり話す機会も多く、ご飯に呼んでもらったりと仲良くさせてもらっていた。

 今日は蕗狛と桜に、会いに行く約束をしていた為迎えに来ていたのだ。

 桜は町民の中で人間として『死んだ』ことになっている為、町には戻ってこなかった。

 今は他の精霊と四季の神様の城に住んでいる。

 たまには遊びに来いとの話だった為たまに行くのだ。

 

「先に行ったのかもしれないわよ。あの子おーばあちゃんのこと、大好きだから」

「大好きなのねぇー。まあ目的地は一緒なので行ってみます」

「あの子のこと頼むわね。いってらっしゃい」

 

 一蕗芭に軽く挨拶をした翠は、魔術を唱え空高く舞い上がり、森へと向かった。森自体にはもう結界は張っていないしいつでも入れるのだが、四季の神様の住まう城に行くには森の入口前で鍵を開ける。そうするとそのまま城に出ることが出来る。

 森の中を通る方法もあるがまだ戦いの後片付けが済んでいなかった。

 森に入ってはいけない。と、言うわけではないが地面はそり返り、木々は倒れ魔術なしでは歩けないほど荒れている。

 四季の神様の魔術であれば一瞬で直せるが、体調が万全でないようで最高度魔術は使えていない。

 翠は森の中腹に降りた。もちろん蕗狛のいる場所に心あたりがあった。

 そこは大きな砂埃が立ち込めていた。


「ったく、どこまで行ったんだろーねぇ、約束すっぽかすとか、うちの隊長となんら変われねぇーな。なぁ、蕗狛」

 

 翠が声を掛けた。


「なんだ、もう追いついたのか」

 

 答えたのは紺だった。

 

「何やってんのかと思ってきてみれば、毎回そんなことしてたのか?紺」

「あぁ。あいつに頼まれてね。なぁ、蕗狛」


 蕗狛は、紺からだいぶ離れたところに転がったいた。

 むくりと起き上がり服に付いた泥を払いながら翠に声を掛ける。


「毎回じゃないけどな。紺が一番、稽古を頼みやすかったんだ」

「別に俺でもいいんだけど?」

「お前は魔術団の後片付けとか、いろいろあったろ?立葵も忙しいだろうしな。紺は暇なんだよ」

「暇って、いーかた!もう稽古してやらねぇーぞ!」

「えー、困るわあ」

 

 三人は雑談しながら森を進む。

 紺は四季の神様(ハートロキ)と式神の契約をして今は、森の見廻り部隊として毎日を過ごしている。

 

「なー蕗狛は今後どうするんだ?」

「なんだ、急だな」

「いや、なんとなく聞きたくても聞けなくてなー」


 翠は頬をポリポリ掻きながら、恥ずかしそうに聞いた。


「そうねえ、ここを出ていこうとは、思っているよ」

「ここを?」

「そ、この前ロキに聞いたんだ。世界は『数珠繋ぎ』になっているってさ。そんなの見に行きたいじゃん?」

「数珠繋ぎ……だと?」

「そう、言ってたよ」


 二人は初めて聞く話に耳を疑った。

 しかし、蕗狛はなにも疑うことなく『数珠繋ぎだったらみたい』とそう言ったのだ。

 

「それはいつ行くんだ?」

「んー体力もだいぶ戻ってきたし、明日か明後日……かな」

「ずいぶん急じゃねーか!」

「まぁ、あんまりダラダラしたくなくてさ」


 蕗狛は話しながら胸元から鍵を出し、魔術を唱える。


「――吾、四季の神様の許しを得たものなり――(カイ)――」


 ――ブワ!


 風が吹いて大きな扉が現れる。

 

「こんな森でも扉開けられるのかよ」

「え、どこでもいいだろう?」


 翠の質問に驚きながら蕗狛が答えて扉のを開けると城の入口に出ていた。

 この前まで『夜顔』が咲き誇っていた花畑には、今もそのまま同じく夜顔が咲き乱れていた。

 城の前を流れる川も水が澄み、顔を覗けば自分の顔が映るくらいだった。蕗狛が来たことに気づいた楸が駆け寄る。

 楸も体調もいいようで、人間の姿で過ごしていても疲れなどはないようだ。


「蕗狛、遅かったわね」

「うん、少し遊んできたんだ」

「また稽古?少しは休めばいいのに」

「んーでも、だらけるしなー」


 蕗狛と楸が楽しそうに話をしているのをそこそこに聞き、翠は少し驚く。

 『また稽古』とは。

 

「紺、お前あんな稽古、何回もやってんのか?」

 

 あんなとも言いたくなるのは、蕗狛達が居たその周辺は土がひっくり返り抉れ、蕗狛もそこそこ傷だらけになっていた。

 もちろん、紺も傷は負っているのだが、式神はそんな傷、たいしたことないのだ。

 

「え?あーほぼ毎日かな?」

「は?」

「稽古しては、こっちきて桜さんに新しい魔術書はないか確認してるんだよ。なんなのあいつは。魔術馬鹿なの?」


 全くその通りで、翠は何も言い返すことができなかった。

 

 城内部はすっかり元どうりで、みんなそれぞれの役割を果たしていた。

 まだ戻っていないのは『榎』だけ。

 四季の神様の話ではもう少し時間が掛かるとのことだった。こればかりは榎次第になってしまう。


「四季の神様はどこにいるんだ?」

「たぶん、屋上かな」

 

 蕗狛が上を指さし、合図する。翠は「さんきゅ」と、返事をして四季の神様がいる屋上を目指した。

 

「どーぞ」

 

 屋上の扉の前で翠が、何をどう話そうか悩んでいると、そう中から声がして、扉が開いた。

 

「へ……」

 

「聞きたいことがあってきたんだろう?」

「(なんでもお見通しかよ)……ええ」

 

 四季の神様は屋上に結界を張り雨風を凌げる天幕代わりにしていた。

 その中には畳が敷かれ、大きな桜の樹が数本伸び伸び育っていた。

 

「ここは……何ですか?」

「ここは私の秘密基地だよ。森が一望できて、アポトー町も見える。ここは昔から皆を見守る場所だったんだ」

「お邪魔してよかったんですか?」

「当たり前だよ。私は翠を大切に思っているから、この秘密基地にたどり着いたんだよ」

 

 そう言って、翠にお猪口を渡しお酒を注いだ。

 この秘密基地は誰でも入れるわけではない。四季の神様が開けないと入れない。精霊も桜以外は入れていない。

 別に大切にしていないという訳ではない。ただ入れたら騒ぎそうだという、四季の神様はめんどくさがっているだけだった。

 緊張を流し込み、翠は聞きたかったことを言葉にする。


「この世界は数珠繋ぎなんですか?」

「そうだね。この世界は数珠繋ぎで出来ている。ただ『異世界』ではないんだ。時間軸も生死観も、魔術に関しても同じだよ。……あ、蕗狛も呼ぼうかなあ。答えを聞きたいんだ」

「はい?」

 

  そう翠が首をかしげると、四季の神様の隣に、蕗狛が姿を現した。

 

「今、飯食ってたのにさぁー」

「あー、悪いねぇ。ご飯はもー終わりだった?」

 

 蕗狛は口をモグモグさせながら、呼び出した本人に文句を垂れ最後の一口を放り込み、畳に腰を下ろしてくつろぎながら、ロキに声を掛けた。


「終わったよ。どーしたの?」

「や、翠がこの世界の話を聞きたいって来てね、前に話してた季を人間にする方法を探しに行くのか蕗狛に確認しようと思ってね」

「あー、そのことね。考えたけど行くよ。やっぱり季に逢いたいしねぇ」


 ロキも畳に腰を下ろした。


「行くって言っても、ここに戻れるかも、戻せるかもわからないんだよ?」

「あー、その辺はどうにかなるさ」

「どうにかって……」

 

 ロキはどうにかなると言う蕗狛を呆れて見ている反面、蕗狛はこんなもんかと妙に納得してしまった。

 そんな中、翠はそわそわしていた。


「それって、俺も行ってもいいかな?」


 

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