灰青
おーばあちゃんとの約束はふたつ。
ひとつ、青空と太陽を取り返す。
ふたつ、四季の神様との約束を果たす。
これは蕗狛が小さい頃から『絶対守ってほしい』とおーばあちゃんから言われていた。
そのための魔術習得におーばあちゃんとの稽古で、学校や遊びよりもそっちの方が優先とさえ言われていた。
ふたつの約束を守るには、ベンタを倒さなくてはならないこと。これは避けて通れないことだった。
ただ、それには蕗狛の魔力だけでは足りなかった。補うための方法。
「――灰青――」
蕗狛が、魔術を発動すると辺りが暗くなり、雷が鳴り響く。蒼雷や白雷が広間に落ち、地面が揺れ地面に亀裂が走る。
「なんだよ!」
ベンタも今まで見たことのない揺れや亀裂。
ここで蕗狛の邪魔されては困る。夏生が少し焦り、先に撒いてあった『香芝』を使う。
「余所見、二回目っ!――咲――」
夏生が発動すると、ベンタの体のあちこちで何かが、咲いていた。
それは、『香芝』の毒が咲いて体にアザができていた。
「……ぅぐ…………」
ベンタが血を吐いて膝をついていた。初めて膝をついた。目が回る、気持ち悪い……。
四季の神を氷漬けにしてからたいして訓練していなかったのは言うまでもない。
その為何かを習得なんてしていない。ベンタは『毒』の耐性はなかった。
しかし、『天性の才』だけはしっかりと持ち合わせていた。
「こんなの」
そう言って一番アザがひどかった左腕に触り、魔術を発動する。
「――分裂――」
ブチブチと左腕を引き裂いた。
「まぁ、腕は何とでもなる。それよりも――崩壊星――」
ベンタの周りに拳大の崩壊星が無数にできていた。
「これを弾のように飛ばしたらどうなるかなー?」
崩壊星はあたったものを吸い込むのが特性で、もし崩壊星が体に当たりでもすれば、ひとたまりもない。
夏生は、崩壊星をみて「それはまずいね」と一言呟いたが、物怖じせずに飛び込んでみることにした。
何個かの崩壊星が体に掠って、至る所小さく無くなっているが、痛みは感じなかった。
「四季の神様、力を貸してください。蕗狛の魔術ももうすぐ完成なんだ…………」
大きく深呼吸した夏生は手にしていた錫杖を見つめ集中し始めた。
「楸こわいね……。四季の神様、お力をお借りします。――春楡の龍神――」
錫杖を思いっきり地面に刺し、春楡の龍を呼び出した。
刺さった地面から小さな芽が出て、低い木に代わる。そこからはあっという間に、春楡の樹に育っていた。さらにその春楡の樹に夏生が触ると葉が揺れて、『龍神』の姿に変わった。
「春楡なんて対して強度もないもので『龍神』なんて呆れる」
ベンタが鼻で馬鹿にし、崩壊星を放っていた。
「俺は、もう後がないんだ。――四季の神様、お力をお借りします。――蔓――」
崩壊星が飛んで来る中、龍神に蔓が巻き付き春楡の強度を上げた。そして、錫杖をひと振り。
「――彼の者を――噛み殺せ――」
――シャン――
音と主に龍神は崩壊星の隙間を縫ってベンタに飛び掛かっていた。
それと同時に夏生の元に駆け寄る蕗狛。
「夏生、大丈夫?」
「大丈夫!間に合った?」
「間に合ったよ!ありがとう」
簡単には笑えなかったが、お互いぎこちなく笑った。
「錫杖を貸してくれない?」
「いーよ?」
「ありがとう」
蕗狛は礼をいって走り出していた。
「蕗狛、あとは頼むよ、みんな大好きだ」
夏生は、走っていく蕗狛の背中を見ながらそう、小さく呟いた。
「龍神、もう少しだ」
ドゴゴゴゴゴゴオ!
龍神の隙間から、蕗狛が夏生の錫杖を持ち、ベンタ目掛け走りこんでた。
ベンタが蕗狛を見つけた時には一歩遅かった。
――ザァァン!――
錫杖がベンタの心臓をひと突きし、そのまま地面に刺さっていた。同時に龍神は消えていた。
ベンタは何が起こったのか、いまいちわかっていない。そもそも、目の前にいるのが『蕗狛』だという理解が追い付かない。
そこにいたのは、先ほどまで業火に焼かれていた『蕗狛』ではなかった。
背格好こそ変わらないが、髪色は『灰青』色で、目が『瑠璃色』だった。
「龍神は囮?……なんだ…………その髪…………」
龍神は蕗狛を隠していくための囮……。見事見えなく、錫杖が刺さったのだ。
身動きが取れないベンタが、搾り出した質問だった。
「いや、もっと変わるかと思ったけど変わらなかったわー」
あっさりと答え、夏生の方を向く。
「夏生!上手くいった……ょ……」
…………?
そこに居たはずの、夏生の姿はなかった。
錫杖を借りるときには確かに居た、その姿がどこにもない。
「……夏生?」
耳鳴りでもしそうなくらいの静寂があたりを包んでいた。
そこにいたであろう場所では翠玉の砂が灰色の空に舞っていた。
それは寂しく、心残りがあるかのように、みんなに別れを告げるようにゆったりと。
「別れもなしとは……四季の神様も、めんどくさい約束つくりやがって」
柊がボソッと呟いた。
最期が悲しくなると、気持ちがブレる。後ろ髪引かれては困る。と、役目が終われば砂になって消える。そう四季の神が作ったルールだった。
唖然とする蕗狛に季が声をかけた。
「蕗狛、行こう」
「……あぁ」
季に呼ばれ、涙はあとにしよう。と、ベンタのところへと足を向けた。
「蕗狛………………お前……何した……」
ベンタが夏生と戦いを繰り広げている間、蕗狛と季は『皐玖楽』の残した魔力と、『蕗狛一家』が託した魔力を自分の中に取り込み、一体化していた。
蕗狛の魔力だけでは足りない。それを補うため、『皐玖楽』の魔力を残していた。その魔力を残したために、桜は魔力が切れで消滅のだった。
俺にもっと魔力があれば、家族のみんなも魔力を失うことはなかったのに。と、昔大泣きしたことがあったが、「そんなことはない」とよく怒られていた。蕗狛一家が魔力がないのは『加護』を受けたからではない。
――自分たち自ら手放していたのだった。
「魔力の補強さ。魔力を馴染ませるのに、時間がどーしても足りなかった。そしたら夏生の話がでて、今に至るのが簡単な説明かな」
「魔力の補強だと……………………蕗狛、お前僕がつけた、傷はどーし…………た」
「そんなもの治したさ。このとーりピンピンだ」
「治癒魔術………………最高峰の魔術が使える……………………のか」
ベンタの頭は大混乱だった。
治癒魔術は四季の神様しか使えなかった。それも欲しくて欲しくて、何度『魔術を取り出すか、コピーが出来ないか』を悩んで、実際そんな魔術が作れないかとやってみたが、魔術を創るだなんて、そうそう上手くいくものではない。
「さて。ベンタ。四季の神様はどこにいる?」




