鬼ごっこ
「その必要は無いかも知れないねぇ」
そう、ベンタが机に腰を掛けて言った。
「あの、ベンタ様それはどう言う意味ですか?」
思わず、桜が声を震わせながら訊ねる。なのにかよくない感じがする。
「そんなの、言わなくても解るだろ?何年僕と居るんだよ」
そう言ってベンタはゆっくり桜に近づき額へ手を当てた。
「ベンタ……さま……?」
焦る桜を「まぁまぁ」となだめながら指をパキパキと鳴らし、煙管を机に置いた。
「君は十分働いたよ……百年前君がワザと四季の神を怒らせたことによって、アポトー町は『空と太陽』を奪われて、桜もアポトー町に縛り付けることもできた。さらには、百年せっせと町民から魔力の回収。完璧だ」
「ベンタ様のお力になりたくて……」
「うーん。いいねぇ、そうゆうのは嫌いじゃない」
ベンタは終始ニコニコしながら話をしている。
額に当ててる手に、先ほどより微妙に力が入ってくるのが解る。それがまた怖さを増す行動で……。
「では、この手を……」
絶対ベンタ様に殺される。
そう思った。焦りすぎて町長の姿時の口調とかそんなものはどこかいってしまった。
「ん?褒めてはやるよ。ただ……君の持ってるその魔力が欲しい。君はただの入れ物に過ぎない。その魔力、すべて俺にくれよ」
「し、しかしこの魔力は……」
自分が百年コツコツと集めた魔力。それを『よこせ』とは。自分は何もせずに、この城に引きこもってるだけじゃないか。
なんでやらないといけないのか。桜の頭の中は大混乱。
そんなのは誰が見ても解る。その様子を見たベンタは少し「面倒だな」という顔をしていた。
「なぁ……?桜よ」
そうただ『名前』を呼んだだけなのに、名前を呼ばれた瞬間桜は石のように固まってしまった。
目を見開き、手はベンタの手にかかる寸前。
「な、何をした」
二人のやり取りを、黙って聞いていた蕗狛が思わず声を漏らした。
「あぁ。ごめんね、身内の話ばかりで面白くなかったよね。今のは彼の本名を読んだから固まったんだ。そういう契約を精霊創作時に結んでたからね」
「そんな契約……奴隷とたいした変わらないじゃないか……」
「んー主従関係と言ってくれないかなぁ。まあいいや。蕗狛が知りたがってた魔力を取り上げる魔術、見せてあげるよ」
得意げに言い放つ。しかし、疑問が残る。『精霊の最期』だ。核を壊さなけらばまた創れるが、すべてなくなれば、自力での再生はほぼ不可能。
「いや、待てよ。そんなことしたら桜はどうなる!」
魔力がなくなれば精霊は『崩壊』する。核はどうなる。もう、戻らない――のではないか。
それを簡単に言う、やるのがベンタである。
「あー、そんなことは気にしなくていいよぉ?だってもう用済みだからねぇ。いらないの」
そんなことを軽々口にしていいはずない。そんなのが『主様』として君臨していたのか。
ならば、ベンタが全ての元凶であり倒すべき相手。四季の神様が勝手に奪っていったと考えられていた、『空と太陽』はワザと怒らせたと、ベンタが言っていた。であれば……。
蕗狛が考え事をしていると、ベンタがニコニコしながら魔術を発動させ始めた。
「我、魔力を操りし者。彼の者からすべての魔力を奪いたい。――回収――」
桜の体が黒紅の砂になり体が崩れていった。
その崩れた中から手のひら大の紅黒の球体が現れ、宙に浮いていた。
「なんだよ、それ……」
「あーこれは『魔力の塊』と『核』だよ。んでね、これを……」
ベンタは自分の腹部に押し当て体の中に飲み込もうと力を入れた。
その姿を見ていた蕗狛は、その『魔力の塊』を手に入れられたベンタに勝てる見込みはない。そう思い魔術の発動を試みる。
「――火の精霊!――」
が、何故か発動できない。
「な……んで……?」
「のんのんだよー蕗狛くん、詰めが甘いよー。この部屋は魔力の発動は僕以外できないんだよ。知らなかった?」
「発動できない……だって?」
「君が完全にこっちに堕ちる訳ないじゃない。そんなに簡単なわけがなぁいの。君は桜の血を引いてるでしょう?そんな奴が堕ちる訳ないんだ。初めから解ってたよ。桜はどう思っていたか、までは解んないけどねぇ。まぁ少し黙っててくれないかなぁ――束縛――」
ベンタは蕗狛に向けて魔術を発動する。
蕗狛の体を細い糸が縛り上げて椅子に括り付けられていた。その魔術が掛けられた相手は解かれるまで言葉通り行動が束縛される。
「おい!離せ!それを俺にくれるんじゃないのかよ!」
「え?なんで君に?あげるなんて勿体無いことしないよー」
束縛を確認しベンタは腹部に球体を押し当て体に吸収させていた。吸収したベンタの体が紅黒に輝き爆風が部屋中に吹き荒れ、そのまま爆風がベンタの体に戻っていった。それは言いたくないが、なんとも神秘的な光景だった。
「うーん!なんともいい感じ!まー中には微妙なのもあるけど、そのうち馴染むかなぁ。――ふふふふ。これは、早く使ってみたいなぁ。これほどの魔力がどんな力になるか試したい。うん!蕗狛その魔術解いてあげるから、僕と遊ぼう!ね!」
ベンタは腹部を撫でて「いい感じ」と鼻歌交じりでご満悦である。
「いやだわ!」
「いいって!遊ぼうよ!ね!――解除――」
蕗狛に拒否権は存在しない。ベンタは自分が一番でなくてはならない。どんな場面でも、一番に居たい。神の世界でも、この森も結界内でも。そうしてこの城も、『四季』も『桜の木』もすべて手に入れてきたのだ。
弱い奴はねじ伏せればそれでいい。
――パン!
大きな音と共に蕗狛に掛かっていた魔術が解かれ、体が自由に動かせた。
「お!いいね!じゃぁ手慣らしに……逃げろー!鬼ごっこの始まりだよー」
ベンタは右手を大きく挙げて人差し指をひとつ、天井に向けた。
「はぁ?」
「最初は手加減するからさぁ!――落没――」
ベンタが上に向け魔術を発動させると、大きな音と共に天井が崩れて蕗狛の頭の上に落ちてきていた。
蕗狛が紺との戦いで発動させた時のものよりもかなり規模が大きいものだった。そんなことを考えるとここにいつまでも居るわけにはいかない。
「――翔――」
蕗狛は両足を撫で城からの脱出を試みるが、次々に天井が崩れて瓦礫が次々に落ちてきて蕗狛の行く手を邪魔していた。
「クソ!邪魔くせえ!規模おかしいだろうが!」
「蕗狛くーん!どうやって逃げるのー?」
涼しい顔をしてベンタはヒラヒラと瓦礫を避けながら蕗狛にピッタリとくっついていた。
「ねぇ!僕に捕まったらさーその魔力……頂戴ねぇ。君の魔力はおいしそうだから、絶対欲しいんだ」
「魔力においしいもクソもあんのかよ!やるわけないだろ!――隠――」
バフン!
煙に巻かれ蕗狛の姿が消えていた。
ベンタは蕗狛のを見失ってしまった。何分探したか、トイレに台所、お風呂場も探したが見つからない。
「仕方ないなー」と、城の中心まで出ていき魔術を発動させた。
「こりゃ、嫌われたかなー?まー鬼ごっこするには中は狭いもんねー。――爆発――」
――ズズゥゥゥゥゥゥゥン!――。
それは城の真ん中が跡形もなく崩れるほどの大爆発だった。
空からパラパラと瓦礫の破片が降り注いでいた。
「まじかよ。あんなにでかい爆発は初めて見た」
「蕗狛!危なかったよ!」
そう蕗狛の頭で叫ぶのは榎だった。
「や、まじで危なかったよー」
蕗狛はベンタの前から姿を消し、すぐさま西の広間に向かった。
向かってすぐに榎を頭の上に回収しようと手を伸ばすと榎は泣きながら、思いっきり蕗狛の頬を叩いた。
「蕗狛のバカチン!立葵を殺すなんて!」
「痛いわ!」
「だって、蕗狛が立葵を殺すから!」
榎はどんな理由があっても仲間を殺していいわけがないと、ずっと一人で考えていた。
そんな榎を蕗狛はそっと抱き上げてポスンと自分の頭の上に乗せた。
「榎、ごめん……立葵を殺すなんて、俺にはできない」
「え?」
「勝手に殺すな」
地面で横たわっていた立葵が声を掛ける。
「え?」
「やぁさ、団長が魔力を奪う魔術を使ってるとずっと思ってて。あっち側についたふりをしたらどうかって、翠が」
「は?……翠は死んだろう?」
そんなことは立葵すら聞かされていない事で榎と同じ顔をしていた。
「翠は生きてるよ、たぶん。まあ時間は掛かると思うけど」
「生きてるのか?」
「確信はないから、まだ喜ばないでね。でも今はそうゆっくりもしてらんない。走りながら説明するよ!俺今ベンタと鬼ごっこしてるからとりあえず、立葵と翠はこの中ね」
蕗狛は大急ぎで翠と立葵をガラス玉に入れて、ベンタとの鬼ごっこに参加することにした。




