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譲渡

「魔力をくれないか」そう目の前の男は言った。

 しかし、そんな方法知りえない。いや、魔術書が何冊あるかも知らない、さらに言えば裏魔術書が存在するのかなんてどこにも記されていなかった。

 なのに、存在している……なら『譲渡』も存在するのかもしれない。

 ただ、自分が『譲渡』方法を知らないだけで。


「俺は譲渡の魔術を知らない。だからお前にやるなんてできない。悪いな」

「なんじゃ、そんなこと言わんで、くれたっていいじゃろ」

「いや……そうだな…………なら『奪う』方法を教えてくれないか?俺ももっと、力が欲しい」

 

 蕗狛は団長に提案した。絶対団長は『誰かから魔力を奪っている』その考えが頭から離れない。

 

「欲しいとな?」

「あぁ……だって立葵は弱いし、翠は死んだし。柊と榎はどこにいるかもう、わからない。もう味方はいないんだ。なら、弱いけど立葵の魔力を奪ってそっちについてもおかしくはないだろ?」

「うむ……」

 

 すぐに信じてもらえるなんて思っていない。なんせ団長の式神を解いているんだ。

 もっと言えば、『桜』のひ孫。嫌だろうなぁ。ただもう仲間がいないのは事実。

 そっちに付くのなら、それなりの手柄が必要かも知れない。

 

「なら、立葵を殺してこようか?邪魔、なんだろ?」

 

 冷たい蕗狛の目が団長をみる。背筋が凍るような目つき。今まででも見たことあるその目つきは、百年前の(サクラ)の目と同じもの。毛嫌いする相手を見る目。

 

「ほう。そこまで出来るのなら考えてやらんでもないが……できんだろ?立葵を殺すなんて」

「……。」

 

 蕗狛は、コキっと首を鳴らした。

 

「――(ショウ)――」

 

 魔術を唱えてサラッと両足を撫で、タン!と地面を蹴り上げた。

 その瞬間、立葵のいる広間まで軽々飛んでいった。

 立葵の最期を目に焼き付けて置かないと気が気じゃない。そのあとを団長も追いかけていた。

 

 「蕗狛?…………と団長?」

 

 驚いた立葵は目を丸くして驚いていた。

 蕗狛がここを離れた後自分の傷の手当てをし、翠の隣に座り顔を眺めていたところだった。

 口は悪いし、性格もめちゃくちゃな男だったが、一番の理解者だった。そんな思い出に浸っているときに、ここにないはずの軽く息を整えた蕗狛の姿があった。そう何故か、蕗狛が団長と一緒に現れたのだ。


 

 蕗狛はそんな立葵はを見て優しく微笑んだ。

 

「ごめんねぇ」

 

 そう笑って立葵の頭に人差し指を当てた。

 

「――雹弾(ヒョウダン)――」

 

 ――ダンダンダン!――

 

 立葵の頭を貫通した雹は赤く染まり、広間の遠くに消えていた。

 翠の死体の隣に横たわる立葵をみて、団長の口角が上がった。

 

「これで、君たちの仲間にさせてくれる?」

「ふわっはっはっはっはっはっはっよいぞ!よい!実によい!――――こっちに()い」

 

 ザワっと風が吹いて揺れる中で蕗狛は団長と城の方へと消えた。


 城、中央の重い扉を開け、右の廊下を行くと団長の部屋がある。

 壁一面に桜の写真が飾ってある。少し怖いくらいだった。ただ嫌なくらい窓は大きくその窓から外の陽の光は十分に入ってくる。

 部屋には机と椅子が二脚。本棚にはびっしりの魔術書と、どこから集めたか解らない本まで並んでいる。

 顔に似つかない可愛い茶箪笥があり、そこから急須と湯呑を出し、薪ストーブに茶鍋を置き湯を沸かす。

 

「そこに掛けるとよぃ」

 

 団長の言う通りに腰を下ろす。部屋を見回すが、桜に囲まれてくれているからか、やはり落ち着かない。桜は春に見るからいいものなのかも知れないと思った。

 そんな中でいう事はひとつしかない。

 

「ずいぶん桜が好きなんだな」

「あぁ。ワシは桜の()()だからのぉ」

「桜の……?」

「ワシの主様は『桜』が大好きでのぉ。だからワシを創ったのじゃ」

「(なるほど。創ったのはベンタか)だから……(オウ)なのか……」

 

 なんで(オウ)なんて名前なのかずっと不思議だった。ひとつのものから精霊は一体まで。しかし、

 創った人が違えば、話は別だ。

 そして、精霊だったのなら色々合点がいくことになる。

 団長、町長、百年前の写真の男も(オウ)。そして、なんで百年もさほど顔が変わらずにいたのか、その人が『精霊』だから。

 湧いたお湯に気づいた団長は手慣れたように茶を入れる。団長は難しい顔をした蕗狛に桜のお茶を出した。

 ここは桜だらけで、最初そこ落ち付かなかったが、居心地がいいのを感じた。それは彼がおーばちゃんと同じ桜の精霊だからなのか、理由ははっきりしない。

 解る事と言えば、『桜のお茶は美味い』という事だけ。

 

「なぁ、魔術の譲渡の方法教えてくんないの?」

「ん?あぁそうじゃな。しかし誰から貰おうかのぅ。立葵は死んでしまったしのぉ」

「死んだ奴からは貰えねーのか?」

「あぁ。死んだら主様に魔力が戻るんじゃ」

「……?」

「知らないじゃろーのぉ」

「や、死んだ人から取れないのは解った。ひとつ疑問なんだけど生きた人からは魔力を取れるのか?」

 

 カタンと湯呑が机に当たり音が鳴る。それは、本人すら気づかない程の少しの動揺。

 

「仲間になるんだ、教えてくれてもいいだろ?」

 

 蕗狛は確信が欲しかった。目の前の男が『悪人』である確信が。

 


「話してあげなさい。ここまで懐に入られて、何も教えないのはおかしいだろう?」

 

 桜の香りに混ざり、むせ返るほどの副流煙。煙管から立ち上がる灰色の煙。そこにはベンタがいた。

 

「――っ!」

「ベンタ様!こんなところまで、わざわざありがとうございます」

「うん。蕗狛の魔力をこの城の中で感じたからねぇ……おやおや、蕗狛。そんなに焦らなくとも、取って食おうとは言わん」

 

 蕗狛は身構えいた。しかし、仲間になると言った手前、攻撃態勢には入れない。

 ここで魔術を発動するのはまずいが、いつの間に後ろにいたのか。全く気付かなかった。

 

「力を抜けよ蕗狛。お前の知りたいことだろう?なぜ(オウ)の魔力が多く今も満ち溢れているのかを。(オウ)教えてあげなさい。()()になるんだろう?さっきまで仲間だった立葵を殺してここにいるんだ、もったいぶるな」


 そうベンタに言われた(オウ)はお茶を入れなおし、椅子に腰かけた。

 

「わかりました。蕗狛、魔力の譲渡は基本精霊のみが使える魔術じゃ。ただのぅ、裏魔術書が存在しておるのじゃ。『黒魔術』なんてものがこの結界内には存在してもおかしくないと思わんか?……それはベンタ様が編み出したものじゃ。だから『四季の神』が知らない魔術のじゃよ」

「四季の神様すら……知りえない……だと」


 ベンタは得意げに笑っていた。自分は四季の神よりも優れていると、鼻高々である。

 

「その黒魔術の中に魔力を『奪い取る』魔術もあってのぅ。ワシは百年間アポトー町の町民から魔力を取ってたんじゃよ。だから魔力はたくさんあるのじゃ!どうじゃ!すごいじゃろ!」


 ……いま、町民から百年取っていた。と、言ったか。声高らかに、何も悪いことはしていないと、そう言いたげな態度で。

 

「どのタイミングで……取ってたんだよ」

「あぁ。三歳の誕生日に町長の『加護』を受ける。そんな町の風習聞いたことないかのぅ」


『蕗狛くんはもう三歳だよね?町長の加護受けた?』

『なぁに?それ』

『町長が手の甲にキスしてくれるの。そうしたら災いから救ってくれるんだってぇ』

『ねぇ、おーばちゃん。この前じーちゃんの学校に行ったとき言われたんだけど、ちょーちょうから加護を受けたかって……』

『そんなのおーばちゃんがしてあげるよ。ほら、蕗狛。おでこをお出し。町長のより効く加護だよ』


 おーばちゃんはそう言っておでこに優しいキスをした。


「聞いたことはあるけど……」

「その時に奪って……いや、貰ってたんだ。三歳は魔力が芽吹き『良い食べ頃』なんじゃよ。歳を重ねるごとにまずくなるが、ないよりはいいだろうのぅ。アポトー町の奴らは馬鹿ばっかりで、扱い易かったわい。百年前は魔術が溢れていたのに、今や魔術を使えるのは片手ほどしかおらん。なのに何もしないで、ただ指を咥えているけじゃ!」


 自分のこれまでの成果を自慢する子供と大して変わらない。ベンタも「うんうん」と頷き満足な顔していた。

 

「アポトー町の人たちは気づいてないのか、困ったもんだなぁー。でも気づかないお陰で、魔力がたくさんあるってことなんだねっ!」

「そーじゃそーじゃ!蕗狛も奪えるやつがいたら、その魔術教えてやるわぃ」


 (オウ)は自分の大好きな町を馬鹿にしていて、魔力の為の町民としか思っていなかった。

 蕗狛の中で、彼に対する善悪は言うまでもなく『悪』であった。


「その必要は無いかも知れないねぇ」


 

 

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