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一蕗芭

 喉から手が出るほどに今、必要としていたものが仲間の死と引き換えに、目の前にある。

 なんとも、神様はひどいことをするのか。なんて思う暇はないのかもしれない。その刀に手を伸ばすには、悲しみも握りこまないとならない。


「その刀が魔剣なのか?」

「あぁ。一蕗芭さんがそう言ってたんだ」

「そんなもの持ってるなんて聞いたことはなかったな。どこで母さんに会ったんだ?」

「俺が禁忌を犯す前の話だよ」


 

 蕗狛の一家は翠によって立葵との秘密基地に移されていた。翠は一家にことが片付くまでその秘密基地で過ごしているようにと、声を掛け陽葵のところへ飛んでいた。

 食べ物の備蓄に、寝具一式など数週間生活に困ることはなさそうだ。

 部屋にも慣れ一家は緩やかな時間を過ごしていた。それから暫くして傷だらけの立葵が息をしていない(アサヒ)蒼季(あおり)を抱え秘密基地の戸を叩いた。

 

「なんだよ、うっせなぁ」

 

 カタコが面倒くさそうに突然の訪問者を出迎える。そこには至る所から血を流し、息も切れ切れの立葵とその部下が戸にもたれかかっていた。カタコは鈴や蘭と三人を中に引き入れた。

 

「おい!立葵大丈夫か?」

 

 立葵の頬を叩き起こすも反応はない。出血量が半端なくどこからの出血かも確認ができない。

 

「ツツジ、お湯!ガーゼないか!早く止血しないと!」


 一家は懸命に立葵の手当てをした。

 その訪問から何時間経ったか、できうる限りのことはした。

 辺りはすっかり更けこんで、休めるときに休もうとみんなが交代で立葵の看病にあたっていた。

 

「一蕗芭、交代だ」

「カタコさん……立葵君は大丈夫でしょうか」

「何とも言えないな。この傷だ。あっちの二人はたぶん駄目だろう」

 

 指さしたのは旭と蒼季だった。中に引き込んでみたものの息をしていないし、傷も深くどんな手を使っても助かることはなさそうである。

 どんな手と言ってもここは翠が連れてきたため町のどのあたりかも解らない。

 

「出来ることをしよう」

 

 鈴が二人を気に掛けるように布団を掛ける。


 

 それから何度か日が昇った、ある朝のこと。

 

「…………。生きてる……」

 

 見覚えのある天井に部屋の空気は懐かしさでさえ感じる。

 

「立葵……目ぇ覚めたのか……。よかった……本当に……」

 

 カタコが嬉しそうにそう呟いて、みんなを呼びに慌てて部屋を出て行った。

 

「ここは……」

 

 何度見まわしても自分の秘密基地。ただ、どうやってここまで来たのかはわからない。

 

「……旭?蒼季は……どこだ……」

 

 体を起こしたいがいう事を利かない。

 

「立葵、大丈夫か!」

 部屋にカタコや一蕗芭、鈴に蘭まで駆け付けた。しかしその中に二人の姿はない。

 

「旭と蒼季はどうした……か……解る?」

 

 誰もが答えようとはしない。その表情はいいものでないのが簡単にくみ取ることのできるものだった。

 その姿を見て起こすのも無理な体をどうにか起こそうともがく。いう事の利かない足、手にいら立ちが募る。なんで自分だけ生きているのか。翠はどこに行ったのか、陽葵は……。流れる涙を拭くこともままならない。

 その姿を見ていた一蕗芭が立葵の体を支えながらベッドから起こそうとする。そこに鈴が加わりカタコ、蘭が手を貸し立葵を二人のいる部屋まで連れて行った。

 

「二人は君が連れてきた時から息をしてない」

 

 立葵は二人の横たわるベッドにしがみつきただただ泣き果てていた。四人はその姿を見守るしかできなかった。

 

「立葵、大丈夫か?」

「あの……少し……離れてて……ください」

 

 そう立葵がお願いをすると、魔術を唱え始める。

 

「――主様、お力…………お借りします。――開封(カイフウ)――」

 

 サラっと旭と蒼季の頭を撫でると、二人の体は光に包まれてグルんとガラス玉に変わった。そのガラス玉を愛しいそうに抱える。

 

「ごめんね。こんなに傷つけて…………いままで……ありがとう……」

 

 そう立葵が呟きガラス玉に口づけをすると、瑠璃色の風になり立葵の体に吸い込まれていった。

 何が起きたのか不思議な光景だった。今まであった二人の姿はガラス玉になり立葵の中に消えたのだから。

 立葵はそのままその場に倒れこんでいた。


 

「……あれ……?」

「あのなぁ、あれ?じゃないの。また倒れるならそう言ってくんない?」

 

 カタコは少しの嫌味を加えているが心配したのは十分伝わってくる。

 ここは自分が横になっていたベッドだった。おそらくみんなで運んでくれたのだろう。

 

「すいません」

「さっきより顔色いいな。なぁ、さっきのは何だったんだ?」

「ガラス玉のことですか?」

「そうだよ。離れてろって言ったあと、やることやってぶっ倒れたんだ。聞くこともできねぇーだろ」

 

 立葵は天井を眺めながら「確かになぁ」と納得してしまった。

 

「旭と蒼季は……桜さんがくれた式神なんです。もし、何かあった時はその式神を解除しなさいって。そうすればあとはその式神たちが解ってるからって。みて体が動く。傷はまだ痛むけど、魔力も補ってくれてる」

 

 立葵は体を起こして見せた。顔色がいいのもその所為のようだ。

 

「二人を失うのは怖かった。翠と陽葵が居ない今、少しでも力になってほしかったし、そのための二人だったんだから」

「桜はこーなることが解ってたのかも知れないな」

「そうかも……用意はすごくしている人だったから」

「その話のついでにいいかしら」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは一蕗芭だった。

 

「立ち聞きとはね」

「もうっ。いることに気づいてたじゃない」

 

 文句を言いながらカタコの隣に腰かけた。

 

「一蕗芭さん、ご迷惑を……」

「立葵、その続きは言わないで。もともと迷惑をかけているのは私たちの方だわ。桜ばーちゃんの我儘に付き合ってこんなに怪我まで……」

「我儘って」

「立葵、時間があまりないわ。手短に話すわね。『裏魔術書』は知っているわね。その中に『神様の封印(ころす)方法』が載ってるわね」

 

 裏魔術書は禁忌が載っていると楓と蓮から預かった時に粗方読んでいた為『神様の封印(ころす)方法』が載っていることは確認していたが一蕗芭が知っているとは思わなかった。

 

「はい。知っています」

「最後まで読んだかはおいておくわね。その方法には『魔剣』が必要なの」

 

 一蕗芭がペンダントを差し出す。そこには小さい刀が一蕗芭の手の中で輝いていた。

 

「これがその魔剣でね。これ蕗狛に渡してくれない?」

「え……?」

「だってこれから、蕗狛のところ行くわよね」

 

 行くには行くが、そんな話は一言もしていないのに……。

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

 そう立葵が聞くが一蕗芭はにこやかな顔をしているだけで、質問に答える気はないようだ。

 カタコも肩をすくめ「教えてくれないと思うよ」と、身振りする。

 

「……わかりました。お預かりします」

「あ、使い方は蕗狛か季が解るはずだから」

 

 時間がないとは言え自分軸で話すタイプのようで、一蕗芭は「お願いね。あの子によろしくね」と、頭を下げた。


 

 そう言われ持ってきたのが今、蕗狛達の目の前にある『魔剣』である。

 使い方は解るはず……?いや、解らんのだけど母?と何とも不思議な感覚を覚えた蕗狛だった。

 

「で、使い方解る?季」

「いや、そこまでは解ってないのが現実です」

 

 季もお手上げといったところだが、「なんとかなる」と言う声が聞こえた。

 

「翠……」

「起きてたのか」

 

 いつから話を聞いていたのか、小さく頷いた翠は立葵のところへ歩みをすすめ、立葵の頭をポンポンと撫でた。

 

「何も知らないで怒ってごめん。旭たちのことも陽葵のことも、頼りない相棒でごめん。団長のことももっと早く調べられていたら、こんなことになんなかったのに……」

「何言ってる。翠が居てくれたからここに来れたんだ。こっちこそごめんな」

 

 立葵は翠の袖を引っ張り不格好に笑って見せた。

 それは血のつながりがあってもなくても、二人の今までの関係性があったからこそできる表情だった。


 そんな二人を優しく見守るが一人そわそわしていた。

 

「あの~言いにくいんだけど……いい?団長のことはおーばちゃんが亡くならないと見つけられないようになってたんだ。記憶の封印がなされてたから、封印した奴の所為で遅いも早いもなかったから……翠の所為じゃないよ」

「はぁ?」

「あ、ね。怒らないで、用意して出発しない?ほら、魔剣も揃ったし、俺の魔力もバッチリだよ。立葵の傷も治ってるしさぁ」


 立葵と翠にいっぺんに睨まれてはさすがの蕗狛も目が泳いでしまう。ただ、確かに一理ある。

 怪我人もいなく、欲しかったものも手に入り、あとは敵地に向かうだけとなれば、やることは一つのようだ。


「ほんじゃあまあ、行こうかね」

 

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