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さくら

 春の崩壊が進みもう、ただの平原か荒地かそんな中蕗狛の創ったガラスの隠れ家だけが綺麗な形のまま佇んでいる。

 その隠れ家の前で瑠璃色の糸を八割受け入れた蕗狛がただただ、立っている。

 受け入れた魔術を体に慣らすためなのか先ほどから微動だにしない。外見が変わったようにはこちらからは見えない。心配になった榎がフワッと近づいた。


「蕗狛〜大丈夫?」


 蕗狛の足元には糸から紙切れに戻ったのか数枚落ちている。それは蕗狛を弾いた魔術たち。


「あぁ、榎か!大丈夫だよー。いやね、なんで弾かれたのかなーと思って、もう一回読み解こうか悩んでたところなんだけ……ど」


 近づくと額には冷や汗をかき、焦点を懸命に榎に合わせる蕗狛の姿。かなり無理をしているということは誰にだって解る。

 冷や汗をかく手には数枚の魔術書が握られていた。


「弾かれたものはいいんじゃない?全部なんて無理だよ。まだ裏魔術書もるんだよね?ってかさ、裏なんていらなくない?蕗狛……無理はダメだ……よ」


 そう、まだ裏魔術書も習得しなくてはならない。今無理をするのはあまり賢明とは言えない。しかし、止めるにも先の話が頭をよぎる『自己犠牲はなんとも思わない』そう放った蕗狛が、無理をしないという選択肢は持ち得ないということ。


「大丈夫。俺が限界に近いのはみんなに内緒ね」


 蕗狛は笑って弾かれた魔術書をかき集め裏魔術書のページを捲り適当に挟み込んでいった。榎は黙って見つめる他なかった。


「榎、みんな優しいから大好きだよ。でもこれは俺がやらなきゃないことだから……ね」


 そう言うと蕗狛は大きく息を吸い、また魔術書の糸を外し綺麗に整え背表紙を優しくひとなでする。


「――(ワレ)貴書(キショ)全ての魔術を習得したく願いでる者なり――開封(カイフウ)――」


 バサっとまとめて持っていた魔術書だっだ紙たちを空に放り散らかした。

 

「――主、皐玖楽(サクラ)との約束の護りし者なり――」


 ――ゴォォォォォォ!――。


 大きな音がし、魔術書がバラバラに散らばったその先で瑠璃色の糸になるがそのまま一カ所に集まり大きな龍の姿へと形を変えていった。


「くっそでっけぇなぁ。さぁ、いこうかおーばあちゃん!――皐玖楽(サクラ)、お力お借りします!――習得(ナラヒー・ウ)!――」


 ギョロっとデカい龍の目が蕗狛を睨み、大きな口を開け蕗狛一直線に襲いかかっていった。



 ――――――。


「蕗狛っ!蕗狛ぁ!」


 蕗狛を大きな龍が襲いかかり、あたりは土煙に覆われていた。龍が、出現した時に何メートルか飛ばされていた榎がヨロヨロと蕗狛を探していた。

 隠れ家の中にいた翠や季も慌てて出てきて蕗狛を探していた。


「どこ行った!蕗狛ー!」

「ろーはーぁ!」


 ガラガラと岩が崩れ落ちる音がした。

 目をやるとあちこち傷だらけの蕗狛が手を振っている。


「こっここでーす」


 びっくりするほど小さい声で呼んでいるのは間違いなく蕗狛だった。

 三人は急いで蕗狛へと駆け寄り、岩をどかしながら「びっくりした!」「何やってんだ」などと小言を投げつける。それに「やー飛んだよね」などと呑気に答える蕗狛は何ともなさそうに見える。


「大丈夫か?」

 

 翠が一番に声を上げ、蕗狛の顔を覗き込む。

 

「やーびっくりするほど飛んでさぁ。あちこち傷だらけだわぁ」


 笑っているのは本人だけで、榎は蕗狛の頭の上に座り込みポカポカと頭を叩いている。季でさえ、呆れたように「心配したろ」と態度とは裏腹な表情で蕗狛の手を引き起こしていた。

 榎が蕗狛の耳とで小さく質問をした。

 

「ねぇ、蕗狛……あの時……」


 しーぃ。と、蕗狛は榎の口元を指で塞いだ。それは「内緒ね」と言っているようだった。榎は「わかったよ」とそのまま黙って蕗狛の頭の上へと戻っていった。

 三人は蕗狛を抱えて隠れ家へと戻り蕗狛を椅子に座らせて、残っていた柊や陽葵に説明を済ませ一息つく。

 息つく横で蕗狛はひとり魔術を唱えていた。

 

「――(タマシヒ)に願いますは、今一度(われ)()ゆ事をお(ゆる)しください。――羽衣草(アキレア)――」


 蕗狛のあちこち見られたら傷は消えていた。

「傷口も綺麗に治るんだね」

 

 見ていた榎が傷口を覗く。

 

「そうだね。あ、でも大きい傷は薄っすら残るんだよね。ほらこことか」

 

 蕗狛の治癒魔術は傷を塞ぎ体内も治すことはできるが、皮膚の表面は薄っすら傷ついた箇所がわかるようになのか跡が残る。蕗狛が指差したところはよくみると傷跡が残っている。それはそこまで傷付いてまで稽古に励んでいたという証拠だろう。


「で、どうだったの?魔術の習得はうまくいった?」

 

 もちろん、季の気になるのはそこである。

 

「あぁ。うまくいったよ。あの魔術書、おーばあちゃんが持ってたものだよね?」

「そうだよ?どうしたの?」

「あれ、裏魔術書と対になってたみたいで、先に習得した時何枚かに弾かれた術があったんだけど、それを裏魔術書に挟むことで裏の裏の魔術書ができる仕組みだったんだ」

「は?裏の裏?なにそれ」


 裏魔術書はその名の通り魔術書の裏。禁忌が書いてあることが多く、人の入れ替えに肉体を液体や砂に変えて小瓶に封じることや球体内に小さな世界を創ることができる魔術も載っていたりする。扱える魔術師はそう多くないと伝えられている。

 その裏魔術書の裏。存在は明らかになっておらず誰も聞いたことがない話のようだが、蕗狛が言うには裏魔術書と一緒に季が持っていたおーばあちゃんから預かったものに書いてあったそうで。


「こっちの魔術書を読んだ時に書いてあったんだ。あとがきとしてね」

「あとがきなら俺も読んだけど書いてた?」

「あれはね、俺にしか読めないやつ」

 

 蕗狛はふふとニヤけながらそう言って手元に残った魔術書の『あとがき』をみせた。

 

「これ、おーばあちゃんから俺への手紙になってたんだ。季はこれ逆さまにしては読んでないだろ?」

 

 蕗狛はあとがきを逆さまにして季に見せるが、字が逆さまになっただけで読めたりはしない。もちろん、他の人にもただ字を逆さまにしただけ。

 

「逆さまにしては、裏返す」

 

 蕗狛は言葉通り裏返し、

「――灯火(トモシビ)――」

 と、唱えると光が透けて別の文字が浮かび上がる。そこには蕗狛への手紙が書かれている。

 

「最後の文に『このあとがきを裏魔術書に挟み習得しなさい』ってあるだろ?」


 蕗狛は魔術書をバラバラにし空へ放り投げて魔術を習得する。これは桜から教わった方法で高度魔術を使うものにしか扱えない習得方法。それを今回教えた桜が利用し、蕗狛しかわからない方法で裏魔術書の裏の作り方を教えたのだった。

 

「ちなみに、最初のおしながきってゆーふざけたページ項目の方も同じ仕掛けがしてあって、そっちにはなんで『裏魔術書の裏を創ったのか』が書いてあったよ」

「え、理由とかあったのか?」

「うん。裏魔術書が完璧すぎるから対抗したくなったんだって」

「……対抗って」

「桜さんらしいっちゃらしいけど……」

 

 桜がどんな人間性かがうかがえる一言である。蕗狛は翠の一言を聞いてひとり笑っていた。

 

「それで蕗狛が吹っ飛ばされるとは考えなかったんだろーね」

「まぁ、おーばあちゃんの魔術でぶん殴られた気分だよね」

「で、あの瑠璃色の龍も習得か?」

「俺の体の中だね。さっき気を失ってた時に軽く話したんだけどね、おーばあちゃんとの約束だからお前の言うこと聞いてやるってさ」


 蕗狛は岩場に飛ばされた時、気を失っていた。その時襲いかかってきた龍と意識の中で話をした。何ともない会話ならよかったのだが、少々揉めたらしい。

 

『お前が皐玖楽(サクラ)の血引くとか嘘だら』

『嘘なわけあるか!』

『証拠がないだら』

『そんなん、どーやって照明すんだよ!血液型か?そんなもん違うに決まってるだろ?』

『なんじゃと!どうするんだら』


「ってさ、全然気づいてねーんだもんさぁ暫く同じやり取りしてたよね」

「なんか気づくような証拠あったのか?」

「あーっと。……皐玖楽(サクラ)の魔力を使った……かな。上質な魔力で……す」

 

 そこにいた精霊の二人は固まっていた。その名を聞くとは思わなかったし、微かではないかなりの量の魔力を感じたからだ。それは古くに感じた魔力で実に百年と少し前のことだと記憶する。

 魔力には上質なものがある。そうそう手には入らない、神か上層部の精霊かってところだろう。もし、神でも精霊だもない人物が上質な魔力を使っていたとしたらそれは『魔力、魔術に愛された人』だろう。

 上質になればなるほど洗礼された力が使えるし、その魔力で習得のため魔術書から呼び出されれば呼び出された側もレベルの高い状態で現れることができるわけで。


「待て、皐玖楽(サクラ)の魔力を使ったのか?」

「そ。皐玖楽(サクラ)のほうのね」

「桜さんとなにか違うのか?」

皐玖楽(サクラ)は神の座る場所、神の支えとなる人のことを指すんだ。おーばちゃんはその役目も担っていた。裏の名前だね。隠すためにわざと同じ読みの名前を付けてたんだって言ってたよ。まぁ皐玖楽(サクラ)の名には魔力が籠っているから、魔術を使う人間にはわかるとはずさ。でしょ?皆には感じ取ることができたはずだよ」

 

 そう、精霊の二人が驚いて固まっていた時、もちろん翠にも感じることのできる魔力だった。いままで触れたことのない温かみの深いその魔力はどこか懐かしく切なくなる魔力だった。その触れたら壊れてしまいそうな魔力は届く人には届くようだった。

 翠が陽葵にも皐玖楽(サクラ)の魔力について聞こうと顔を見ると、何も言わず目を瞑り涙を流す。

 そんな姿がどこか儚げに見えた。


「陽葵……?」

 

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