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隠し事

 昔から喧嘩っ早く、よく怒られた。皆と仲良くしなさい、とは言わないけど相手の話をよく聞き、取り乱さずしっかりと自分の意見を伝えなさい。と。まして、魔術師同士が喧嘩すればどうしても力任せになる。それでは解決どころか、周りにも被害が及ぶのを考えなさいと。

 ただ、相手がわからずやであれば、だんだん腹の立つ話でそんな教え、どこかに吹き飛んでしまう。

 自分の直さなくてはならないところだとは思う。


 蕗狛のペンダントが大きく光って辺りを白い光が包んだ。

 

「なっ、なんだ!眩しい!」

「蕗狛、そのペンダントなに?」

 

 榎や翠が目を隠しながら聞くも、蕗狛はにっこり笑って術を唱えた。

 

「――解・放(カイ・ホウ)!――」

 

 光は一瞬強くなり、パッと消えた。眩んだ目を擦りながらゆっくり目を開けると、そこには見慣れない男が一人。

 

「誰だ……?」

 

 そこにいた全員が見た事のない男だったが、蕗狛は一人違う表情を見せていた。

 

「出られた?やーよかったぁ!ねぇー中、狭くなかった?」

「大丈夫!どちらかといえば快適に近かったかなぁー!」

「やーよかったぁー!」

 

 二人は楽しそうに『中』の話をしている。

 その二人に榎が近づき話に割って入った。

 

「あのー、蕗狛?」

「あぁ、目は慣れた?――説明。でしょ?」

 

 先ほどまで怒っていたとは思えないほど穏やかな表情を見せている蕗狛に、驚くが穏やかならいいかと、榎もヘラっと笑ってしまう。

 

「彼は、『(トキ)』だよ」

 

 李はぺこりと、頭を下げ軽く挨拶した。

 

「え?李って……秋で町の魔術団に連れてかれたって、言ってなかった?」

 

 榎は驚いた顔をしながら秋での楸とのやりとりを思い出していた。

 

「あー、うん。言ったね」

「なんでいる?団長に殺されただろ!」

 

 翠が驚いてしまう。無理もない団長に殺され、立葵(タキ)の目の前で砂になって消えたと、そう聞いていたその李が目の前に現れたのだから驚くのも当たり前だ。

 

「そうだな、なんでここにいるの?だって、団長に殺されたとも言ってたじゃない。蕗狛あんなに苦しそうにしてたのに……」


 榎も不思議なことをそのままにはしておけなかった。榎が楸と一緒に土の中に逃げ込んだ時傷が痛むのかと思えば『李が殺された』と苦しんでいたのは、記憶に新しい。

 

「んー、そうだね。その説明からするよ。李は死んでなかったんだ。ごめん、だます形になって。団長が殺したと思ってるのは俺が創った李の人形でね。町の魔術団の内情も知りたかったから、偽物を結界内から出したんだ。案の定偽の李を殺しに来たわけだ。苦しかったのは……自分の魔力を練り込んでいた人形を壊されたからだよ。魔力を練り込むってことは精神が繋がってたからだね、あれはマジで苦しかったよ」

 

「なんでそんな回りくどい事を……」

「なんでって、内情を知りたかったのと、時間が欲しかったからさ」

「時間だと?」

 

 柊が少しイラついた声で話に入る。

 

「そう、新月王ベンタを倒す方法を探す時間と、裏魔術書を読む時間がね」

「――倒す。お前が?」

「そうだよ柊、俺はそのために結界に入ったんだ」

「あんな深傷負ったお前が倒せるかよ!」

「なんだよ、もともとそー言ってたじゃないか。何を今更怒るんだよ」

「その目的の為に李が死んだとか、噓まで吐いて自分の体傷つけてやることかよ!」

 

 柊が息を切らしてそう怒ると誰も口を開かなかった。


 

 外はもう崩壊が止まらない。木々は花びらだけでなく葉も散り綺麗な空も黒く淀んでいた。

 もう春だったのか何だったのか解らない。また桜の花びらが一枚、一枚と寂しく散っていく姿が小さな窓から見えた。

 蕗狛がポツポツと話し始めるのはそんな時。誰に聞いてほしい訳でもなく、ただ自分のことを考え直すために。

 

「俺はさぁ、俺が嫌いでね。治癒魔術が使えたって……自分しか治せないんだよね」

「自分しか……?」


 誰もが耳を疑った。火の精霊(サラマンダー)風の精霊(シルフ)などの高度魔術を使えるのに治癒魔術は自分の傷しか治すことができない。そんなことがあるのかと……。

 

「あーそうだ、笑えるだろ?だから柊の腕の怪我も治してあげらんないの。小さい頃、遊んでて李が怪我をした時もそう。おーばあちゃんが稽古中もう死んじゃうかもしれないってくらいの深傷を負った時も、治癒魔術が使えるのにただ手当することしかできなかった。ちっとも役立たずな力だよ。まったくさぁ……だから、誰にも傷ついてほしくない」

「蕗狛……」

「……楸も椿も守ってあげられなかった……でもベンタを倒して四季を取り戻したら、二人がまた精霊に戻れる方法を探すつもりだ」

「だから自分は傷ついてもいいってか」

「そうだね。俺は俺が傷つく分にはなんとも思わない。みんなに嘘を吐いたのは悪いと思うけど」


 蕗狛が何より隠したかったのは『自分にしか治癒魔術が使えない』このことは何より、他人でも守りたくなる蕗狛にとっては屈辱でしかなかった。自分だけでも治せるならいいと、最期まで笑っていたおーばちゃんの言葉の真意がわからないままだった。

 

「お前の自己犠牲のおかげで生かされるなんて俺はごめんだ。もう少し周りを頼ればいいんだ。楸はお前を生かすために魔力を渡したんだろう?」

「私も、自分しか治せないことを後ろめたく思う必要ないと思うけどなぁー?」


 柊と陽葵がそこまで気にすることはないと伝えようにも、本人の顔は晴れなかった。黙って聞いていた李がゆっくりと口をはさんだ。

 

「蕗狛に何を言ってもそのことについては考えは変わらないと思うよ。俺も何回も話はしてんだ。本人が自分を許すことができなきゃ駄目だろ」

「李……」

「今のままでいいとは思わない。お前は自己犠牲が過ぎるからな。ただ……自分を許すなんてそうそうできるものではない、だから今はそのままでいい。それだけだ。それよりも蕗狛、ベンタを倒しに行くぞ」


 『ベンタを倒しに行く』と、蕗狛以外の口から聞くことになるとは思っていなかった。ましてそれが李とは……。

 思わず蕗狛の方が驚いてしまった。

 

「え……」

「お前が言い出した話だ。もう春まで来たんだろ?ならすぐそこだ、倒すためにやんなくちゃなんないことが幾つかある」

「全部読めたんだなっ」

「俺を誰だと思ってるの蕗狛くん!李君だよー」


 二人はケタケタと笑いながら椅子と机を用意した。そこに蕗狛は目を輝かせながら話を聞こうと椅子に腰かけた。そこに翠が話に割って入った。

 

「ちょっと待て、蕗狛の我儘の話はいいとして、李は何者なんだよ」

「我儘って……まぁいいか。李は俺のしん……相棒かな?」

 

 蕗狛は治癒魔術の話をしていた時よりもうんといい顔で笑ってそう言った。

 

「俺は蕗狛はの創った人形を身代わりに蕗狛のペンダントについてるガラス玉の中に一時避難していたんだ」

 

 蕗狛の首元でガラス玉がキラリと輝いていた。

 

「その中で何してたんだよ」

「あぁ、この魔術書の解読と裏魔術書を読んでたんだ。まぁどっちも読んだところで俺は魔術の習得はできないから、こっから頑張るのは蕗狛だけど」

「その魔術書と同じものを団……長が持っていたと思うんだけど……」

「あー持ってると思うよ。まああれは桜さんが書いてた適当日記の写しで中はもっと適当で、あんなの読んでも何の足しにもなんないよ」

「適当をさらに適当とは……時間かけて偽物用意してたもんなー」

 

 蕗狛が創っていて人形が持たされていたのが適当日記とは、団長も思わなかっただろう。いつに何を食べたとか蕗狛以外の孫、ひ孫のことまで記されていた。

 へへっと照れ笑いした李は、机に書を二冊用意した。

 

「蕗狛、どちらも大事な魔術書だ。で、この裏魔術書なんだけど、読み解いて魔術を習得するのに何時間掛かる?」

「あーそうだな、たぶん三時間。精霊系の魔術がいるなら少し伸びて……四時間かなぁ」

 

 蕗狛は二冊の魔術書をパラパラと捲り掛かる時間を算出した。その出した時間を聞いた翠と陽葵が目をまん丸くし驚いていた。一つの魔術を読み解き習得するのに掛かるときは一時間。相性が悪ければどんどん時間は必要となるし、『精霊系』の魔術なんて何時間掛かっても習得できるなんて口が裂けても言えない。

 それをサラッと『四時間』だなんて、魔力の多さが物語っているのだろう……しかし、正直すごいとかそんなこと通りこして呆れる。

 何よりこんなすごい魔力を持っていた蕗狛を十六年も一家総出で隠していたなんて、驚くばかりである。

 そんなことを翠が考えているなんて、微塵も感じない蕗狛は二冊の書を抱きかかえどちらから読み解こうかニコニコしながら選び、「これにしーよう」と、大きな伸びをした。

 

「そんじゃささっと読み解きますか。何個習得できるかなっ」


 蕗狛の楽し気な弾んだ声が隠れ部屋に響いた。

 

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